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耳をすませばの知られざる魅力を語りたい。〜物語構造編〜

衣装箪笥からつながる世界で冒険する、あのお話。
雑貨屋の扉から、友だちと魔法界へ飛び立つ、あのアニメ。

子どものころの私は、大変な空想好きであった。
もしかしたら。
私の毎日にだって、この町にだって、ないことはないかもしれないじゃない。

「日常のすぐ隣にファンタジーがある」
そんな、先人が描き残したたくさんの物語を
寂しがりな私は心の拠り所にしていた。


で、月日は流れたが、

大人になったからといって
そういうことが「無い」と決まったわけじゃあないじゃないですか。
そうですよね?(圧)
世の中には人知を超えた不思議なことは山ほどあるし。


そう。『耳をすませば』は何度でも信じさせてくれるのだ。
ほんとに普通の日常が、ファンタジーに繋がっているかもしれない、ということを……。


では、本作ではなぜこのように強く感じることができるのだろうか?




様々な証言を読み解くと見えてくるのが、これは監督である近藤喜文さんが追求した日常のリアルな描写と、宮崎駿さんが手がけたファンタジーである挿話「バロンのくれた物語」、両者が噛み合った成果だということだ。

「バロンのくれた物語」

"「耳をすませば」は”要するに日常のドラマです。でも日常のドラマだけではお客さんに対してアピールが少ない。もっとサービスするためにはファンタジーの要素もいれるべきと、当初宮さんは考えたわけです。"

『宮崎駿イメージボード全集6 耳をすませば On Your Mark(岩波書店)』 収録 鈴木敏夫インタビュー より

鈴木プロデューサーのこの話を聞いた時、答え合わせができたような気がした。
ファンタジーだけではない、日常ドラマだけでもない。この絶妙な配合比と接続の妙が、本作の唯一無二の良さを生み出している。しかもそれは制作側の意図していることだったのだ。



ただそれを成立させるには、リアルをリアルとして描き切っていることが必要だ。そうでなければ、まず観客に自分の世界だと思ってもらうことができない。

近藤監督のすごさはこの点の卓越した描写力にあると思う。

とにかく、最高に、生活感溢れ出すぎなのである。

踏切と駅前、団地のぐるぐる階段を照らす蛍光灯の明かり。物が溢れる団地の部屋に、姉妹で一つの2段ベッド。
電信柱の広告や、道に落ちているゴミの描写に至るまで、

いやーいちいち細かい。
そうそう、これが90年代に見ていたリアルな風景なんだよ……。

ジブリ作品における、日本の日常の描き込み具合は、おそらくこの作品が一番なのではないだろうか。

画家の井上直久さんは団地の中の描写について
「美術の工夫で、実際よりは色が深めに、落ち着いているのがまたいい。記憶の中にしか無くなったとき、あれが真実になる。あの時代はよかったなあと思うんですよ。」と評している。


没頭している時のお供は、やっぱカロリーメイトだよね。
「あるある」な体験まで見透かされているなあ。


また一方で、鈴木さんによれば、モデルとなった聖蹟桜ヶ丘という町が宮崎さんの体に染み込んでおり、
一つの物語として、引いた視点で構造的に描き出すことができた点もリアリティの表現に大きく寄与しているという。

京王百貨店を見るだけでテンション上がる!!


聖蹟桜ヶ丘を訪れた時、街の至る所にラスカルがいるのはなぜだろう?と思ったが
聖蹟桜ヶ丘は、宮崎監督がかつて所属した、日本アニメーションの所在地だったのだ。
(ちなみに「青春のポスト」の中では、ラスカルがお茶をしている。訪れた際はぜひ探してみてほしい。)


「耳すま」のスタンプが押せるファミリーマート。
恐らく作品とは立地が違うと思われる。


聖司「俺、バイオリン作りになりたいんだ。」


(鈴木プロデューサー)
"宮さんとしては珍しくかなり構造的に作っています。(中略)自分が作らないときは、そういうことをきちんと考える人です。だからこれは本当にちゃんと映画になっているんです。それは近ちゃんのおかげです。
宮さんってシーンごとにキャラクターの背が高くなったり低くなったりするんですが、近ちゃんはそこは正確に描くからすごいんです。
『耳をすませば』の作画はジブリ作品のなかでも最高です。

『宮崎駿イメージボード全集6 耳をすませば On Your Mark(岩波書店)』 収録 鈴木敏夫インタビュー より




そして、このシーンについて語らないわけにはいかない。
浮遊感のあるカメラワークが印象的なバロンのシーンから、階段を駆け降りる雫へ視点が移る場面。

「行こう、恐れずに!午後の気流が乱れる時、星にも手が届こう!」

リアルとファンタジーの接続点として、こんなに美しい描き方はあるだろうか。

遠く遠くへ飛んでいく、空想の中のふたりを見送りながら、カメラは下へ下へおり、胸の高鳴りが伝わってくるような主人公の視点へ。

未来への期待と今の自分が地続きになり、思わず駆け出してしまう、雫の心からの嬉しさがよく伝わってくる名シーンだ。
まさに、アニメーション表現の醍醐味である。

思わず駆け下りたくなる!



私たちに夢を見せてやまない、日常のすぐとなりにファンタジーがあるという本作の構図は、二人の監督の奇跡的なタッグから誕生し、それぞれの素晴らしい職人技が合わさった結晶だったのだ。

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