オリジナル小説(その貴族傲慢につき)2話


◆簡単な人物紹介◆

ギルバート・グランヴィル。
【地位】
現伯爵家の伯爵
【年】
現在18(過去編16才)
【紹介】
容姿淡麗、知力にも、財力にも恵まれたそんな一人の青年は、この街では傲慢で、曲者変わり者と噂されていた。

ダグラス・グランヴィル。
【地位】
元伯爵家の伯爵
【年】
現在20(過去編18才)
【紹介】
明るく穏やかで気立てが良く、努力家で人々にも愛されていたギルバートの自慢の兄。
社交界では太陽の貴公子と呼ばれていた。
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◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルバート・グランヴィルの朝は早い。
毎度カーテンから覗く僅かな陽光を浴びて目を覚ます。
…だが、今日はいつもと様子が違っていた。
『最悪な目覚めだ』
うんざりそうに、顔をしかめ濡れタオルで顔を拭く。
夢をみた。
それもとびきりの悪夢を。
何の嫌がらせか、ごくたまに同じ夢を見る。
それは過去の苦々しい事件の記憶であり、ギルバートは思い出すたびに眉間にシワをよせた。
『ギルバート様。お水をお持ちしました。』
『そこに置いてくれ。』
『かしこまりました。』
メイドのアシュリー・フローレスが朝の身支度へとやってきた。
彼女は、ギルバートの専属メイドであり、幼い頃から仕えてくれている。
『今朝は、ご気分が優れませんねギルバート様。何か宜しく無いものでも…』
『たまにある悪夢だ。』
『悪夢…ですか。』
『愚兄のダグラスの過ちを夢に見た。もう、終わったことだ。』
『…ギルバート様。』
アシュリーは、ギルバートの顔を見つめると、そのまま口を噤んで後ろへと下がった。
『さて…』
何をして過ごすか…。
折角の休日だが、特にこれといってしたい事が思い浮かばない。
ギルバートは読みかけの本を片手に椅子にもたれかかると、ふと過去の出来事を思い出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルバートは、裕福な家庭に育った。
穏やかで気立ての良い兄を持ち
地位と名誉を兼ね備えた両親の元に産まれ、
彼の傲慢な性格はそんな家庭環境からだろう。
ギルバートの両親は、そんな出来の良い息子を大層可愛がり、また厳しく育て上げたが、当の本人ギルバートはそんな両親にうんざりしていた。
己の存在が他よりも優れているという事は自負している。
だが、だからといって過剰に持ち上げられるのは好まない。
『ハァ』
子供にしては子供らしからぬ言動と様子に周囲は彼を遠巻きに見物している。
馴れ合いを好まない孤高な彼としては、今の状況は好都合なのだが…。
あまりジロジロと見られるのも癪なので、そんな時はそそくさと一人、人気のない場所を探し息を潜めている。
『ようやく、一息つける。』
パラパラと本のページを捲り、木陰で一人読書を楽しんでいると、上空から声がかかった。
『ギル!!』
『!………っ。?ダグラス兄さん』
『今そちらにいく。そこを動いてくれるなよ?』
有無を言わせずに、二階の窓から木に飛び移りこちらへとやってくる。
『ふぅ。良かった良かった、止まってくれて。』
『止まるも何も勝手にこちらに来たのではないですか。』
『まぁまぁ。ギルは相変わらずお堅いなぁ〜。そういう時は、素直に笑顔で迎えてくれていいんだよ?』
『……で?貴婦人達を置いて兄さんは俺に何の用ですか?』
『ん?あぁ〜…。父さんと母さんがギルを連れてこいって、俺はそのお使いさ。』
『……それはどうも。』
『さ、行こうか?』
手を差し出してくるダグラスにぶっきらぼうにこたえると、二人は両親のいる部屋へと移動した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
暫くして、両親の居る部屋へと辿り着いた二人は、部屋の扉を開き姿を現した。
『お待たせしました!』
『…………。』
『待ちかねたぞ』
両親の顔を見るなり分かりやすい程嫌そうな顔をし、兄の隣に並ぶギルバート。
父のアイザック・グランヴィルは、そんな息子にため息をおとすと、人差し指で机をトントンと叩いた。
『まぁ、座りなさい。』
『さぁ、ダグ、ギル。二人ともこちらへいらっしゃい。直ぐ紅茶を淹れさせるわね?…ほら!早くなさい、お父様から大事なお話があるのよ?』
母のレイラ・グランヴィルは、息子達を席に誘導するとメイド達に紅茶を淹れるよう指示をだした。
『さて、お前達を呼び出したのは他でもない。これからのグランヴィル家の家督について、話しをしておきたかったからだ。』
『!』
『…家督……成る程。』
チラリと横目に兄を見つめ、その先の言葉を待つ。
『ダグラス、次の伯爵はお前だ。…私は今ある爵位をお前に譲ろうと思う。お前はもう18だし、素養もしっかりと身についている。』
『父さん!!』
『世代交代の頃合いだろう。……だから、これからはお前がこの領地を、皆をまとめていきなさい。』
『はい!!』
『…期待しているぞ』
パッと咲く花のような笑顔を浮かべるダグラスを見つめながら、この場に貴婦人達が居なくて心底良かったと胸を撫で下ろした。
きっとこの場に居たらドミノ倒し式で倒れていたことだろう。
それだけ、兄のルックスは整っているからだ。
『ほら、ギルバート。お前は兄を支える事に尽力するように!』
『……はい。』
『ギル。サポートは頼んだよ?』
『わかってます。』
ギルバートにとっては、貴族階級の地位等何の興味もないものであり、寧ろ自由に立ち回れる今の状況が気に入っていた。
『話は以上だ。もう自由にしていいぞ。』
『なら、俺はこれで』
『あら、ギル。もう自分の部屋に戻るの?』
『読みかけの本の続きが気になるので』
そう言って早足で部屋を出ていく弟の背中を見送ったダグラスは、同じく部屋を出て廊下を歩きながら高揚していた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(認められた。)
父親が今まで勤めてきた大役を、次は自身が引き継ぐ番だと理解した瞬間、身が引き締まると共に気持ちが高ぶった。
期待しているという言葉が心中でリフレインする。
(これでやっと…俺は)
キュッと口を結んで弟を頭に思い浮かべる。
(兄として、伯爵として上に行ける!!)
口元が緩むのをどうにかこうにか止め、前を向くとダグラスは自身の部屋へと戻る途中、ふと聞こえた話し声に足を止めた。
『?』
『めでたいなぁ!めでたい!!』
『そうね!今夜はお祝いだと聞いたわ。』
『なんたって新しい伯爵様の誕生だからな!!』
どうやら、メイドと執事達の耳には既に新しい伯爵が決まったという話が伝わっているようだった。
『アイザック様の後を引き継ぐのは、嫡男であるダグラス様。ダグラス様は幼少の頃から努力家でこの伯爵家の為にと社交にも積極的であったし、あのお人柄のせいか人にもよく好かれて人脈の広いこと。人の上に立つ器としては申し分のないものだと思うわ。』
『そうね~、あのお方を拒むものなんていないでしょう。あの甘いマスクを向けられたらもうイエスしか言えないわ。』
『坊っちゃんの努力がようやく実ったんですね〜!』
『ダグラス様が伯爵になるなら安泰ねー!』
和気あいあいと話に花を咲かせるメイド達に気恥ずかしさを覚えたダグラスは、その場からゆっくりと退室しようとして足を進めると、次の瞬間冷水を浴びたかのようにその場で凍りついた。
『でも、ちょっと残念。』
『…?』
『ダグラス様は確かに文句無しの器だと思う今回の爵位の引き継ぎに反対する者は居ないと思いますよ。…だけど』
『ふと、考えてしまうことがあるんですよね。』
『考えてしまうこと?』
『そう。…弟のギルバート様いらっしゃるでしょう?』
(ギル?)
『それがどうかしたのか?』
『ギルバート様は幼い頃より他を寄せ付けない程優秀で、性格や人付き合い等の難はあるけれど、それでも目を見張る者があるというか…』
『確かに、あのお年で日々様々な文献を手に知見を深めていらっしゃるのをお見かけする。』
『俺達には到底分からないけど、天才って奴なんだろう。能力は圧倒的に弟のギルバート様だ。彼の右に出るものはそういない。』
『えぇ。もしもギルバート様が弟ではなく兄だったら…この伯爵家は敵無しの城になったのでは?……なんて考えてしまったのよね。』
『まぁ、確かに…天性のものを比較で出されてしまうとなぁ。』
(………何だそれは?)
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