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逃げ場のない海の上で(エイブラハム手帖)

先週のクルーズ中、ふと思い出したエピソードがある。
かなり以前にエイブラハム(エスター・ヒックス)のワークショップ音声動画で聞いた、ある女性の切実な恋の悩み。

「船上で完璧な男性に出会ったのに、彼は別の女性のところへ行ってしまった」と涙ながらに語っていた。彼とワンナイトしたあとで捨てられた。という感じだった。気がついたら別の女性と過ごしていて、自分にはもう見向きもしない。という状態だったと想像する。

しかもその船というのは、エイブラハムのワークシップが行われていたクルーズ。2人ともエイブラハムのツアーに参加していたのか、男性の方がただの乗客だったのかは忘れた。
彼女はヒリヒリする心を抱えてワークショップに臨んだ。すると質問者に選ばれて、エイブラハムに直に相談するという展開となった。

ちなみにエイブラハムは、質問者を波動で選ぶ、と言っているが、波動が高いから選ばれるとは限らない。という良い例でもある。聴いている側にとっても、問題を抱えてる人が選ばれる方が学びになるのは確かだし。

当時はエイブラハムの教えをそこまでよく知らなかった私。どんな答えが返ってくるのか、かぶりついて聴いていたし、ブログにも訳を書いた覚えがあるが、詳細は忘れてしまった。もちろん、答えはいつも同じではあるが。

エイブラハムのクルーズといえば、まさに先週、私たちが乗っていたのと同じような、巨大な豪華客船である。乗客数も2000人ほどのはず。全員がWS参加なのかは分からないが。
レストランやラウンジがいくつもあるとはいえ、海の上の閉ざされた世界である。自分を捨てた男に遭遇するチャンスはいくらでもある。レストランやバー。あるいはエレベーターの扉が開いた瞬間に、別の女性とイチャイチャしている彼を見かけてしまったら?考えただけでウンザリしたことだろう。

そう、クルーズ船には逃げ場がないのだ。

彼女のお悩みの内容に当時の私は驚いたものの、自分だって先の見えない恋愛に消耗していた。形は違えどヒリヒリ感は同じである。だから恋愛相談の多いエイブラハムのWSは聞いていて飽きなかった。

あれから長い時間が過ぎ、私も色々な体験をしてきた。出会いと再婚を経て、先週は夫と一緒にクルーズに行った。夫は「船内で迷子にならないように」と、律儀に二人分のWi-Fi料金を払ってくれた。船の中では別行動もしていたけれど、当たり前のように互いの位置を把握していた。

でも、10年前にエイブラハムのクルーズで大失恋したあの彼女にとっては、スマホの電波さえも「彼からの連絡」を待つための、細い命綱だったのかもしれない。
そんなことを、甲板に立って潮風を浴びながら思い出した。そして自分自身の過去の恋愛を振り返るとヒリヒリ感が蘇った。

あの頃の私は、エイブラハムの言葉を魔法の杖みたいに握りしめて、必死に聴き続けた。 やがて私の世界は見事に変貌した。 今は、あのとき喉から手が出るほど欲しかった「無条件に大切にされる日常」の中にいる。家族関係も、心の穏やかさも、あの頃の自分が知ったら腰を抜かすほど、今の私は自由で、安心感に満ちている。

バルコニーからどこまでも続く青い海を眺めながら、一瞬思い出したあの彼女。今、どこで何をしているだろう。きっと、彼女も私と同じように、あの頃の痛みを「あんなこともあったわね」と笑い飛ばせる場所にいるはずと思ってる。

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