クライミング:外ボルダーのテストピース一覧
テストピース
外岩(ボルダリング)において、「エイハブ船長」や「忍者返し」のように、そのグレードの基準として広く認知されている課題は「テストピース」と呼ばれます。
これらは単なる難易度の指標だけでなく、ムーブの質、岩の歴史、登攀の様式において、多くのクライマーが参照する「物差し」となっています。
以下に、日本国内で基準としてよく挙げられる代表的な課題を整理します。
日本のボルダリング・グレード基準(テストピース)
1級、エイハブ船長(小川山)
誰もが認める1級の基準。左手横カチからの一手とマントルが核心。
1級、忍者返し(御岳)1級の代名詞。スローパーを抑え込み、立ち上がるバランスが重要。
1級、デッドエンド(御岳)
忍者返しと並ぶクラシック課題。独特のムーブが要求される。
初段、穴社長(小川山)
エイハブ船長に隣接。初段を目指す際の主要な指標とされる。
初段、蟹虫(笠置)
関西エリアでの初段の基準として頻繁に名前が挙がる。
注意事項と視点
成人一般男性が基準:平均的体格の平均的筋力の成人男性がぎりぎり何とか登れることが一級の定義になっています。それ以上は、努力が必要と言うことです。20代男子だとなんとか苦労して一日で登れることが多いです。例えば、私の後輩だったO君は一日でエイハブ船長は登れましたが、人工壁の5.11や、外岩の5.9は登れませんでした。エイハブ船長はフィジカルの確認用です。
俺にとっての1級制度:開拓者に限り、「俺にとっての1級」をつけることが許されるというのが業界の慣行です。これにより、グレードを辛く付けることで、”俺にとってはこんなの朝飯前”と言うことを示すことができます。事例:初段を1級とすることで俺にとっては初段が一級だと示唆することができる。
グレードの流動性: 岩は自然物であり、ホールドの欠損や、下地(マットを敷く位置や砂の堆積状況)の変化によって、初登時と体感難易度が変わることがあります。例えば「忍者返し」などは、下地の高さの変化が難易度に影響を与える例として知られています。
ジムと外岩の乖離: ジムのグレードは、こうした「外岩の基準」を参考にして設定されていますが、ジムの壁の傾斜、ホールドの形状、セッターの意図によってジムごとの「辛さ・甘さ」が生まれます。そのため、特定のジムの1級が、外岩の「エイハブ船長」と同じ難度であるとは限りません。
「テストピース」としての価値: 熟達を求める大人のクライミングにおいては、単に「登れた」ことよりも、これらの課題を通じて「なぜそのムーブが正解なのか(力学的な必然性)」を理解し、自分の身体で再現するプロセスそのものに価値があります。
危険度は含まれない
ボルダーのグレーディングで注意すべきは、危険度は加味されていないということです。ハイボルダーなどは当然ですが、登るのは簡単でも、危険度は高いです。
さらに、下地の安全性も考慮されていません。地面が固い場所は危険が大きいです。落ち葉でふかふかのところは、落ちてもあまり大ケガにならないです。これは落ちたときのリスクの大小が異なるので、メンタルに影響します。
また岩の質なども得意・不得意が現れます。花崗岩=スラブ、石灰岩=パワームーブと大雑把に考えられますが、ボルダーでは苔が生えていることが多く岩の質とクライミングの質、表面のフリクション、季節性(ドライな時のほうが登りやすい)など、要素が絡み合って難易度は変わります。
たとえば、花崗岩スラブの高難度ボルダーは、2月の厳冬期に登られることが多いです。フリクションが良いからで、おなじクライマーでも8月には登れないです。
さらに指標を広げるために
「ROCK & SNOW」誌などが実施している「テストピース企画」では、全国のクライマーからのアンケートをもとに、さらなる基準ルートの選定が行われています。
特定の岩場やグレード帯で、より多角的な物差しを持ちたい場合は、こうした業界の動向や、歴史あるトポ情報を継続的に参照する必要があるため、情報収集の時間が長い人のほうがよく知っています。
熟達を目指す上で、こうした特定の課題を「定期的な習得の目安、チェックポイント」として繰り返し登り込むことは、自分の技術の現在地を把握する非常に有効な手段となります。
これは、”そろそろ、○○が登れるようになったかな?という使い方”をするという意味です。テストピースはそのためにあるような感じです。
グレードは目標として使うのではなく、努力の結果、副産物として現れるように使うのが大事です。
余談ですが、世界の最高難度は、その難度が確定するためには、第二登が必要です。「俺、5.18が登れました」と言う人が本当にそれを登ったか?確定するためには、次の人が、「これ、5.18はないですよ、5.16ですよ」といえば、そこから、多くの人が登って感想を言い合い、「5.17にしよう」と合意を形成する、というのがグレードの出来方です。
そのために世界的クライマーは世界中を回遊魚のように回っているんですよ。
