BIC特区-第33話 ソラリスの陽のもとに
ナオユキはテッシュウと歩きながら、ミサキの言った言葉を思い出していた。あの場では話さなかったが、ナオユキの周辺にも不可解な出来事が起こっていた。
アオイが初めて遊びに来た時に、正体不明の何かにセンサーが反応した。ここ数日の間に同様の反応が何回か起きていた。始めはセンサーの故障を疑ったが、反応するのが毎回違うセンサーなので、複数のセンサーが一度に壊れるとは考えにくい。念のために、システムを含めたすべてのセンサーをTIに故障診断させたが、異常は見られなかった。
こちらに危害を加えない限り、特に対処する必要はないと考えていた。しかし、それが不可解な出来事と何らかの関係があるのであれば、何らかの対応をすべきかもしれないと思い始めた。
テッシュウが右に曲がったので、それに続く。この先にはケンタとユウタの養殖場がある。ついでに寄っていくかと思い立って歩いていくと、養殖場の方から「ガシャン」と何かが割れる音が聞こえた。
「ふざけんなよ、この野郎!」続いて怒声が響く。
ナオユキとテッシュウはただならぬ雰囲気を感じ、走って養殖場に向かった。中に入ると、ユウタとケンタがつかみ合いの喧嘩をしていた。慌てて二人を引き離し、ナオユキがケンタを押さえ、テッシュウがユウタに飛びついた。
「二人ともやめろ!」ナオユキの腹から出る力強い一喝の迫力に、二人の気勢は一気に削がれた。
「とにかく落ち着け。いったい何があったんだ?」
「こいつが、アジとイワシを全滅させやがったんだよ」とユウタが大きな声で言った。
ユウタは身を起こそうとしたが、テッシュウが大きな前足で「ドン」と胸元を押さえた。
「だから、俺はTIの指示通りにしただけだって」とケンタが負けずに大きな声を出す。
右腕と左肩をナオユキに押さえられているケンタは、びくとも動けない。
二人を落ち着かせて、詳しく話を聞くと、ケンタはTIの指示でアジとイワシの水槽にマダコを入れたという。自然環境を少しでも再現しようとする二人の養魚方法では、時として天敵の魚を入れることも珍しくない。
「マダコって結構、どう猛な大食漢なんで、水槽に入ってた魚、全部やられました」
ユウタは、落ち着きを取り戻したのか、静かに言った。
「TIを確認したんですけど、そんな指示はしてなくて、ログを見てもどこにもそんなこと書いてないんですよ。どうせ、こいつが寝ぼけて聞き違えたんです」とユウタが言うと、ケンタがにらみ返した。
「だから、確かに指示されたんだって!音声と一緒に作業スケジュールも目で見たんで間違いないって」ケンタは泣きそうな声になった。
「まぁ、俺らが喧嘩しても、食べられちゃった魚が戻ってくるわけじゃないから、今度から気をつけろよ。大体、アジとイワシの水槽にマダコを入れたらどうなるかなんて、少し考えたらわかるだろう」
「ごめん」ケンタはしょんぼりとして、小さな声で謝った。
「ナオユキさん、すみません見苦しい姿を見せてしまって」とユウタが謝る。
「あ、そうだ!マダコ持ってってください。こいつ、いいえさたんまり食べてるからきっと美味しいですよ」と明るくケンタが言った。
ユウタがまた怒り始めるのではと思っていると、「それがいい、テッシュウにも食べさせてあげてください」と明るい声で続いた。
さっきまでつかみ合いの喧嘩をしていたのに、もうケロッとしている。何とも不思議な双子だ。テッシュウが顔をぷいっとそむけたので、「今日は遠慮しとくよ」と断った。
ケンタの思い違いかもしれないが、それでも不可解な出来事であることには変わりない。ナオユキは、近況報告も兼ねて、一度タダシさんに連絡してみようと考えた。
