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連載に追われる物書きでもないのに、振られた日の夜に、即刻ネタとして書き始める自分が悲しいけど、だって書かなきゃやってられないんだもの。

自分が思ってたよりずっと、ちゃんと、本気で、好きだったんだなぁ。
この人より特別な人にはもう会えない気がするなぁ。

20年かけて完結させた片思い超大作のエンドは、今のところこんな感じである。


20年。

30手前の私の20年。

物心ついた頃からずっと好きだった、地域のコミュニティで週に2度ほど顔を合わせる、10個上のお兄ちゃん。

いつから、とか、これがきっかけで、とかはない。
どこが好きなのか、なんで好きなのかもはっきりしない。

あんま好きじゃないとこなら、はっきり分かるんだけど。

兄ちゃんの「少し待って」はだいぶ待たされるし、「後で」は余裕で日や月をまたぐ。
こっちが心配になるくらい仕事に忙殺されてるのに、ご趣味にはもっと忙しいご様子で、やるべき事をすっぽかす。
長いものに巻かれがちで、圧倒的太鼓持ちなのに、時々謎の頑固さを発揮する。
そんでもって、私も大概そうだけど、真面目な空気が耐えられない、おチョケ星の住人。
「計画性」と「責任感」という言葉を、私は君の脳内辞書に書き込んでやりたいよ、彫刻刀で。
そんなに酒を飲むなや。
腹の周りの浮き輪どうにかしろや。
いつまでも若手のフリして、もう40手前のおじさんやん。
子どもやないんやから自己管理しなさいよ。


気にならない人は気にならないのだろう。
私は気になる。

だから付き合いたいとかじゃなかった。

というか、兄ちゃんには、早く地元を出ていってほしかった。
早くいい人見つけて、尻に敷かれてデレデレしてほしかった。
そんな兄ちゃんを茶化したかった。


じゃないと私が次に進めないから。


もちろん、この20年、兄ちゃん一筋だったわけじゃない。
同時多発的に人を好きになれる(推し等含め)夢見る乙女をなめないでほしい。
兄ちゃんなんて、もうどーでもいいわと、何度だって思った。
でも、私の中の兄ちゃんの存在がいい感じに薄れてくると決まって、何の因果か、もはや悪意でもあるのか、兄ちゃんがふらっと絡んできて、一瞬で感情が引き戻されてしまうのだ。

「あーあ、もう。いい加減にしろて、好きだなぁ!」
いつまでも治りきらない風邪のようなぶり返しに、何度やられたことか。

ヒヨコが生まれて初めて見たものに付いていくように、物心ついた時に既に好きだった人からは、どうあがいても離れられない。
結局、兄ちゃんの近くが、私のホームポジションなのだ。

ヒヨコの内なら、それで良かったのかもしれない。
ただ、優しくて面白い兄ちゃんを慕って追いかける。
実に微笑ましい。

しかし、その姿が立派なニワトリになるとなぜか話が違ってくる。
事件みすら帯びてくる。

音楽だってバイクだって落語だって、まあ、お酒だって、自分が好きだから好きなのか、兄ちゃんが好きだから好きなのか、今となってはもう分からない。

兄ちゃんが好きなものの情報を仕入れて、話振ると兄ちゃん喜んで「興味ある?」って言うけど、違うよ、ついこの前まで全然興味なかったよ、兄ちゃんが好きなものとして、興味持っただけなんだよ。けど、楽しいね、面白いね。


怖い。
趣味や波長が合うんじゃない。
人格形成期に進んで合わせにいって、私ができあがったんだ。
ストーカーのレベルを越えてる。
狂気だよ。

何が怖いって、それを兄ちゃんには悟られずに、なんなら自分でも無自覚のうちにやり切ったことだ。
子どもなら許される「兄ちゃん大好き!」や「大きくなったら結婚しよ!」などは一切なかった。
親にも言わず(バレてはいたと最近判明)ただ一人黙々と好きを育み、自分でも認めず許さず誤魔化し蓋をして、なんとも思ってない風を装っていれば、見事拗らせ片思いへと形態は進化していた。


それでも、生きていればいろいろある。
このままではいられないと自覚する瞬間は、やってくる。

「兄ちゃんがいなくなったら」を、当てにしていたのに、あのおチョケ星の王子様は、一向にふらふら、のらりくらりしている。
なんならその状況を楽しんでる。
大切な存在の元に帰りたがった本家本元の星の王子様とは大違いである。
そりゃそうだ、うちのおチョケ星の王子様の辞書には「責任感」という文字がないのだから。
もしも兄ちゃんが、かの王子様なら、自分の星を思いながらしみじみ酒を飲み、それでも地球の酒が美味すぎて帰る気にはならず、毒蛇は捕まえてハブ酒にし、そもそも毎日飲み歩くから、主人公には出会うことはなく、星の王子様は始まらなかっただろう。


結婚願望はそれなりにある私は思った。
ヤバい、このままじゃ私の婚期が遅れる。
今更である。


それでもなかなか言い出せなくて、というか何をどう言えばいいのか分からなくて、さらにいろいろあって、やっとこさ、次に進むためのステップにするんだって、言えそうな機会のあるこの日に「関係性を見直したい」って言うんだって、何週も前から固く決意してたのに、いざ兄ちゃんと話したらやっぱり言えなくて、勝手に追い詰められて、その夜にLINEで告った。



「私と一緒に地元を出るとかありえませんか?」から始まる長文を、唐突にLINEで送ったことが告白と言えるのか、恋愛経験に乏しい私には判断できかねるが、少なくともその時思ったままに、気持ちを伝えた。
ワンチャン、そうなったらいいと本気で思った。
そうなったらそうなりたいと、覚悟はあった。


数時間後の返信の抜粋
「少しだけお時間いただきたい」


はい、出ました。
「少し」
そこに今回は「だけ」がついて、「少しだけ」

君の「少しだけ」って、どのくらいなのかしら。


ここから兄ちゃんプレゼンツ、焦らしックパークに弄ばれる私の長い1週間ちょいが始まる。

焦らしックパークの目玉アトラクションといえば、もちろん感情ジェットコースター。


ついに言ってやったぞ! さあ、どうする兄ちゃん! これって言ったもん勝ちでは? だって決定権ぶん投げれて超楽じゃ〜ん!

ああああ、墓場まで持っていくはずだったのに、なんで言っちゃったんだろ……。ごめんねぇぇ、兄ちゃん困ってるよねこれぇぇ、申し訳ない、ほんとごめん。
しかもあんな告白とも言えない話を長々と……どうせ言うなら、もっとちゃんと王道の告白をすれば良かった……。

いや、でも仕方ないんだ。兄ちゃんへの気持ちを片付けないと、私はどこにも進めないんだ。私が20年背負ってきたんだから、ちょっとは兄ちゃんも悩めや。

好きなとこずっと分かんなかったけど、なんかいろいろ、いいところ見えてきたかもしれん。もし付き合えたら楽しそうだ。あんなこといいな、できたらいいな。

顔合わすの、くそ気まずいやないか。何考えとるの。振るならさっさと振れや。ほんとに何をそんなに考える要素がある??

このままギクシャクしたらどうしよ。辛すぎる。言うんじゃなった。もう無理。

え、ちょいちょいお兄さん、ほんとに考えてる? なんか後回しにしてない? 現実逃避して酒飲んでない? あの、そんな感じならマジで早く振りな??
「ご多忙の中ご検討いただきうれしく思います。今の進捗具合を確認させていただいてもよろしいでしょうか。1、考える余裕がない。2、いまいち決めきれない。3、上手い断り文句を考えている。4、どうしたらいいか分からない。その他、お気持ちに近いものを教えていただけると幸いです。」とか、追いLINEしたろうかな。さすがにうざいか。いや、でもこれがうざいならほんとに断れ。判断つかんなら、一度腹割って話し合おうぜ?

あれかな? 全てが夢だったかな。今までも散々兄ちゃんに告ったらとか、付き合ったらとか妄想してたから、今回も私の妄想でしたかね? 何もなかったってことかな? ま、それならそれでいいか。

と、コースターが諦めの境地にたどり着いた頃。

「今週時間とれない?」

びっくりした。
私、本当にリアルの世界の兄ちゃんに告っとるやん。
なかったことになってないやん。

なんならそこから日時決めて、当日まで、まだ日があったから、本当に約束通り電話がかかってきた時には、もはや感動すらした。
すごい! なかったことになってなかった!! (失礼にも兄ちゃんが時間を守れたことにも感動した)。


ま、結果として振られたのだが、なんと言われて振られたのかは、あまり正確に覚えていない。
なにせそこからが長かった。

兄ちゃんのいろいろを聞いて、私のいろいろを話す。
もうこんな機会ないだろうから、言いたいことを言いまくる。
告った経緯、兄ちゃんの好きなところ、今後の人生設計。
兄ちゃんの嫌なとこを言うのは、さすがにはばかられ、でも、どうせなら言ってやれば良かったとプチ後悔したので、これの冒頭に晒しあげた私はタチが悪い。


あまりに未練がましい長電話。
だけど、名残惜しくて仕方ない。
だって、この電話が終わったら、終了をタップしてしまったら、本当に終わってしまうのだ。


こんな風に思ったことをなんでもさらけ出して話せるのは、これがきっと、最初で最後。
ずっと、このまま話していたい。
通話時間の表示は、止まることなくどんどん伸びる。
時が止まればいいのにと、創作ではよく使うセリフを心から思ったのは、初めてだった。

「私からは絶対に切れないですからね」

そう申告した。
それを笑って、無理に話を畳まないのが、私が兄ちゃんを好きな理由。


気づけば振られて1時間。
地元の愚痴から理想論、永遠の課題まで、とにかく話題が飛んで、膨らむ。
喋って、聞いて、考え込んで、笑って、また喋る。
話を畳んで、そろそろってなるのに、また別の話題が湧いてしまって「申し訳ないぃぃ」って言いながら、また話す。


そう、私はこれがずっとしたかった。

ただ兄ちゃんとずっと話してたくて、他愛ないこと言いたくて、隣で笑ってたいだけだったんだ。
一緒に同じものを見て、同じ経験をして、感情の共有を、兄ちゃんと、いつでもどこでもずっと、朝から晩まで気が向いた時に、気を使わずに、したかっただけなんだよ。

でも、その関係性がなんなのか、どうすればそうなれるのか、分からなかった。
ただ、この関係性に、自分の知っている名前を付けたかっただけなのかもしれない。


彼氏だからという理由付けをしようとして、彼氏という枠に無理やり押し込めようとして、やっぱりそこに収まってはくれなかった。


恋愛的な意味での、特別な人には、ならなかったけど、それでも、文字通り、私の特別な人。


いいもんね。
あんないつまでもフラフラしてるおチョケ星の王子様より、もっといい私の王子様を先に見つけて、兄ちゃんに「10個下に先越された」って、膝から崩れ落ちさせてやるんだから。
首を洗って、膝軟骨を増強して、待ってろよ。



#創作大賞2026 #エッセイ部門

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