『ケストナーの「ほらふき男爵」』~名人が語り直すヨーロッパ面白話アンソロジー
こんにちは、きのころです。
FPで、司書で、多趣味。
そんな属性をパズルのように組み合わせながら、
何があっても「生きのころー!」をテーマに、毎日noteを書いています。
今回は、ヨーロッパの面白話の数々を、ケストナー自身が語り直した傑作アンソロジーの紹介です。
ケストナーという作家
エーリヒ・ケストナー(1899-1974)は、ドイツの——
いや、世界を代表する児童文学者のひとりです。
子どもの本だけでなく、文学作品やミステリー、詩、演劇評論など、大人向けの本も多くあります。
ドイツ文学者の池内紀氏は、
「彼は「八歳から八十歳」の愛読者をもつ数少ない作家の一人である。」
と書きました。
さすが、うまいこと言いますよね。
……今だと、「5歳から100歳」かもしれませんが。
子どもの頃、知らず知らずのうちにケストナーの名作に触れた人が、大人になってから、今度は大人向けに書かれたケストナー作品を読んで、改めて「惚れ直したぜ!」なんてことも、少なくないでしょう。
私も、その一人です。
第二次世界大戦期は、反戦作家として、ナチスにより迫害を受けますが、その後も一貫して質の高い作品を書き続け、1960年に国際アンデルセン大賞を受賞しました。
個人的には、
・『飛ぶ教室』
・『エーミールと探偵たち』
・『ふたりのロッテ』
が3大傑作です。(異論は大歓迎です)
特に『飛ぶ教室』については、児童文学史のみならず、世界文学史にもその名を刻んでおり。作品を通じて、作者の思想や人間性に触れ、ケストナーに関しては、とりわけ思い入れのある方も多いのではないでしょうか。
私も、その一人です。
今回は、上記3大傑作ではなく、変化球、というか、
「穴」的な作品をご紹介します。
『ケストナーの「ほらふき男爵」』です。
『ケストナーの「ほらふき男爵」』
「ほらふき男爵」というのは、「ほらふき男爵の冒険」として、
世界中に広く知られている抱腹絶倒のお話です。
ケストナーのオリジナル作品ではありません(念のため!)。
「ほらふき男爵」には、特に決まった作者はいません。
ヨーロッパに伝わる、いわゆる「伝承」のひとつです。
日本でいうと、一休さんや吉四六さんなどのとんち話に近いのではないかと思います。
ですから、誰がまとめるか、誰が語るか、によって、味わいが変わってくるのですね。
私もひとりの「ほらふき男爵ファン」として、個人的には、詩人・ビュルガーが編集し、ほらふき史上最強の挿し絵(ドレ画)を収録した岩波文庫版が、「単体としては総合優勝」かもしれないと思っています。
しかしながら、この本の語り手は、ケストナー!
(それだけでも付加価値倍増)
残念ながら抄訳になりますが、ケストナーの語り口は巧みで、テンポもよく、おなじみの物語が完全に「ケストナーの物語」になっています。
また、この本には、「ほらふき男爵」だけでなく、ケストナーが自分の言葉で語りおろしたヨーロッパの有名なお話が全部で6つも入っていて、これを「お得!」といわずしてなんといいましょう!
ちくま文庫版裏表紙の解説を引用します。
1933年、ケストナーの本はナチスに焼き捨てられた。執筆を禁じられるなか、彼は子どものために広く知られたお話を語り直す仕事を続けた。
「ほらふき男爵」「長靴をはいた猫」「ガリバー旅行記」…。
リズムがちがう。光の当て方が微妙にちがう。
これ見よがしの新解釈を持ち込んだりはしないのに、すべてが新しい。
おなじみの物語の裏で、ケストナーの諷刺とユーモアがきらめく。挿画多数。
その他の収録作品について
さて、収録作品は、下記の通りです。
①「ほらふき男爵」 Munchhausen(1952)
②「ドン・キホーテ」 Don Quichotte(1956)
③「シルダの町の人びと」 Die Schildburger(1954)
④「オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 Till Eulenspiegel(1938)
⑤「ガリバー旅行記」 Gullivers Reisen(1961)
⑥「長靴をはいた猫」 Der gestiefelte,Kater(1950)
この中では、③「シルダの町の人びと」や
④「オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は、日本人にはなじみの薄い話かもしれません。
③「シルダの町の人びと」は、「シルダのおろか者」と訳されることもあります。
早い話が「バカばかりそろっている町」のバカ話です(笑)。
たとえば、「シルダの町の人びと、ザリガニを裁判にかける」は、こんな話。(ネタバレあり)
ある日、ザリガニがシルダの町にやってくる。
町の人びとはその正体について議論する。
町長は「はさみを持っているから仕立て屋に違いない」と結論づける。
でも、布を切らせてみるとズタズタに。
そこからなんやかんやあって、ザリガニは裁判にかけられる。
裁判長は「溺死させるのがよい」と死刑を宣告する。
シルダの町の人びとは「かわいそうだがしかたない。法は曲げられぬ」と刑の執行を見守った。
もう、どこから突っ込んだら良いのかわからないほどのボケの連鎖ですが、もちろん、ザリガニが溺死するわけありません。
こんな話ばかり続きます。——つまり、最高です(笑)。
④「オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」として、岩波文庫にも入っています。
口八丁手八丁のいたずら好きのピエロが、ドイツのあちらこちらで、
人々をだまし、いたずらをして回るお話です。
クラシック好きの人なら、この話を元に、ドイツの作曲家、リヒャルト・シュトラウスの作った交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」をご存じかもしれません。
その他のお話は、もはやおなじみですね。
②「ドン・キホーテ」、⑤「ガリバー旅行記」は、言うまでもなく
今では児童書として子どもにも読まれていますが、元々は大人向けの作品。
奥の深い風刺文学として、これからもずっと読み継がれていく名作でしょう。
子どもが読むなら、完訳版を読むより、ケストナー版を読んだ方が
面白いでしょうね。
⑥「長靴をはいた猫」は、ペロー童話集で有名なあの話です。
ヨーロッパを代表する名作の数々と肩を並べ、トリを飾って、違和感がまったくありません。
最後に
この本は、1993年に筑摩書房より刊行されました。
当時、喜び勇んで本屋まで買いに走ったことを思い出します。
2000年には文庫化されました。
残念ながら、文庫版ではカラー挿し絵の多くがカットされています。
そして、ハードカバー版も文庫版も、現在は絶版です。
嗚呼!
この名著を書店で買えないとは……
今回の記事を読んで、「読んでみたくなった」という方は、図書館で探してみるか、こちらのリンクからAmazonの中古本を探してみてください。
状態の良い本はプレミア化していますが、状態によってはお安いのもあるようです。
今後も楽しい本を紹介していきます。
またお会いできると嬉しいです。
たくさんのnoteの中から、私の記事を見つけて読んでいただき、ありがとうございました。
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<小学生の頃の読書、児童文学への思いを綴った記事>
