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SS【言葉】#シロクマ文芸部『ひとりごと』

小牧幸助さんの企画「ひとりごと」に参加させていただきます☆

お題 「ひとりごと」から始まる物語

【言葉】(1333文字)


ひとりごとが増える理由を検索してみたらネガティヴなことばかりでウンザリした。
前頭葉の機能低下だとか、記憶力低下を補ってるとか、孤独感を解消しようとしてるとか……。
ひとりごと、漢字で書くと『独り言』……スン。
独りじゃわるいかよ。
いいじゃん、ひとりごとくらい言ったってさ。
ひとりごとくらい自由に言わせろ!なんにでも理由をつけるな!
と、今度はわざと大きめの声で言う。


とはいえ、私はやっぱり孤独で寂しい前期高齢者なのだろうか?
いや!そんなことはない!
また声に出してエイヤッと立ち上がると、財布だけつかんで外に出た。
陽光に満ちた温かな空気を胸いっぱいに吸い込むと、少し気分がよくなった。
桜は散り始めているが、つつじがチラホラと咲き始めている。
道路わきにはタンポポが笑っている。
いいキモチ……。
またひとりごと。


途中、気になっていたカフェに入ってみる。
半年くらい前にオープンした、シンプルなデザインのちいさなカフェ。
カウンターの中には店主らしい若い女性がひとり。
いらっしゃいませ。
ニコリと微笑みかけられる。
お好きなお席へどうぞ、と言われて窓際の明るい席を選ぶ。
今日はまだ飲んでいなかったな……と、珈琲を注文する。
店内にはBGMもなくシンとしている。


おまたせしました。
そっと置かれたカップからは、丁寧にハンドドリップされた珈琲のいい香りがする。
ああ、いい香り……。
ついいつもみたいに呟くと、女性が低い声で言った。
ありがとうございます、ごゆっくりどうぞ。
そのシンプルな言葉は、私の胸に静かに沁みた。
ごゆっくりどうぞ……。
定型だけれど、心からの言葉だと感じた。
私は思わず顔をあげて女性を見る。
彼女は静かに微笑んでいる。


あの……、聞いていいですか?
思わず声が出る。
店主さんは、お一人でこのカフェを?
はい、そうです。
一人でいると……ひとりごと言っちゃったりしません?あ、ごめんなさい、変なこと聞いて……私がよく言っちゃうものだから。
女性は、フフッと笑うと言った。
あります、あります、しょっちゅうですよ。
あら、まだお若いのに。
わたし、ひとりごとって自分を応援してくれる声だと思ってるんです。
……応援?
はい、一人だとすこし辛い時もありますけど……思わず出ちゃう声に励まされること多いんです。なんていうのかな……わたし、生きてるなぁ、がんばってるなって客観視できるっていうか。
へぇ……、そんな風に考えたことなかったわ。
わたしは一人だけど独りじゃない、って感じです。
いいわね……それ、採用!
私は嬉しくなって親指まで立ててしまった。
彼女もちいさく笑って親指を立てると、ごゆっくりどうぞ……と再び丁寧に言ってカウンターの中へ戻って行った。


一人だけど独りじゃない。
ひとりごとは私への応援。


珈琲は、とてもとても美味しかった。
カウンターの中の彼女は、私と言葉を交わしたからといってそれ以上踏み込むわけでもなく、ほどよく気配を消して佇んでいる。
とても居心地のよいカフェ。
世界もこんな風ならいいのに……と思う。
他者を尊重しながら、適度な距離感で緩やかにつながっている。
ひとりごとだって優しく受け止められる世界。


言葉とはすべからく、人を愛し励ますべきものなのだ。
そんな思いがどこからか湧いてくる。
私を応援するみたいに。



おわり

……もちろんフィクションですよー。


© 2026/4/11  ikue.m





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