ヘミングウエイの猫たちーちょっと意外だったこと
憧れない街の、気になる住人
かつてヘミングウェイが暮らした、フロリダの南端にある、キーウエスト。
今も当時のまま残る彼の邸宅は、風が吹き抜ける美しいミュージアムになっている。 ここには、愛すべき「住人」たちが住んでいる。
生前、とある船長から贈られたという、白い6本指の猫。 スノーホワイトと名付けられ、彼に深く愛されたその猫の子孫たちが、今もこの敷地を悠々と守り続けているのだ。
この有名なエピソードは、もちろん知っていた。 けれど前回この島を訪れたときは、あっさりと行きそびれてしまった。
我が家からは泊まりがけでいつでも行ける距離。ハードルは決して高くない。 それでも足が向かなかったのは、私の中でキーウエストという街への興味が、どうしても湧かなかったからだ。
トミーバハマのシャツと、ジミー・バフェット
私の抱くキーウエストのイメージは、こうだ。
トミーバハマのシャツを羽織った、ビール腹の陽気な観光客。 彼らがお酒を片手に、ジミー・バフェットのメロウな曲に身を委ねて寛いでいる。 手には名物の「スラッピージョー」。
……まさに、アメリカの庶民リゾートのティキバーで見かけるステレオタイプそのもの。 誤解してほしくないのだけれど、彼らを馬鹿にしているわけではない。 そういう人たちに限って、驚くほど親切で礼儀正しく、人生を楽しんでいることはよく分かっている。
ただ、そこに混じって楽しむ自分を、どうしても想像できない。
前回は、面白半分も手伝って、慌ただしく立ち寄ったときも、まさにその「イメージ通り」の渦中にいた。 付き合いでスラッピージョーを頬張っているうちに、ヘミングウェイの家の門は、無情にも閉まってしまったのだ。
ちなみにAIに作ってもらった私のイメージするキーウエスト。
わりとそのまんまで笑えた。
もちろん、こういうところばっかりじゃないと思うし、雰囲気の良いカフェで寛いだりもしたけれど。

猫のマンションと、自由すぎる住人たち
クルーズ船が停泊する港から、さほど遠くない場所にその家はある。 夫は私と出会う前に何度か訪れたことがあるらしいけれど、「ガイドツアーがおすすめだから」と、いそいそと案内してくれた。
一歩足を踏み入れると、そこは南国の植物が力強く茂る庭に囲まれた、なんとも美しい世界。
青々とした芝生が広がるプールの横に、一匹の黒猫がひっそりと横たわっていた。思わずギョッとしてのぞき込む。 身じろぎひとつせず、爆睡していた。


猫たちは、あちこちにいた。 もっと野良猫のように、どこかに隠れていたり、遠巻きにこちらを伺っていたりするものだと思っていた。見知らぬ観光客に見つめられても、1ミリも動じない。 のびのびと自分たちの時間を生きている。抱き上げることは禁止されているけれど、撫でるのは自由。気持ちよさそうに目を細めた。
かつてヘミングウェイが船長から贈られ、溺愛した「6本指の猫」。 この家に住む約60匹の猫たちは、すべてその猫の子孫だという。 彼らには専用のケアチームがいて、健やかに、そして自由であるように見守られている。 庭の隅には、立派な「猫専用マンション」まで設えられていた。
指の数より、大切なこと
結局のところ、伝説の「6本指」の正体は、私にはよくわからなかった。 カメラを構えても、指先をじっと凝らして見つめても、「……ん? 6本あるかな?」と、いまいちピンとこないのだ。
けれど、指の数なんてどうでもよくなるくらい、彼らが最高に幸せに暮らしていることだけは、ひしひしと伝わってきた。 人間を怖がらないし、愛情に飢えている素振りも微塵もない。 媚びない、逃げない、隠れない。 南国の陽だまりの中で、ただただ満足そうに寝そべっている。
「敷地の外へ遊びに行くこともあるんですか?」とスタッフに 聞きそびれてしまったけれど、きっと彼らにとって、ここが世界のすべてで、完璧な居場所なのだろう。
みんな猫たちに夢中だけれど、家の中を案内してくれるガイドさんの話も、実はとても心に響くものだった。 この美しい家をどんな風に手に入れ、誰と、どんな時間を紡いだのか。
波乱万丈、ドラマだらけだった彼の人生。 そのひと欠片に触れたら、もう一度、彼の名作を紐解いてみたくなった。 キーウエストの風を感じながら読む一冊は、きっと昔読んだ時とは違う味がするはず。


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