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屋上プールの水音

これはI市のスポーツジムで働く、インストラクターのSさんという男性から聞いた話だ。

Sさんの勤めるジムには、屋上に小さな温水プールがあった。営業時間は夜十時までで、閉店後は水を抜かず、翌朝まで循環ろ過装置だけを稼働させておく決まりになっていた。

ある夜、Sさんが最終確認のために屋上に上がると、誰もいないはずのプールから、水しぶきの音が聞こえてきた。人が泳いでいるような、規則的なバシャバシャという音だった。恐る恐る覗き込むと、水面は静かなもので、波一つ立っていなかった。しかし音だけは、確かにその瞬間まで聞こえていたはずだった。

最初は循環装置の音の反響だろうと思い、Sさんはあまり気にしなかった。しかしそれから、閉店後の見回りのたびに、同じ水音を耳にするようになった。頻度は週に一、二度。時間帯は決まっていなかった。

同僚にこの話をすると、何人かが「自分も聞いたことがある」と口を揃えた。誰もが最初は気のせいだと思っていたが、複数のスタッフが同じ現象を報告するようになり、次第に無視できない話として、スタッフの間で共有されるようになっていった。

館長に相談し、念のため夜間の防犯カメラの映像を確認してもらったが、水音がしていたはずの時間帯、プールには一切の動きが記録されていなかった。水面は常に静止したままだった。カメラの故障も疑われたが、機器自体には何の異常もなかった。

過去にこの施設で事故や事件があったかどうかも調べられたが、開業以来、水難事故の記録は一件もなかった。建物自体も、施設として建てられてから今日までずっと同じ用途で使われ続けており、以前に別の建物があったという記録もなかった。

原因は結局、何一つ判明しなかった。

館長は最終的に、「安全上の実害はない」という判断で、この件をそれ以上追及しないことに決めた。ただ、夜間の見回りは必ず二人一組で行うようにと、新たな取り決めができた。

Sさんは今もそのジムで働いている。水音は今でも、時折聞こえてくるという。

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