SS【二杯目】#シロクマ文芸部『眠れない』
小牧幸助さんの企画「眠れない」に参加させていただきます☆
お題 「眠れない」から始まる物語
【二杯目】(718文字)
眠れないのは二杯目の珈琲のせい。
久しぶりに会えた彼とのディナー。
あの時なにを話したんだっけ?
私だけが話していた気もする。
ああ、ますます目が冴える。
食後の珈琲を飲み終えた時、彼が言った。
これでさいごにしよう。
え?うん、もうお腹いっぱい……。
空っぽのカップを持つ手が震えた。
おれたち、今日で、さいごにしよう。
彼は一言ずつ区切りながら、言い直した。
言い直さなくたって、わかってる。
わたしたちは、きょうで、おわる。
どうして?
と聞きたかった。
でも声が出なかった。
私は答える代わりに手を挙げた。
珈琲のおかわりをください。
彼は驚いた顔をした。
二杯も飲むのか?眠れなくなるぞ……
今日でさいごにしようって言われただけでも眠れないよ!
と言いたかった。
でも声が出なかった。
私は答える代りにまた手を挙げた。
珈琲のおかわりをください。
彼は驚いた顔をした。
誰が飲むんだ?おれ二杯も飲んだら……
あなたは眠るつもりなんでしょうね。
肩の荷をおろしたみたいにぐっすり。
そんなのずるい。
私はやっと声を振り絞った。
今日でさいごでいいから、この珈琲は飲んで。
彼は眉間に皺を寄せた。
私たちは、運ばれてきた二杯目の珈琲を飲んだ。
黒くて苦いだけの飲み物を。
いやがる舌と胃袋にグイグイと押し込んだ。
そしてほぼ同時に飲み終えると、カップを静かに置いた。
なんだか儀式みたいだな。
彼が苦笑した。
私もたぶん苦笑した。
彼がナプキンを差し出したから
泣いていたのかもしれないけど。
それでも今、眠れないのは二杯目の珈琲のせい。
彼のせいじゃなく珈琲のせい、珈琲のせい……。
彼もきっとまだ眠れないでいるだろう。
二杯目の珈琲のせいで。
たとえ誰かといたとしても
眠れない夜の呪いが解けるまで……彼はまだ私といる。
おわり
© 2026/4/26 ikue.m
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