食べたの、だぁれ?
ピンポ〜ン♪
日曜の昼間にチャイムの音。
宅配業者が持ってきたのは、グリーンの箱。
チラ見でわかる。
メロンの箱だ!
そう、あれは『クラウンメロン』
知っている。
知っているとも。
あの甘い甘い芳醇な味。
何度かお迎えしている。
いつかの記憶がよみがえる。
サインをし、丁寧に手渡され両手に抱きかかえる。
箱のサイズから2玉あるのがわかっていながら、上下に揺らし重さを確認する。
重い。重いぞ。
「メロン!メロン!メロンもらったー!」
「えっ⁈ メロン⁈」
「なんで?どこから?」
「うわっ!すごっ!クラウンだー!」
感嘆符と、疑問符が飛び交う。
いつもの5割増しの声の大きさに耳がキンキンする。
送り主を確認し、早速お礼の電話。
夏のご挨拶を兼ねて、法事の香典のお礼とのこと。
メロン好きなのを覚えていてくださり、喜ぶものをと選んでいただいたようだ。
ん〜、受け取る側のことを考えてのナイスチョイス。いつもながら、頭が下がります。
「一つは仏壇にお供えしてね。」
言われるまま夫に伝えて、顔を見合わせた。
今、私たちは珍しく思っていることがシンクロしているはず。
いつも全く違う方向を見ているのに。
そう、何年か前にスーパーでそこそこのマスクメロンを買ってきたときのこと。
食べ頃まで日数があったので、仏壇にお供えした。
正確に言えば、とりあえず置いておいた。
直射日光が当たらず、ここが涼しそうだからという理由で。いい加減な子孫で申し訳ない。
ツルの確認、お尻の部分をチェック。
食べ頃だ。いただこう!
ささーっと仏壇からおろし、3時間ほど冷蔵庫で冷やして「さぁ、そろそろいいだろう」と、ワイワイ言いながら、メロン入刀。
思い切り期待して、フォークで一切れパクリ。
「あれ?」
同時に首を傾げた。
ん?
どうした、メロンよ。
全くもってメロンらしさが感じられない。
おかしい。味が淡白で甘味が薄い。
知っているマスクメロンとは、ほど遠い物足りなさよ。
そこで出された結論は、
『ご先祖様が、うまい、うまいと、よってたかってチュウチュウ吸ってしまった』
である。
ご先祖のせいにするとは、ふとどき者きわまりないが、賛成多数(2名)で可決された。
我が家の仏壇には、私たちが知らない方々が結構いらっしゃる。
祖父が当時住んでいた東京から、この地へ移り住んだとき、何人かの位牌を持ってきたそうだが、その方々がいったい何者なのか誰も知らないと聞いている。
しかし、今回は2玉ある。
ご先祖様はじめ皆々様にも十分に味わっていただけるはず。
さて、と。
グリーンの箱には『最高級』の文字。
庶民にはまぶしすぎるぞ。
メロン農家さんの自信と誇り。
確かにバトンは受けとりました。
では、参ろう。
いざ、開封の儀。
テープを恐る恐るカッターで切り、蓋の切り込み部分を開けて…
…開かないっと。
『最高級』は、輸送途中の事故に備え、かなり分厚い箱になっていて、指が、爪がやられる。
これがメロン農家の心くばり。届くまでは何としても箱を潰してなるものかということか。
不本意ながら、選手交代。
夫がオラっと勢いよく箱を開けた。
「おぉ〜!」 × 2
はぁ〜 いい匂い。
箱に書かれた食べ頃にはまだ早いものの、すっかり成熟したメロンの甘い香り。
初夏の匂いがする。
食べ頃にはいったいどんな匂いで誘ってくれるのか。
薄い白い紙に守られて、うやうやしく包まれた1玉をゆっくり取り出す。
ツルがT字型になっている。1本の木に1つだけ実をつけ、栄養を全集中させるという。
青い王冠マークのシールがブランド力を物語る。
農家さんの汗と涙と努力の賜物。
ありがたや。
仏壇用のお盆にそーっと乗せる。
チーンとおりんを鳴らし、さぁ、さぁ、存分に召し上がれ。
いえ、いえ、遠慮はいりません。お先にどうぞ。生身の人間は、あと1週間ほど待ちますので。
クラウンメロンが来た日。
我が家は声のトーンが大きくなり、幸せな未来に包まれた。
と、言いたいところだが、食べてみるまで油断ならぬ。食べ頃サインを見誤ってはならないのだ。
残りの1玉を見つめながら、夫が真顔で言う。
「仏壇から離れた場所に置いておこう。こっちまで食べられたら、たまったもんじゃない。」
何とも食いじがはった子孫である。
