宿題を出さない子への声かけ、教室でできる工夫
「また出してない」と言う前に
私は現役15年目の教員です。宿題を出せない子どもたちと、これまで数多く向き合ってきました。
宿題を出さない子に、毎回同じ声かけを繰り返していないでしょうか。「なんで出してないの」「またなの」という言葉は、言えば言うほど、子どもとの関係を少しずつ削っていきます。
宿題を出さない理由は、子どもによって様々です。量が多すぎる、やり方が分からない、家庭で取り組む環境が整っていない。理由が違えば、必要な関わり方もまったく違います。やる気がないと決めつける前に、理由を知ることが最初の一歩になります。
この記事で手に入るもの
この記事では、宿題を出さない子への声かけの型と、理由別の関わり方をまとめています。あわせて、教育改革で知られる工藤勇一さんと、木村泰子さんという2人の元校長先生の考え方も紹介しながら、なぜその声かけが効くのかという理由も一緒にお伝えします。
読み終えたときに、次に宿題を出していない子を見たときの第一声を、変えられるようになっていることを目指します。
まず今日から変えられること1つ
「なんで出してないの」を、**「どこまで進んでる?」**に変えてみてください。
「なぜ」を聞く言葉は、子どもを責める形になりやすいですが、「どこまで」を聞く言葉は、状況を一緒に確認する形になります。責められた子どもは防御的になりますが、確認された子どもは、そのまま状況を話しやすくなります。
場面別・言い換えフレーズ集
| 場面 | 言いがちな言葉 | 言い換え |
|---|---|---|
| 未提出に気づいた時 | 「なんで出してないの」 | 「どこまで進んでる? 一緒に確認しよう」 |
| 何度も未提出が続く時 | 「もう何回目?」 | 「今、宿題をやるのが難しい理由、何かある?」 |
| 提出したが内容が薄い時 | 「ちゃんとやりなさい」 | 「ここまでやったんだね。続きはどうする?」 |
| クラス全体への呼びかけ | 「宿題出してない人、いますか」 | 「今日、宿題で困った人はいますか」 |
理由別の関わり方
未提出の背景には、いくつかのパターンがあります。
量が多すぎて手がつけられない → 一部だけでも提出できる形にする
やり方が分からない → 最初の1問だけ一緒にやってみる
家庭で取り組む環境が整っていない → 学校で取り組める時間を作る
理由によって、声かけの方向性も変わってきます。まずは「なぜ出せていないか」を決めつけず、確認することから始めます。
この考え方の背景にある、2人の元校長先生
宿題への向き合い方の背景にも、2人の元校長先生の考え方が関わっています。
工藤勇一さんについて
工藤勇一さんは、東京都千代田区立麹町中学校の元校長です。2014年から2020年まで校長を務め、宿題の廃止、定期テストの廃止、クラス担任を固定しない制度など、公立中学校としては異例の改革を行ったことで知られています。この改革は文部科学省が視察に訪れるほど話題になり、著書『学校の「当たり前」をやめた。』は10万部を超えるベストセラーになりました。退職後は横浜創英中学・高等学校の校長として、改革を続けています。
工藤さんが麹町中学校で宿題を廃止した背景には、「宿題は手段であって目的ではない」という考え方があります。全員に同じ宿題を課すことが、必ずしも一人ひとりの学びにつながっていないという問題意識です。この記事で紹介する声かけも、宿題を「出させること」自体を目的にせず、その子に合った関わり方を探すという発想に基づいています。
木村泰子さんについて
木村泰子さんは、大阪市立大空小学校の初代校長です。2006年の開校から9年間、校長を務めました。大空小学校は「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、障害の有無に関わらず、すべての子どもが同じ教室でともに学ぶという教育を実践してきた学校です。この取り組みを追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は2015年に公開され、大きな反響を呼びました。45年間の教員生活を終えた現在も、全国で講演活動を続けています。
木村さんは、子どもの行動の背景にある事情を、大人が決めつけずに見ようとする姿勢を大切にしています。「できない」ことをそのまま問題として扱うのではなく、その子がどんな状況に置かれているのかを理解しようとすることが、関わり方の出発点になるという考え方です。
なぜこの言い換えが効くのか
「なんで」で始まる問いは、理由を説明させるという意味では正しいのですが、子どもにとっては責められていると感じやすい言葉です。
工藤さんが実践してきたように、宿題という手段そのものを目的化せず、状況をまず確認し、そのうえで一緒に次の行動を決めていく関わり方は、子どもが自分で考える機会を残すことにつながります。
木村さんの、行動の背景を決めつけずに見る視点も、未提出の理由を確認する場面で活かせます。理由を聞く前から「やる気がない」と決めつけてしまうと、本当の理由が見えなくなってしまいます。
つまずきやすい場面と対処
「理由を聞いても、何も答えてくれない」という相談を受けたことがあります。
こういう場合、その場ですぐに理由を聞き出そうとせず、まずは「一緒にやってみようか」と行動を先に誘うほうが、うまくいくことがあります。理由は、行動を始めたあとで見えてくることも多いです。
また、クラス全体の前で個別に声をかけると、それ自体がプレッシャーになることがあります。可能であれば、他の子の目が気にならないタイミングで声をかけることも、意識しておきたいポイントです。
続けるための工夫
未提出への対応は、1回の声かけで解決するものではありません。
その子の未提出のパターンを、頭の中でなんとなく把握しておくだけでも、次の声かけが変わってきます。焦らず、少しずつ関わり方を調整していく姿勢が大切です。積み重ねていくうちに、宿題そのものへの向き合い方が、その子の中で少しずつ変わっていくことがあります。
