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道に迷ってくれて、ありがとう-フランス

フランスのデジョン滞在、最終日の夕方。
ホテルでくつろいでいると、アメリカにいる息子から電話がかかってきた。「さっき父親と食事してきたんだけど、機嫌が悪くてさ」
と、珍しいほどいらだった声が聞こえてきた。

そんなとき、私は一緒になって彼(元夫)の悪口を言うことはしない。愚痴を言ってもはじまらない。イライラは自分のものだから、手放せばいい。ということを伝えた。本当はそんな話は聞きたくなかったかもしれない。愚痴を聞いてほしかったのかもしれない。でも私の息子も、そこに解決はないことを知っている。

そのあと、夫と夕食へ出かけた。
デジョンの石畳がのびる旧市街を歩いているうちに、店は次々とシャッターを下ろし、通りはすっかり静まり返ってしまった。灯りのついた店を探して歩くが、見つからない。

裏道の路上に2,3の席がある小さなレストランを通りかかった。もうここで夕飯を食べちゃおうか。と夫が言ってきたが、嫌だと答えた。デジョンには2日しか滞在しない。せっかくの最後の夜に、気乗りしない場所で食べるのはつまらない。でもだからといって、開いてる店が視界にはない。空腹とともにイライラしてきた。

頭の片隅で、さっき息子に言った自分の言葉がよぎる。
ああ、私も、ちゃんと手放せてないなぁ。

夫がどんどん歩き出すので、深呼吸をしながらついていった。
絶対にそっちの方向じゃないのに。
そっちに行ったってきっと何もない。

私はスマホすら見ない。

すると、目の前に、突然、空間が開けた。
広々として、美しいリベラシオン広場がそこにあった。

わぁ、素敵!ここはどこ?

そしてすぐに思い出した。
ここはデジョンで外せない観光スポットなのに、私たちはすっかり忘れていたのだ。思わず見逃すところだった。旧市街はかなり小さいので、これまでここに遭遇しなかったのが不思議なくらいだ。しかも夜の方が情緒がある。
道に迷ってくれて、ありがとう。素直に夫にそう言った。

宮殿の反対側にレストランがずらりと並び、外席は人でいっぱい。それでも騒がしさなどなく、どことなく品が漂っていた。私たちは丁寧にメニューを見比べてから、食べたい料理のあるレストランのテラス席に腰を下ろした。ヨーロッパらしい風景の中で、幸せな気持ちが蘇ってきた。さっきまでの険悪な空気が嘘みたいで、ふたりで笑ってしまった。

もし誰かが、路地で迷っていた私たちを見ていたら、ずいぶん仲の悪い夫婦に見えたかもしれない。





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