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SS【ちゅるん】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「鍋の具は」に参加させていただきます☆

お題「鍋の具は」から始まる物語

【ちゅるん】(898文字)


「鍋の具はなにがいいの?」
鍋が食べたいという息子にそう尋ねると、返ってきた答えがこれだ。
「はるさめとマロニーとおそうめん」
「……カズくん、お豆腐とかお野菜もいるんじゃない?」
「今日はいらないの」
今日は初めて二人だけで迎える誕生日だ。息子は五歳になる。
私は、ヘンテコ鍋も今日くらいはいいかな……と思う。

材料を揃えて(すべて台所にあった)、出汁だけはたっぷりの鰹節と昆布で丁寧にとり、薄口醤油と塩で味付けする。
鍋はあっという間にできあがった。
「カズくん、できたよー」
「わー!きれい!」
白く透明な鍋の具は、蛍光灯の下で清らかに輝いている。
息子のお椀に具材を入れ、出汁を注ぐ。
「おたんじょうびおめでとう、カズくん」
「うん、いただきまーす!」
息子は満面の笑顔でそれを受け取り、すぐに食べ始める。
ちゅるちゅる、ちゅるちゅる……ちゅるんっ
私も自分の分を箸ですくう。
ちゅるん……ちゅるん……
三種類の具材たちは、するすると喉をすべり落ちていく。
どこにもひっかからない。
その感じがとても気持ちよくて、私も息子もしばらく黙々とすすり続けた。
ちゅるちゅる……ちゅるん、ちゅるん……

思えば、三人で鍋を囲んでいた時は鍋の半分は肉で覆われていた。
生まれつき肉が嫌いな息子は、その匂いと見た目に顔をしかめて食べようとはしなかった。
しかし大の肉好きだった夫は、息子にも無理やり食べさせようと、お椀に肉を放り込んだものだ。
「ぼく、おにくたべたくない……」
「なんでも食えるようにしつけなきゃダメだろ」
泣いている息子を横目にガツガツと肉を食らいながら、あの人は私にそう言った。
自分だってきらいな野菜は一口だって食べなかったくせに。
泣いている息子の前で冷めていくお椀みたいに、私の心も冷めていったのだ。

「カズくん、おいしいね」
「うん、ちゅるちゅるおいしー」
息子におかわりを手渡しながら、私はあらためて思う。
もう二度と息子を泣かせるもんか。
その決意もまた、つるんと喉をすべり腹に落ちた。
どこにもひっかからずに。

息子は受け取ったお椀を大事そうに抱え、にこにこと食べ続けている。
ちゅるん、ちゅるん
清らかな光に包まれた鍋は、まだまだたくさんある。


おわり



© 2025/11/24  ikue.m


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