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最後の会話になってしまったこと

最後にその人とステップを踏んだ夜から、まだ1カ月も経ってない。
でも彼はもう、この世界のどこを探してもいない。

その夜、ダンスは2回でおしまい。 3度目に誘われたとき、私は少し疲れていたし、隣では夫が帰り支度を始めていた。「ごめんね、もう帰るから」 そう言って断ってしまったのが、彼との最後の会話になってしまった。
胸の奥がぎゅっと痛む。

その人のことを、私は実はあまりよく知らない。 ダンスを趣味とする共通の知人が多いので、数年前からSNSで繋がっていた。イベントに行けば見かけるし、いつからか顔を合わせると必ずダンスに誘ってくれて、二曲ほど一緒に踊る。 そんな、淡くて心地よい関係だった。

彼はとても聡明な人らしく、あるテクノロジーの分野で早くから成功を収めていたと聞いている。ビジネスパートナーと共に情熱を注いで、多くの人に貢献してきた。 一時は仕事で欧州まで飛んでいた。そのときに同行した女性ともSNSで繋がっていて楽しい旅行の写真を日々眺めていた記憶がある。とても羽振りがよさそうだった。

でも、時代の流れやめまぐるしく変わる法律や規定が続き、ビジネスパートナーとも死別した。彼を取り巻く景色は、少しずつ、でも確実に色を変えていったようだ。

私が最後に彼と踊ったのは、つい3週間ほど前のこと。 彼はとても元気だった。私たちは本当に楽しくステップを踏んだ。 かなり独特な雰囲気を持つ人だったから、深い会話を交わすことはしないけど、それが私たちの絆の形である。その時の彼は、ただ純粋にその瞬間を楽しんでいるように見えた。

一昨日、彼が旅立ったことをSNSで知った。

まだその衝撃が胸の中で形を持たないままのうちに、地元メディアのニュース映像が目に入った。そこには、彼のビジネスが大きく傾き、多くの人の戸惑いや怒りの中にあったこと、そして閉ざされたオフィスのドアを、レポーターが叩いている姿が映し出されていた。

その映像を見た瞬間、胸の奥が苦しくなった。あのドアの向こうで、彼はどんな時間を過ごしていたのだろう。

私が知っている彼は、とても優しい顔をして、物腰も柔らかく、自分の「好き」を大切に生きていた人。 六十代という年齢を感じさせないほど若々しく、時折見せる毒舌さえも、頭が良すぎるがゆえの強烈な個性のように感じられた。もちろん、そのために離れていく人たちが多いことも知っていた。

世の中の物差しで測れば、そこには「失敗」や「批判」という言葉が並ぶのかもしれない。 でも、少なくともあのフロアで私と一緒に踊っていた彼は、間違いなく誰かの心に彩りを与える、体温を持った一人の人間だった。

人生の終わりは、いつもあまりに唐突だ。 胸の奥が、ぎゅっとしている。


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