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妄想日報 6月9日「ティラミス」

8:47出勤。
新卒のアヤさんはわりかしバリバリ。残業だってどんと来いという精神。「わたし昭和でもよゆうで呼吸できたと思いますよ」と勇ましい。
珍しく「…ちょっとだけ座ってもいいですか?」と、次長の隣の空いていた席に座り、次長と二人バブル期の仕事ぶり遊びぶりの話に花を咲かせる。
それを見逃がすまいと、どこからともなくティラミス部長が現れた。お召し物から言葉づかいから、まさしくバブル期の申し子のごとき部長。その面影はいまなお色褪せず
「オレはもお、あの頃ブイブイだったからネー!『Hanako』にも掲載されたりなんかしちゃって。ブームんなっちゃったりなんかして。
景気もよかったから、毎晩やれザギンだ。やれギロッポンでシースーだ。わりぃオナカマもわんさかいて、ソイツらのおーメアテはパイオツカイデーのチャンネーだなんだー。みたいな!」
あんなにバブル期に思いを馳せていたはずのアヤさんが、いつしか不快を喉もといっぱい押し込まれたような顔をしている。
「マ、オレはおとなしいもんだったけどネ。でもとにかく人気はあったから、ニセモンまで街に出現しちゃってサ。
オレはこれモンのザバイオーネーとマスカルポーネーのクリームに、ヒーコーぶっかけーのスポンジきーじーで層にしてーの、仕上げに上からココアのウダパーどどん!みたいな!でもニセモンはただのカスタードとか生クリームなんだヨナ。いるだろ?巷にニセモンうようよと」
「あ、はあ」と、ここまで黙ってヒタイにシワを集め、身体を硬くして聞いてきたアヤさん。そのアヤさんに、ティラミス部長はこわいほど甘く大人っぽく微笑むと
「お嬢さん、わたしの名前のティラミスってさ『私を上げて』って意味なのネ。要するに『私を元気づけて』ってコト。わたし、あなたとお喋りできたからとっても楽しくて、すっかり元気いただいたよ。あなたから『ティラミス』もらっちゃったな。
だからね、今日はもうあなたこれで上がっていいヨ。朝から体調わるいのに無理してたでしょ?サ、上がった上がった!ほら『私を上げて』って。コイツは、わたしからあなたへの『ティラミス』のお返しネ」  
アヤさんが「チャオ!」というキザな部長の挨拶に見送られて出ていくと、部下への気づかいで負けて、なんとも悔しげな次長が
「ちっ、やるねえ。バブルめ。タラシだなあ。なにしろ、あの濃厚であざといコクのあるクリームとあのずるがしこい苦さが決め手だね」
と、ソツのない食レポみたいな負け惜しみを言った。

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