妄想日報 7月23日「方広寺鐘銘事件」
8:46出勤。
ナオさんから、仲の良い女性「Aさん」のソノ「ご友人関係」についてのお話。「Aさん」は、いつも一緒にいる友人「Bさん」がともすると自分の悪口を方々で言っていることをこれまで何度も聞き及んでいるのだそう。
ひとまず見過ごしてはきたものの、今回はご本人「Aさん」の代わりにうんと憤激したお仲間「Cさん」から、ご本人への耳打ちと「わたしがBを泣かそうか?」との「任侠」サービスのご提案までもがなされたそうで。
「だから『Aちゃん』のほうも、そうやって周りの人にまで迷惑かけちゃうのもなあと思って、ついに『Bさん』のほうに面と向かって言ったらしいのね。つとめて穏やかに
『あなたがわたしの悪口言ってるの知ってるよ。だって耳に入ってくるもん』って。『でも、わたしどころか周りの人にも迷惑かけるから、モウそういうのやめようよ』『文句があるなら直接言って』って」
すると、焦ってわざとすっとぼけたお相手は
「『いや、悪口なんて言わない言わない!えーっ?だって、まずわたしがそれ言っても何の得もないもんなあ。ココ二人、仲良いほうが絶対いいもんねえ?だから、悪口言う得がまずわたしにないもんなあ…』なあんて言って、首傾げちゃってんだって!」
皆が爆笑してから「うわっ!なんか…」と呆れたり、「出たあ!」とニタニタ苦笑したりする。
「それだけじゃなく、ソノ人、その後さらにね
『あ、そっか。でもね、たまにヒトから、アナタたち二人ってホント仲良いよねとか言われると、いえいえソンナソンナ、とか思わず言っちゃってるときはある。謙遜してね!
きっとソレがよくないんだナー!こういうとこ、アナタへの感謝が足りないのかもしれないな。その点はゴメンナサイ!本当にわたしは日頃のアナタへの感謝が足りないんだと思う。…その点はゴメンナサイ』
とか、伏目がちに言うんだって!」
皆がもう口々に「あー。それ!」「なんかよく聞くやつ!」「ウソつく人の常套句というか、鉄板のフォーマットですよね!」と言って、改めて呆れてゲラゲラ笑う。
ソコを「皆さん、エライ楽しそうですね!」と、午後からの外出の用意で通りかかった、お隣の課の入社三年目の秀頼さん。昨年まで大阪支社の最前線でバリバリ活躍していたその若き「豊臣のエース」は
「わたしは、アッチでほら、例の『方広寺鐘銘事件』、アレでポカやってまいましたからね。アレさえなかったらなあ。皆さん、顔には出しはらへんけどご存知でいらっしゃるでしょう?
わたしのほうでお寺さんの鐘こしらえて、ソコに刻んだ銘が『国家安康』『君臣豊楽』の文字だったんですよ。コレ徳川さんのほうでエッライ怒りはって。
『家康』はんのお名前の『家』と『康』が分断されとるわあ!胴体からぶった斬られてマジックショーみたいなっとるやんけえ!って。ほいで『豊臣』のほうは『君』主として、ソノかっぱーふぃーるど鑑賞して『楽』しんどるんちゃうんかあ!って。
もーヤイヤイヤイヤイ。ワシとこバカにしとんのかー、それどこか呪詛してこましとるやんけワレぇー、ってもうさんざん。
でも、実際はコレほぼほぼ向こうさんの仕掛けた言いがかり、策略なんですよ。こちらを攻め込むための。さっき皆さんおっしゃってたみたいに、アチラさん、明らかにウソついてるときの言い方でしたもん。ごっついハメられましたわ。まイマ言ってもしゃーないしゃーない」
そんな被害者の立場として、悲痛に縷々訴える秀頼さん。だが、その間の事情にわりと通じていそうな様子のナオさんがかなり慎重な口ぶりで
「そっかあ。でもさ、あの件については、お名前、つまり『諱(いみな)を分断する行為は、当時の常識でも失礼に当たることは現場でも共有されていた』みたいな社内調査の結論だったよね、たしか。
その点は、秀頼さんはどう思ってらっしゃるの?いやサ、やかましいおばちゃんの素朴な疑問としてネ」
すると、途端に往年の「レーザーレーサー」着用バリに高速で目が泳ぎ始めた秀頼さん。
「あ、マ、マ、マそうですねえ。…えっ?あれ?でもなんでやろ?そもそもですよ、わざと諱を分断する得が、まずわたしにないもんなあ。だって、人間同士って仲良いほうが絶対いいですやん?だから、お相手を侮辱する得が、まずわたしにあらしまへんもんなあ…。
あ、マアでも、鐘が出来上がって、シユッとしたカッコええ銘やねえ!って周りのヒトから言われたとき『アホか、そないなことありまへんわ』みたいなザツな返事はしてまいましたから。それが良くない感じで受け取られたかもしれへん。その点はゴメンナサイ!
そういうガサツなトコが、わたしどうもあきまへんわね。…そこは先方さんにも、皆さんにも、心からゴメンナサイやね」
と伏目がちに言った。
彼の肩越しにうなずいたみんなが「ほならクロ確定、完オチでおま!」という強い強い目配せを交わした。
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