「うちの子だけ」と焦る前に知っておきたい、比べない子育ての考え方
「うちの子だけ」が頭から離れない
私は現役15年目の教員です。多くの保護者から「うちの子だけ」という不安の声を聞いてきました。
友達の子どもの話を聞いて、「うちの子だけ遅れているのでは」と不安になる。そんな経験はありませんか。比べる気はないつもりでも、他の子の話を聞くと、つい自分の子どもと照らし合わせてしまう。これは多くの保護者に共通する悩みです。
教室でも、他の子と比べる言葉は、思っている以上に子どもに伝わっています。大人が何気なく口にした一言を、子どもはずっと覚えていることがあります。
この記事で手に入るもの
この記事では、「比べる視点」から「その子自身を見る視点」に切り替えるための考え方と言葉を、家庭用・教室用の両方でまとめています。あわせて、教育改革で知られる工藤勇一さんと、木村泰子さんという2人の元校長先生の考え方も紹介します。
読み終えたときに、不安になった瞬間に立ち止まれる言葉を、1つ持ち帰っていただければと思います。
まず今日から変えられること1つ
「うちの子だけ」と思った瞬間、**「この子は、半年前と比べてどうか」**と考えてみてください。
他の子との比較ではなく、その子自身の過去との比較に視点を変えるだけで、見え方が変わります。他人という、条件も背景もまったく違う相手との比較には、そもそも意味がありません。同じ子の、少し前の姿と比べることのほうが、ずっと正確な物差しになります。
場面別・言い換えフレーズ集
【家庭用】
| 場面 | 言いがちな言葉 | 言い換え |
|---|---|---|
| 友達の子と比べたくなる時 | 「〇〇ちゃんはもうできるのに」 | 「あなたは、前よりここができるようになったね」 |
| きょうだいと比べたくなる時 | 「お兄ちゃんの時はこうだった」 | 「あなたには、あなたのペースがあるね」 |
| 発達の違いが気になる時 | 「みんなと同じようにできないと」 | 「この子には、この子に合う進み方があるはず」 |
【教室用】
| 場面 | 言いがちな言葉 | 言い換え |
|---|---|---|
| クラス全体に向けて | 「みんなできてるよ」 | 「それぞれのペースで進めよう」 |
| 個別に声をかける時 | 「他の子はもう終わってるよ」 | 「今、ここまで進んでるね。続きやってみようか」 |
この考え方の背景にある、2人の元校長先生
比べない子育ての考え方は、特に木村泰子さんの実践と深く関わっています。工藤勇一さんの考え方もあわせてご紹介します。
木村泰子さんについて
木村泰子さんは、大阪市立大空小学校の初代校長です。2006年の開校から9年間、校長を務めました。大空小学校は「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、障害の有無に関わらず、すべての子どもが同じ教室でともに学ぶという教育を実践してきた学校です。特別支援学級を作らず、どんな子も同じ教室で学び合うという体制は、当時の公立小学校としては珍しいものでした。この取り組みを追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は2015年に公開され、大きな反響を呼びました。45年間の教員生活を終えた現在も、全国で講演活動を続けています。
木村さんが繰り返し語っているのは、「ふつうの子なんて、どこにもいない」という考え方です。子どもを「みんなと同じにできているか」という基準で見るのではなく、その子自身がどう育っているかという視点で見ることの大切さを、著書や講演を通して伝え続けています。この視点は、比べない子育てや、比べない声かけの土台になっています。
工藤勇一さんについて
工藤勇一さんは、東京都千代田区立麹町中学校の元校長です。2014年から2020年まで校長を務め、宿題の廃止、定期テストの廃止、クラス担任を固定しない制度など、公立中学校としては異例の改革を行ったことで知られています。この改革は文部科学省が視察に訪れるほど話題になり、著書『学校の「当たり前」をやめた。』は10万部を超えるベストセラーになりました。退職後は横浜創英中学・高等学校の校長として、改革を続けています。
工藤さんは、子どもが「自分で考えて、自分で決める」機会を大切にする教育を掲げています。他の子と比べて評価するのではなく、その子自身がどう考え、どう選んだかに注目する関わり方は、木村さんの視点とも重なる部分があります。
なぜこの言い換えが効くのか
木村さんの、子どもを他の子や「みんな」という基準と比べる価値観そのものを見直す必要があるという考え方は、比べない子育ての中心にある視点です。
比べる視点をやめることは、子どもの課題から目をそらすことではありません。その子自身の変化に、より丁寧に目を向けることです。工藤さんが大切にする「自分で考えて決める力」も、他人との比較にさらされ続ける環境の中では育ちにくくなります。
つまずきやすい場面と対処
「比べないようにしたいけれど、つい比べてしまう」という相談を受けたことがあります。
これは、意志の弱さの問題ではありません。比べる情報が自然と入ってくる環境にいる以上、比べたくなるのは自然なことです。
比べてしまった自分を責めるのではなく、比べたことに気づいた時点で、「この子自身はどうだったか」に視点を戻す。この切り替えを繰り返すことが、比べない子育てへの近道です。
続けるための工夫
比べない子育ては、一朝一夕には身につきません。
まずは1日1回、その子の「半年前と比べた変化」を、心の中でつぶやいてみてください。これを続けるうちに、比べる視点そのものが少しずつ減っていきます。半年後、1年後に振り返ったとき、その積み重ねが、その子との関係を大きく変えているはずです。
