SS【幸運】#シロクマ文芸部『レシートに』
小牧幸助さんの企画「レシートに」に参加させていただきます☆
お題 「レシートに」から始まる物語
【幸運】(1066文字)
レシートにも悲しみはある。
「あ、レシートいりません」
生まれてすぐにこんな言葉を聞かされたらどう思う?
自分を受け取ってくれるはずだった人は、背中を向けて遠ざかっていく。
ボクは不要レシート用のカゴに捨てられる。
生まれた瞬間にお役目終了。
カゴの中にはボクと同じ運命だったセンパイレシート達がひしめいている。
「おぅ、来たか」
「いらないって言われました」
「うん、ひでぇよな」
「運のいいレシートはサイフに入れてもらって、カケイボっていうのに貼ってもらえるらしいけどな」
「いいなぁ……VIP待遇ですね」
「でもあきらめるなよ、兄弟。オレたちにもまだチャンスはある」
「そうなんですか?」
「オレたち、背中は真っ白だろ?そこに利用価値があるらし……」
気のいいセンパイが言い終わらないうちに、ボクは誰かの指につまみ取られた。
「あ!いきなりかよ!センパイのオレたちを差し置いて……」
センパイの声が遠くに聞こえる。
ボクは、気づいたらどこかの机に押し付けられていた。
細い棒みたいなのがボクの背中をかいている。
カリカリカリカリ。
なんだかくすぐったい……なにをしてるんだろう。
リヨウカチ、という言葉が思い出される。
今、ボクはリヨウされているのかもしれない。
生まれてきた甲斐があった?
しばらくするとボクは背中に何かを貼られ、机に固定された。
隣になにかモノが置かれた気配もあった。
そのまま時間が過ぎていった。
ボクはウトウトしていたらしい。
気付くとボクは誰かの手の中にいた。
人の手って温かいな……。
「この前のお礼です、だって。フフ」
手の主は、ボクを丁寧にたたむとポケットに入れた。
カサカサと音がする丸いものと一緒に。
ふんわりと温かい暗がりの中で、また時間が過ぎた。
次に明るい場所に出た時、ボクは初めて手の主の顔を見た。
若い、かわいい女の人だ。
ボクをひっくり返しながら何度も見て、うれしそうに微笑んでいる。
そして丸いカサカサしたものを開くと、少し眺めてから口に入れた。
甘い香りがする。
彼女は再び、ボクを丁寧にたたんで仕舞った。
ボクはそれから長いながい間……彼女と共に過ごした。
「私ね、あの時のレシートまだ取ってあるのよ」
「三十年以上前じゃないか?捨てろよー」
「いやよ、はじめてのあなたからのプレゼントと手紙だったんだもの」
「レシートの裏に飴玉一個だぞ……」
「いいのよ、うれしかったんだから」
シワが増えた彼女の温かい両手が、ボクを優しく包む。
茶色くなり、字も薄くなり、ところどころ破れかけているボクを。
レシートにも喜びはある。
ボクは多分、いちばん運のいいレシートだったに違いない。
おわり
© 2026/4/18 ikue.m
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