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春休み企画! 全員掌編掲載祭り! その②

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『どうも、ヤドリギです』穂積 歩夜:その②

 枝に止まったヒレンジャクが、ふんっ、と踏ん張って糞を落とす。
 粘り気のある糞は、紛れもない――ヤドリギの実を食べた証だ。
 身軽になったヒレンジャクは、ぱっと飛んでいってしまい、サクラの枝に糞だけが汚らしく残る。
 春を前に、清々しい気持ちで蕾を膨らませていたところだったのに、どうしてくれよう。
「どうも、ヤドリギです」
 糞の中に混ざっていた、ヤドリギの種が話しかけてきた。
「これから長くお世話になると思いますので、どうぞ、よろしくお願いします」
「やめてくれ。迷惑だ」
 サクラは嫌悪感を剥き出しにして言った。
「いやいや、そう言わずに。ヤドリギって、ほら、縁起がいいんですよ。幸運をもたらすとか、魔除けになるとか。永遠の命の象徴、だなんて言われることもあります」
「その命の源は俺だろ」
「いだだく養分は半分程度です。私も光合成いたしますので」
「その半分が大きいんだ」
「まあまあ、そう言わずに。ヤドリギには『忍耐』なんて花言葉もあるんですから」
「何のフォローにもなってねぇよ。俺が耐えなきゃいけねぇだけじゃねぇか」
「奪うだけではありませんよ。こちらからご提供できるものもあります」
「何だよ」
「クリスマスにヤドリギの下でキスをすると、カップルが永遠の愛で結ばれる、という言い伝えがあるんです。だから、そういうロマンティックな場面に、これからいっぱい立ち会えますよ」
「それ、欧米の話だろ。日本にそんなこと知ってる奴いねぇよ」
「最近は、海外の方も多いじゃないですか。インバウンド対策ですよ」
「求めてねぇよ」
「それに、ほら、ヤドリギって見た目にも変わっているじゃないですか。私がいれば、立ち止まって樹を眺めてくれる人が増えるはずです」
「誰に口を利いているんだ。俺はサクラだ。ヤドリギなんてなくても、春になりゃ、大勢立ち止まって見に来てくれるんだ。むしろ、お前みたいのがいると見栄えが悪い」
「花の季節は隠れてますよ。目立つのは、今みたいに葉が落ちた時期だけです。あなたの見た目が寂しい時期に実をつけますから、結構見応えがありますよ」
「それでも、いないに越したことはねぇよ」
「冷たいですねぇ。これもご縁じゃないですかぁ。私、もうここに決めちゃったんです。どうぞよろしくお願いしますね!」
 サクラは渋々ながらに受け入れる。どのみち自力じゃ振り払えない。拒否権はないのだ。不本意なヤドリギとの共同生活の始まりだった。

 ヤドリギはそれから、遠慮もなしにサクラの養分を吸って、ぐんぐん大きくなった。花の季節は隠れていると言ったくせに、ヤドリギの緑の葉は、サクラの花が満開になっても、確かな存在感を放っていた。
 ――しかし、これがなかなか悪くない。
 近くにヤドリギに寄生された樹がないおかげで、このサクラは、いつしかちょっと知られた存在になっていた。いろんな人が目印にして、待ち合わせ場所にしてくれるのだ。その他多数のサクラではなく、特別な一本になれたことが嬉しい。他のサクラに羨ましがられるくらいだった。
「すいません。最近くもりが続いてるんで、ちょっと多めに養分いただいてもいいですか?」
「おう。でも、俺を枯らすのはやめてくれよ」
「そんなことしませんよ。あなたが枯れたら、私もおしまいですからね!」
 すっかり仲良くなったヤドリギとサクラは、カラカラと笑い合った。
 だが、そんな日々も永遠には続かなかった。
 宿られて三十年も経った冬のある日、急にヤドリギが元気を失くしてしまったのだ。
「私、そろそろ駄目みたいです……」
「弱音吐いてんじゃねぇよ。お前は永遠の命の象徴じゃなかったのかよ」
「五年も生きられないヤドリギもいるんですよ……。私は長生きした方です……。あなたがたっぷり栄養をくださったおかげですね……。本当に、これまでありがとうございました……」
 常緑樹のはずのヤドリギの葉は、今や茶色に変色してしまっている。
「おい、しっかりしろ!」
「もし、また私の仲間がやって来た時は……どうか、よろしくお願い、しま――」
「おい、ヤドリギ!」
 がくりと枝を垂らしたヤドリギは、もう返事をしなかった。

 幹にあたる風が、日増しに温かくなってくる。
 久し振りにヤドリギなしの春がくるのか、と寂しく思っていたある日のことだった。
 枝に止まったキレンジャクが、ふんっ、と踏ん張って糞を落とす。
 粘り気のある糞は、紛れもない――ヤドリギの実を食べた証だ。
 身軽になったキレンジャクは、ぱっと飛んでいってしまい、サクラの枝に糞だけが汚らしく残る。
 既視感のある光景だ。三十年前は、確かヒレンジャクだったけれど。
「ごめんあそばせ。ヤドリギですの」
 糞の中に混ざっていた、ヤドリギの種が話しかけてきた。
「これから長くお世話になると思いますわ。どうぞ、よろしくお願いいたしますわ」
「花の季節は隠れてろよ」
 にやけ笑いを隠しもせず、サクラは言った。

『春は来ます。ただし50年後にと王は言った』照喜名 是空:その②

魔王が東国の覇王から購入した「冬将軍」が卵から生まれてから、はや数十年。
王国は終わらない氷河期に囚われた。
人々は暗く沈み、作物はやせこけ、商売は停滞した。

私たちは勇者パーティーとして魔王を倒した。
私はその吟遊詩人。
だが、冬将軍は最初から魔王城に居なかった。
一体いるだけで国中が雪になるのだから、むしろ隠しておくのは当然だっただろう。
終わりない雪原にたった一匹、人間サイズの敵……見つけるのは、不可能だった。

そして魔王城から見つかった資料もそれを後押しした。
冬将軍は雪女郎と言う番がいないと増えない。
冬将軍の寿命はおよそ80年だと。
そして、魔王は覇王から雪女郎を買えなかった。

だから王は言ったのだ。春は来る、ただし50年後にと。
絶望の世がはじまった。
我々は長く耐えた。つらかった。くじけそうだった。
街は暗く、人心は荒んでいた。

だから私は歌った。
いつか花は咲くのだ。
それは私たちではない。いつか生まれる者のために来るのだと。
私たちは、礎になるしかない。どうあがいてもだ。

そして、50年が過ぎた。
私もおばあちゃんだ。
だが……最近孫が庭で遊べる温かさになっている。
例年弱弱しいつぼみが、今年は多く、強く成っている。
ちらほらと、花が咲いていた。

そうだ。春は来るのだ。
いつかの日は必ず来るのだ。
だから、ざまあみろ魔王、ざまあみろ冬将軍。

そう思って私は目を閉じた。

どこか、雪の荒野で。
外国に輸出されるという異常環境に適応した冬将軍の産んだ卵があった。
300年後の誕生のためにそれは不気味な胎動をしていた。
冬将軍は単為生殖もできるタイプの生き物だった。


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