見出し画像

BIC特区Ⅱ-エピローグ 星降る夜のセレナーデ

「さすがにお咎めなしってわけにはいかないわな」

 タツヤが諦めたように言った。

「こんな時間に、こんだけのドローン飛ばしちゃってるからな」

 ケイタが冗談めかして言う。

「お前のホログラムもな」

 タツヤが返すと、二人は笑い合った。

「ランクダウンは免れないか」

 タツヤの言葉に、首を傾げた。

「え、でもランクって関係ないんでしょ?」

 ケイタが苦笑しながら説明してくれた。

「タクヤたち『渡り人』にはな、俺達にはランクが上がるほど模範囚として評価されるの。でもまあ早く釈放されたいわけでもないけどね」

 その言葉に、複雑な気持ちになった。彼らにとって、この特区での生活がどういう意味を持つのか、少し理解できた気がする。

 ふたりから離れて、人混みの中をその人を探し始めた。一緒に花火を見たい。たとえ囚人だったとしても…。

(どこだ...)

「やっぱいないか」

 諦めかけた瞬間、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「タクヤ、よく頑張ったじゃん。見直した」

 心臓が跳ねる。リエの声だ。慌てて振り向く。

 その視線の先に、美しいシルエットが浮かび上がる。期待に胸が高鳴る。

『ヒュュュー』

『ポム』

 花火の光が夜空を彩る。その瞬間、シルエットの正体が明らかになる。

「え、マコトさん?」

 予想外の人物に、思わず声を上げてしまった。花火の光に照らされて現れたのは、リエではなく、マコトだった。

「え、なんで?今、リエさんいなかった?」

 混乱して尋ねると、マコトが不思議な笑みを浮かべた。

「私の名前、ローマ字にしてみて」

 リエの声で言われ、頭の中で考えた。

「リエ、Rie、Lie、あ、ライア。ウソとマコト?勘弁してよ」

「ふふふ、私は変装を得意としてるのよ」

 リエの笑い声に、不意に背筋が寒くなる。

「その声やめてください。じゃあ、ケイスケさんの家で自分たちが囚人だって教えてくれた時、なんで言わなかったんですか?」

 思わず詰め寄る。

「だって、その方が面白いじゃん」

 マコトの声に戻り、その言葉に絶句した。

「ところでタクヤ。ノルマ何日やってない?」

 マコトの突然の質問に、少し戸惑う。

「え?3日ですけど」

「お前、大丈夫か?」

 マコトの声に心配が滲む。

「だって3日だったら45分のペナルティーでしょ?どうにでもなりますよ」

「3日まではな。あれは、1日ごとに15分のペナルティーが加算されるんだ」

 その言葉に、不安を覚える。

「え?と言うことは」

「1日目のペナルティーが今日で30分、2日目のペナルティーが15分、明日になると3日目のペナルティーが加算される」

 頭の中で計算しようとするが、うまくいかない。

「え、じゃ、えーと」

「明日になると5時間30分やらないとペナルティーがなくならないよ」

 その言葉に、愕然とした。

「え?そんなぁ」

 絶望的な気分になりかけていると、マコトが軽く言った。

「ま、どうにかなるよ」

 その言葉に少し救われる思いがする。夜空を見上げ、今日の出来事を思い返す。

「ま、いっか。今日はこんなにきれいなもの見れたし」

 夜空に咲く花火を見上げていると、ふと横に人の気配を感じた。振り向くと、猫背の男が立っていた。

「ねぇ、花火の火薬ってなんていうか知ってる?」

 突然の問いかけに、少し戸惑う。

「いや、知らないっす」

 答えると、猫背の男はにやりと笑った。

「星っていうんだよ」


  ― 了 ―

いいなと思ったら応援しよう!