BIC特区-エピローグ Cの福音
アオイは、リビングでコーヒーを飲みながら昼間のことを思い出していた。
タダシは、落語のサゲのようなひと言を口にした後、誰もそれ以上何も言わないことを確認すると、「じゃっ、まだ俺やることあるから」と言って、ルイを引き連れて早々に会場を後にした。
タダシのサゲに呆れたのか、納得がいったのか、それを機に住民たちはぞろぞろと会場から出ていった。声に出す者はいなかったが、これからどのようにTIに接していくべきか、みんなが考えているように見えた。
アオイは、会場正面に立っている管理局長のクロキのことが気になり、流れに逆らうように歩き出した。
近づいていくうちに、クロキとスズキが話している声が聞こえた。
「すみません、局長。せっかくお越しいただいている間に大変なことが起きてしまいまして」
スズキが何度も頭を下げているのが見える。
「いやいや、大変興味深いものを見せてもらったよ。これからもよろしく頼むよスズキくん」とスズキの肩を叩いていたが、近づいてくるアオイに気付き、アオイの方に歩いてきた。
「また、お会いしましたね、アオイさん」
その瞬間、アオイは男のことを思い出した。あの面接の時に感じたおぞましさを。
「私は嫌いではなかったですよ。」
アオイは何のことを言っているのか理解できずに立ち尽くしていると、クロキはアオイだけに聞こえる小さな声でひと言だけ言って会場を出ていった。
「Anthropic or Innovative」 (人間的か革新的か)
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「ルイ、どうだ?」
キシャルとの騒動があった翌日の未明、中央管理局前でうごめくふたつの影。
「もうちょっとです。それにしてもタダシさん、何で騒動の翌日にこんなことするんですか?怪しまれますよ」
「俺だって、もっと早くやる予定だったんだけど、あの野郎、スペルミスなんてしやがって、おかげで帰りが遅れたじゃねえか」
「それにしても、僕の動き筒抜けでした。呼び出されて色々聞かれちゃいました」
「だから言ったろ、お前は泳がされてるだけだって」
「よし、できた」
少し離れたところで、ふたりは建物を見上げた。
「暗くてよくわかんないですね」
「まあ、いいさ。じきに夜が明ける。帰るか」
そう言うと、ふたりは音もなく闇の中に消えていった。
朝日が昇り建物を照らし始めた。やがて、建物に書かれている文字が浮かび上がる。
『Basic Income Coexistence Special Zone』(ベーシックインカム共存特区)
― 了 ―
