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青春の灯と命の灯


空は雲一つなく、心地の良い風が吹いている。
暑くも寒くもない季節は、加代がもっとも好きな季節だ。

平立中学校には、生徒だけでなく家族や周辺に住んでいる住人など、多くの人が集まっている。
今日は一年に一回行われる、平立中学校の文化祭の日だ。
周辺は緑が多く川が流れ、家もまばらに建っているような場所にあるが一学年に三クラスはある学校だ。
この文化祭では、各学年がクラス単位で軽食やステージなどの催しを開いて来場者を招く。
近隣に住む住人達にとっても、文化祭は一年の楽しみとして期待されていた。
「加代。もう交代の時間だから休憩してこいよ」
クラス委員長の長田が調理台に立って首を後ろに回しながら言った。
二度目になる文化祭で、加代のクラスは中庭でたこ焼きを販売していた。
自由に決めていい催しものだが、毎年定番のものはくじ引きで決めることにしていた。
その中のひとつが、たこ焼き屋だ。
たこ焼き機は、平立中学校の卒業生で商店街でたこ焼き屋を営んでいる盛岡さんから借りている。
「ありがとう。ついでに茜たちも呼んでくるね」
加代は他の子たちに当番の子たちに声をかけながら、テントを出た。
ずっと日陰にいたせいか、真上にある太陽の光が目に入り、思わず顔に手をかざして光を遮った。

学校の裏から少し歩くと、草木が生い茂ったところに川が流れている。
一時期はその場所で校外学習が行われていたそうだが、ずっと前に生徒が授業中に抜け出し、川で溺れてしまったそうだ。
その事件をきっかけに、学校から川に続く道はフェンスで閉ざされてしまった。
けれど一年生の夏休みに、幼馴染の茜と建太の三人で肝試しに来た時、草で隠されていてわからない場所にフェンスが破れている個所を見つけた。
学校が始まってから人目を盗んで穴を大きくし、学年が上がるころには穴を使って川で遊ぶのが三人の習慣になっていた。
「いた」
風が草と木の葉を優しく揺らし、川面が太陽の光をキラキラと反射させていた。
川の近くには、茜と建太が肩を並べて座っていた。
その横顔に川に反射した光が当たって、その眩しさに目を細める。
まるで恋人のように仲良く見えるその姿に、思わず足を止めてしまう。
三人は幼稚園からの幼馴染で、加代は小学生の頃から健太のことが好きだった。
そのことを茜に言ったことはない。
加代は好きな人がいると茜に言っていたが、茜は好きな人はいないと加代や周りの友達にも言っていた。
しかし、クラスの男子と話している時と建太と話している時の雰囲気の違いは、幼馴染だからという理由だけではない親密さを醸し出していた。
茜も建太が好きなんだ。そして、建太も…。
「あ、加代! こっちおいでよ」
茜が加代に向かって笑顔で手を振りながら言う。
その顔は同年代の加代から見ても、綺麗だと思うくらい輝いていた。
好きな人の隣にいるときの顔は、生き生きとしているものなんだとこの時初めて思った。
「次、当番だよ。私はこれからお昼食べに行くから、二人とも遅れずに行ってよね」
胸の痛みを感じながら、思わず、二人の邪魔をしてはいけない気がした。
「そうなんだ。わかった」
茜は少し残念そうに言う。
「建太もね! 返事は?」
「はいはい。わかったよ」
建太は片手を上げて返事をした。
そして、その手をわざと茜の手に重ねた。
加代は瞬間、目をそらして元来た道を歩き始める。
「ちょっと、いきなり何よ」
「いいじゃん。別に減るもんじゃないし」
まだ二人は恋人じゃない。けれど、それも時間の問題だ。
ズキズキと強く痛み出す心を必死に沈めながら、それでも二人の会話に聞き耳を立ててしまう。
深呼吸をして気持ちを切り替えようとしたとき。
ゴォォォォォと頭上を飛ぶ飛行機の音がした。
やけに近く聞こえたその音に、後ろの空を見上げる。
はっきりと機体の下が見えた。
そして、ぶら下がるように長細い鉄の塊も。
瞬間、爆弾だと直感で感じた。
逃げられないと思いながらも、身体は勝手にその場から逃げようと走り出す準備を始める。
鳴り響く飛行機のエンジン音の中に、カシュっという何かが外れる音が聞こえ、次にバウッと音がした時には全身が一気に熱くなる。
それは一瞬だっただろう。
しかし死の間際には、本人にはその光景がゆっくりと映るらしい。
私も例外ではなかった。
辺りは真っ白い光に包まれ、じりじりと皮膚の細胞が死んでいく感覚。
ああ、このまま死んでしまうんだ。
熱い。このままじゃ死んでしまう。少しでも遠くに逃げなければ。
死を覚悟した自分と、受け入れられない自分。
運命は変えられない。
私は最期、何を思ったのか。
骨も残らず消え去った私の思いは、もう誰も知ることができない。





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