【ピリカ文庫】コスモス ~ 次の秋もその次の秋も君と【ショートショート】
「明日の日曜、ドライブに行こうよ」
ユキからのLINEに俺はちょっと迷った
映画を観に行こうと思ってたけど…次にするか
『いいよ、どこに行く?』
「阿蘇に行きたい。9時半にいつものところで待ってるね」
『いつものところってユキの家の前だろ 笑 』
「あはは、よろしくね」
翌朝、ピンクのカーディガンを羽織ったユキが待っていた
「おはよう。今日はドライブ日和だねー」と言いながら車に乗り込んできた
「運転手さん、まずは大観峰まで」
『へい、がってんだ』
助手席でユキが笑う
『ピンクを着るなんて珍しいね』
「ちょっとね。おかしい?」
『似合ってるよ』そう言うとユキは嬉しそうだった
阿蘇は、すすきが風に揺れてもう秋の気配だ
俺達は大観峰で雄大な景色を眺めた後、阿蘇神社へ移動した

お参りの後、神様に何をお願いしたのか聞いたが笑ってごまかされた
ユキがおみくじをひこうと言った
末吉だったユキは「ダメだ」と何度もひいて、5回目でやっと大吉が出ると、急に「お腹空いたね」と無邪気に笑った。まったく現金なやつだ
門前町商店街の「あか牛丼」ののぼりにつられ店に入った
「あか牛丼美味しい!これ大好き」ユキは子供のように喜んだ

ユキの行きたい場所をいくつかまわり、ドライブの最後は萌の里にコスモスを見に行った
日曜日の夕方のせいか人は少なく、一面のコスモスにユキは嬉しそうだった
「コスモスの花言葉はね、赤は乙女の愛情、ピンクは乙女の純潔…」
『全部乙女なんだな』
「黄色は野生の美しさだって」
『ユキはそれだな』
失礼だとユキは笑った
そろそろ帰ろうかと立ち上がると、ユキはコスモス畑に入っていった
夕陽とコスモスの風景にピンクのカーディガンのユキは溶け込んでいた
深呼吸をひとつして、ユキが俺に背を向けたまま言った
「私、ガンだって」
『え?』
「悪性リンパ腫なんだって」
俺はあまりの驚きに一瞬思考が止まった
「この…胸の真ん中のしこり、それだって」
ユキの背中が小さく震えていた
明るく振る舞う為のピンクのカーディガンだったのか
俺は駆け寄りユキを抱きしめた
『俺がユキを支えるから、俺がユキを守るから』
ユキは声をあげて泣いた
次の秋もその次の秋も一緒にこのコスモスを見に来る
俺は誓った
🌷 🌷 🌷
「ピリカ文庫」
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