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『焼肉で学ぶ合理性 〜うさぎ先生とユキちゃんのサンクコスト講座〜』

こんにちは!
今回は焼肉を食べる飯テロ回……ではなく、サンクコストについてのストーリーです!食べ放題や、サブスクなど元を取りたい気持ちは湧きますよね?
今回はそう言った心理を深掘りする回です!

●今回のテーマ
サンクコスト効果
(Sunk Cost Fallacy)
すでに投資したコストにとらわれ、非合理的な決定をしてしまうという理論。客観的な判断を心がけましょう。

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「煙の向こうに揺れる迷い」

――真夜中に近い薄暗い街角、昔ながらの黄色い看板が揺れる小さな焼肉屋。その軒先には赤い提灯が柔らかくゆらめき、店内からは炭火で焼ける肉の匂いと微かな笑い声が漏れ出していた。いつもは静かなこの通りも、今夜ばかりはその香りに誘われるかのように人影が絶えない。ユキちゃんは疲れた足取りでその店先に立ち、隣にいる小さなウサギをちらりと見下ろした。

「先生、見てください! 今だけ食べ放題が半額ですって!」
ユキちゃんはポスターを指差し、いつの間にか目を輝かせている。オフィスでの残業続きで胃がキリキリしていたのに、お得な文字を見ると一気に元気が出るから不思議だ。二年目のOLとして中小企業の販促企画を任されたばかりだが、成果は芳しくない。上司は「これまで投じた予算があるんだから、途中で方向転換はもったいない」と繰り返し、ユキちゃんも「やめたら無駄になるんじゃ」と踏ん切りがつかない。もやもやした気持ちが、美味しいお肉で吹き飛べばいいな、と小さな願いを込める。

「ふむ、半額ね。なかなか賢い誘導だ。」
脇で、雪色の毛並みを揺らすうさぎ先生が、ふわふわの耳をぴくりと動かす。彼は人間だった頃、名の知れた大学でマーケティングと心理学、そしてAIマーケティングを研究していた伝説の教授。しかし、何らかの闇に触れてウサギの姿に変えられた後、偶然ユキちゃんに拾われ、今は彼女のマンションに同居している。寂しがりやで甘い羊羹が好物、だが助言は常に的確で、どこか懐かしい昭和の恩師を思わせる。
「行くといいよ、ユキちゃん。たまには無心で美味しいものに舌鼓を打つのも悪くない。」


店内に入り、炭火の香りとほのかな煙が二人を包み込む。席に着くや、ユキちゃんはさっそく元を取るべく肉を注文した。カルビ、ロース、そしてさっぱりした塩タン。小皿に盛られたタレが輝き、緑色のサンチュが涼しげに揺れている。ウサギ先生はテーブルに用意された子供用クッションの上にちょこんと座り、前足でサンチュをくるりと巻いては一口ずつ味わっている。その仕草は妙に上品で、ユキちゃんは思わず笑みを漏らす。

「先生、なんだか楽しそうですね。その姿、結構かわいいですよ。」
「うむ、毛並みのおかげでヒトにはない優雅さが出せるかもしれないな。もっとも、私はこの姿も気に入っているんだがね。」

肉が焼けるジューッという音が、どこか懐かしい。学生時代、友達と居酒屋で朝まで語り合った記憶や、家族で囲んだ焼肉パーティーの笑い声が頭をかすめる。ユキちゃんはそんな過去を思い出しながら箸を伸ばす。
「いただきまーす!」
一口食べれば、じわりと広がる旨味と脂の甘さ。疲れた心がゆっくりと溶けるようだった。

だが、箸が進むうち、ユキちゃんはポロリと仕事の悩みを零してしまう。
「最近、会社の販促プロジェクトがうまく行かなくて…。上司は『途中でやめるなんて予算が無駄になる』って言うし、私も『今更引き返せない』って思っちゃって…。結局、成果の出ない広告を続けてるんです。」

うさぎ先生はサンチュを巻きながら、どこか遠い目をした。
「ほう、『今まで使ったコストを無駄にできない』というわけか。ユキちゃん、それはサンクコスト効果(埋没費用効果)という心理現象だよ。」
「サンク…コスト?」
「過去に投じたお金や努力を考えるあまり、合理的な判断ができなくなってしまう罠のことだ。たとえ期待した成果が得られなくても、人は『せっかくここまで来たんだから』と無意味な継続をしてしまう。その結果、新しいチャンスを見逃すんだ。」

ユキちゃんは焼けたカルビを頬張りながら首を傾げた。
「でも、やめちゃったら本当に今までの努力が無駄になるじゃないですか。」
「さあ、それはどうかな。試しに君の行動を、ここで実験してみよう。」
ウサギ先生はくるりとサンチュを巻いた肉を持ち上げ、ちょこんと齧る。「今、君たちは『半額で食べ放題』という状況にいるね。先にお金を払ってしまえば、後はどれだけ食べても損はしない、と思えるかもしれない。けれど実は、そこにもサンクコスト効果が潜んでいる。」

ユキちゃんは目を瞬かせる。目の前にある美味しそうな肉を見れば見るほど、食べないと損した気分になる。それと同じで、過去の広告費用も、やめたら全て無に帰すような感じがする。
「でも先生、ここで半額食べ放題を存分に楽しめば、損にはならないですよね?」
「ふむ、表面上はそうだろう。でも、君が本当に欲しいものは何かを考えてごらん。『お腹いっぱい以上に、さらに無理して食べる』ことは、本当に得なのかい?」
「え、それは…わからないです。お金を無駄にしないためには、とにかく食べたほうが得な気がしますけど…」
「そう、その『わからない』という感覚こそが、サンクコスト効果の魔力だ。」

ウサギ先生は小さく鼻を鳴らした。
「この焼肉屋での体験が、君の仕事で抱える問題にも通じるはずだ。過去に投資したリソースに引っ張られていないか、改めて考えるために、ここでひとつ実験をしよう。思い切り食べて、どんな気分になるかを観察するんだ。」

ユキちゃんは首を捻りながらも、頷いた。確かに何事も経験だ。今夜はしっかり食べてみて、後で自分がどう思うか振り返ってみよう。職場での問題解決に、何かヒントが得られるかもしれない。

店内には旧式の換気扇が唸り、小さな昭和歌謡が流れている。隣のテーブルでは中年のサラリーマンたちが楽しげに笑い合い、向こうの席ではカップルがひそひそと語り合っている。どことなく懐かしい空気の中、ユキちゃんは箸を持つ手に力をこめた。

(なるほど、サンクコスト効果か…。明確に理解できないけど、先生が言うからには何か重要なポイントなんだろうな。)

こうしてユキちゃんとウサギ先生は、炭火に照らされる小さなテーブルで、過去のコストと未来の選択をめぐる不思議な実験に挑むことになった。煙の向こう、たゆたう香りとともに、迷いがゆっくりと浮き上がる。
これが、彼女たちの「合理性」を学ぶ最初の一歩となるのだった。

「サンクコストに揺れる舌先」

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