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人手不足で、みんなどこにいった

「弊社は、人手不足です」と口を揃えて、どの客も言う。

取引先の中には、「誰かいい人はいませんか」と、転職エージェントでもない私に相談してくるところもある。

もちろん、半分は冗談のつもりで相談しているのだろう。しかし、人手不足なのは事実。猫の手も借りたい企業がほとんどだ。外資系企業に勤めていたころには感じなかった、日系企業が抱える人手不足問題の深刻さを肌で感じている。

先日、取引先から「退職に伴い、今度から御社の担当を弊社の市谷が務めさせていただきます」と連絡があった。連絡をくれたのは、いつもお世話になっていた山本さんだった。

山本さんは40代後半で、建材メーカーの営業課長だった。フットボールアワーの後藤さんにそっくりだったこので、私は”フットの後藤”というあだ名を勝手につけていた。もちろん、本人には言っていない。

2年前に出会い、先方の部長が「若手のホープです」と誇らしげに紹介してきた。私は入社して間もなかったことから、上司の様子を見ながら愛想笑いに付き合った。

(40代で若手って…笑)

と、我ながら悪いことを心で思っていた。ただ、山本さんはとても優秀で、何度も助けていただいた。だから、山本さんが退職することは正直ショックだった。

一方、新しく担当になる市谷さんは、入社3年目の本当に若手だ。市谷さんは悪くないが、さすがに営業課長クラスから入社3年目へのバトンタッチは互いに酷だなと感じた。

ただ、その点を察した山本さんから個別にLINEが来た。

「若手への引継ぎとなり恐縮です。人手不足で、私の世代が社内にあまりおらず、引き継げるのが若手となってしまいました。部長にも御社のことを共有しておりますので、今後何かございましたらご連絡ください」

山本さんも人手不足を痛感していたようだった。

人手がいないと嘆く企業ばかりだが、みんなどこに行くんだろうと、移民を追いかけるような気持ちを抱く。ただ、世の中が言う「人手不足」は「優秀な人手の不足」のことで、人が足りないというわけでもないのだろう。

終身雇用制度が崩壊して、ヤドカリのように過ごしやすい家を求めてキャリアを自由に変えられる時代になった。その中で、無理に自分を縛り続ける必要性はない。

だからこそ、企業は優秀な人を待っていてはいつまでも来ない。そして、なぜ人が集まらないのか、人が出ていくのかを真剣に考えなければいけない。

今の若手が望む働き方は、スマートな働き方だ。フリーデスクで、出社も自由。すべてWebで完結できる環境下で、プライベートとの両立が実現できる仕事環境。

書類を印刷し、テーマのない会議を対面で続ける企業からは人が離れていく。それを自己認知しないまま、「なぜ若手が集まらない」と言っているのが問題だろう。

実は、山本さんが務める会社もそのような会社で、山本さんはスカウトに合い転職をしたのだ。果たして、愛社精神をどれだけの人が持っているだろうか。

朝、駅に向かうときにすれ違った同い年くらいの男性。スーツ姿でリュックを背負い、スマートフォンで時間を確認しながら早歩きですれ違った。

「この人は、どんな会社に出勤するのだろうか」と、わかるはずもない問いを自然に思い浮かべる。

今日もどこかで、新しいヤドカリが移動を始めているだろう。


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