BIC特区-第34話 招かれざる客
「俺は住民の誰かが退屈しのぎにいたずらしていると思うぞ」とシュウイチが話し出した。
「俺は、もっと別の何かだと思うんだけどなぁ」とイサムが腕を組む。
「お、刑事の勘ってやつか?」シュウイチがからかうように言うと、「そんなんじゃねぇよ」とイサムはグラスを空けた。
「ま、冗談は抜きにして、イサムはどんな奴が犯人だと思ってんだ?だって、ここでは多少のいたずらじゃ誰も困らないし、怒んないだろ。そんなことしても意味ないだろう?」シュウイチは酒瓶を持って、イサムの方に差し出す。
イサムがグラスを持ち酒を注いでもらいながら、「意味がなくてもやる奴はやるんだけど、俺はそうじゃないと思ってる」と言うと、ひと口酒を飲んだ。
「じゃあ、こんなことしても誰も困らないということを知らない奴?例えば住民選考にもれたやつとか?」シュウイチもひと口酒を飲む。
「あとは、特区から何らかの形で退去した奴ってのも可能性がないわけではないな」
「でも、特区の全域はTIがモニターしてるだろうし、逆恨みでするにはリスクがでかすぎないか?」とシュウイチが返す。
イサムはグラスを持ち直しながら、「だから、俺は違う視点で考えたんだ」と続けた。
「違う視点?」とシュウイチが眉をひそめる。
「特区住民を困らせようと思っている奴がやっているんじゃなくて、特区住民がいることで困っている奴がやってんじゃないかなって」とイサムが言い、グラスの酒をひと口飲んだ。
「特区住民がいることで困っている奴?」
「そう、もっと言うと特区があることで困っている奴ら」とイサムが言うと、シュウイチは首を傾げた。
「ここはベーシックインカム特区だから、住民が困ることはないし、税金だってちゃんと納めてくれてるんで、誰にも迷惑かけてないと思うんだけどなぁ」
「じゃあ、全世界がベーシックインカム特区になったとしたら?」とイサムが問いかける。
「そりゃ、みんなが食うに困ることもなくなるし、平等になるんじゃないか?」
「うん、作物や家畜にしたって、やりたい奴がやればいいし、TIが管理してロボット使えば、労働力が足りないなんてことはないからな」とイサムはフライドポテトを1本つまむと口に入れる。
「なるほどね!そうなると一部の人間は困るな」
「さすがシュウちゃん、察しがいいね。そうなんだ、一部の資本家や大企業はこれをやられるとたまったもんじゃないんだ」とイサムが苦笑いを浮かべた。
「自分らの特権がなくなっちゃうんだもんな」とシュウイチが共感するように言った。
「そう考えると、特区の内部の人間だろうと外部の人間だろうと関係ない」
「あとは、もしそうだった場合、そいつらが強引な手段に出なきゃいいがな」
そう言ったイサムの目には、現役時代を彷彿とさせる鋭さが蘇っていた。
