日本にいるのに、日本のお風呂が、恋しくて。。
今回の滞在先、バスルームが「普通の洋式」だったことに、自分でも驚くほどガッカリしてしまった。 日本のお風呂場が、こんなに恋しかったなんて。あの至れり尽くせりの機能性、海外ではまずお目にかかれない。追い炊きボタンひとつで、いつでも熱々が待っている贅沢。それを心底楽しみにしていたのに。
身体が冷えきるような夜が続いたので、温泉でも行こうか、と夫が言った。実は私、もともと温泉マニアではなかったのだけれど、夫と地方の温泉を巡るうちに、今さらながら、すっかりはまってしまった。
さっそく、さほど遠くない場所で探し始める。 夫のこだわりは「プライベートな露天風呂」。私の希望は「海が見えること」。ときめきがマックスに達したところで、最高の宿を見つけた。 時期のせいか、お値段は割高なので、私は見ないフリ。夫は行きたい一心でクレジットカード番号を打ち込み、ポチっとした。
しかし
……反応がない。
違うカードで試しても、やっぱり無反応。
お願い、私のお金を受け取って!買わせて!と懇願するあの海外のミームが頭をよぎる。
違うカードでも同じ。ポチポチしてるのに、反応なし。「商売する気、あるんですか」と画面にツッコんでみるけれど、AIいわく「海外発行のカードはNGかもね」とのこと。原因不明のまま、温泉への扉は閉ざされてしまった。
友達とご飯に行く時間が迫ってきたので、うやむやにしたまま外出。
温泉に行けないと言うと、そんな遠くに行かなくても近場でいい温泉があるよ。貸し切りじゃないけどね。行こうよ、って誘われた。
実はこれまでにも何度も誘われている。多分、20年以上前に一度一緒に行ったことがある。でも、そのあとは、なんとなく言葉を濁して行ってない。海外暮らしが長いせいか、知らない人と裸で過ごす空間に、どうも気後れしてしまうのだ。行けば絶対に「極楽……」となるのは分かっているのだけれど。帰り道に身体が冷えてしまいそうなのもいやだ。
日本人のお風呂好きは、本当に微笑ましい。すごく誇りに思うし、何にも代えがたい文化なのだとつくづく思う。
そういえば、子供の頃に都内のアメリカ人夫妻の家に泊まりに行き、同じ年ごろの友達が泡のお風呂から出て来て身体を拭き始めたのでショックを受けたことがある。そんなのは絶対に嫌だ、と思ったのを覚えている。
アメリカだと、親子で裸になって背中を洗い合うみたいな文化はない。温泉とか銭湯もない。プールの横についているジャグジーは人気があるし男女が無邪気に一緒に入るけど、水着を着てるし、何よりあの水が天然水ではなく消毒剤やらケミカルがいっぱい入ってると思うと萎えてしまう。(でも入るけど)やっぱりお風呂とはちがう。
前回、高尾山を下りているとき、前を歩く小さな女の子がママに言っていた。 「ここを降りたら、あの温泉に一緒に入ろうね!」
その無邪気な声に、一瞬、胸がキュンとした。 私が育ってきた習慣が、今でもちゃんとそこにある。今の私がどこかに置き忘れてきてしまったもの。
海が見える貸し切り露天風呂で、美味しいものを食べて、ゆっくり眠る。 そんなことができる日本の暮らしが本当に羨ましく思う。私たちがポチろうとした温泉は、私の亡き父が最期を過ごした土地にも近くて、夫にあの景色を見せてあげたかったのにな。
払いたいのに、払えない。 このジレンマをどうしたものか。
けれど、悩んでいる暇はない。 これからみんなで、大好きな散歩エリアに行ってぶらぶらしながらランチやカフェを楽しむのだから。
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