2019年『台風19号』の記憶と、忘れてはいけない気持ち
台風のニュースを見るたびに思い出す出来事があります。
2019年10月の台風19号です。
箱根では大きな被害が発生し、道路や鉄道が寸断されました。私たちも自然の力の前ではなすすべがなく、ただ無事を祈りながら状況を見守るしかありませんでした。
台風19号が箱根にもたらした被害
そして当館でも温泉の供給が一時的に止まり、大きな影響を受けました。幸いにも翌月11月5日にはお湯が戻ってきました。その時の安堵感と喜びは、今でもはっきりと覚えています。
今だから書ける…。あの時はしばらく立ち直れなかった
被害の直後は、正直なところ気持ちの整理がつきませんでした。電話を取ればテレビや新聞取材の問い合わせが入り、ときには心ない冷やかしのような電話を受けることもありました。
先の見えない状況の中で、不安や焦りを抱えながら過ごした日々は、今でも鮮明に覚えています。
そして当館にとって特に大きかったのが、大涌谷から引いている温泉の配管被害でした。
当館の自慢でもある白いにごり湯
長年、多くのお客様に愛されてきた温泉ですが、配管の被害によって一時的に供給が止まり、これまで当たり前のように楽しんでいただいていたにごり湯をご提供できなくなってしまったのです。
それまで私は、どこかで温泉が湧き続けることを当たり前のように感じていたのかもしれません。
しかし、その「当たり前」は決して当たり前ではありませんでした。
自然の恵みである温泉
それをお客様にお届けできるのは、温泉を管理する方々、設備を維持する方々、多くの人々の努力と支えがあってこそ。そして何より、自然が私たちに分け与えてくれている恵みそのものなのだと、改めて気づかされた出来事でした。
幸いにもまもなく復旧し、以前と変わらぬにごり湯をお楽しみいただけるようになりました。
けれど、私はあの時の気持ちを忘れたくありません。
お客様をお迎えできること。
温泉を満たせること。
毎日変わらず営業できること。
それは決して当然のことではないからです。
旅館を営んでいると、つい目の前の忙しさに追われてしまうことがあります。けれど、自然の中で商いをさせていただいている以上、自然への畏敬の念を忘れてはいけない…。そして、支えてくださるすべての方々への感謝を忘れてはいけない。
台風の季節が近づくたびに、そんな原点を思い出します。
これからも奢ることなく、謙虚な気持ちで、箱根の自然の恵みとともに、お客様をお迎えしていきたいと思っています。

箱根強羅温泉 にごり湯の宿
桐谷箱根荘 女将
