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BIC特区-第19話 消えた青年①

「秘密を守れる人間などいない。唇が沈黙していても、指先でおしゃべりし、裏切りはすべての毛穴から漏れ出す」-ジークムント・フロイト

 やっと特区の住民になることができた。本当なら第一期住民公募に応募したかったが、まだ19歳だったので応募できなかった。20歳に満たない者の移住は、20歳以上の保証人か保護者と一緒でないといけないという決まりがあったからだ。

 特区の住民になることを許可されたことを友人に話すと、「働かなくても生きていけるんでしょ、勝ち組決定やな」とか「SNS禁止とか私には絶対無理」などと言われた。

 正直、SNSにはほとほと疲れていた。映えのために食べたくもないものを注文したり、はしゃぎたくもないのにはしゃいだりするのには、もう限界だった。

 これからは、自分のことを誰も知らない環境で、自分らしく生きていけるのだ。

 特区に来て、最初の数週間は毎日特区内を歩き回り、さまざまな人に会ってみた。野菜を育てている人、果物を育てている人、酪農をしている人など、いろんな人がいて、いろんな話をして、いろんな収穫物をもらった。時には、同じ二期の住民に会うこともあり、雑談を楽しんだ。

 ここでは、これまでの僕を知っている人はいないし、何をやってもいいし、何もしなくても生きていけるし、好きなことをして生きていける。

 僕は自由で、僕の世界はここから無限に広がっていく……はずだった。

 僕はまず、集落での自分のポジションを獲得するため、『使える男』になるつもりだった。そのために数週間集落を観察したし、なにより集団の中でどこに収まればみんなに一目置かれるかを見つけるのが得意だった。

 手始めに、果実を栽培しているところに行ってみた。夫婦ふたりで果樹栽培をしていて、子供もいるので人手には困っているはずだと考えた。

「何かお手伝いできることはないですか?」と尋ねると、少し考えた後、「今のところないかな」と言われた。

「もし、君が果樹を育ててみたいなら、色々と教えてあげれるけど」と言われたので、「あ、大丈夫です」と答えて、果樹園をあとにした。

「まだ忙しい時期じゃないのかな。あ、もしかしたら年頃の娘さんがいるので警戒されたかな」と考え、次の目的地を考えた。

 次に決めたのは、稲作をしている人のところだった。かなり年配の夫婦で、年齢的にも体力が衰えているので、きっと役に立てると考えた。

「何かお手伝いできることはないですか?」と尋ねると、少し考えた後、「今のところないかな、今はTIがサポートしてくれるし、農業用ロボットも導入してるから」と言われた。

「あ、でも稲作に興味があるなら、色々と教えてあげられるよ」と言われたので、「あ、大丈夫です」と答えて立ち去った。

 その後は、野菜栽培、生花栽培、キノコ栽培、魚の養殖、酪農と次々に回ったが、返ってくる言葉はどれも同じだった。

 何の成果もなく家に帰ると、仕事はもらえなかったが収穫物だけは袋一杯もらってきたので、適当に切って塩コショウで炒めて食べた。

 ベッドに横になり、今日の出来事を思い返す。「やっぱり、一次産業は自分には向いていない」という結論に達し、明日はどこを攻めるかと考えているうちに、いつの間にか眠っていた。
 
 昨日の経験を活かして、今日は全く別のことをしている人たちのところに行くことにした。

 最初に、何度かご飯をご馳走になったことがある中年女性の家を訪ねた。

「何かお手伝いできることはないですか?」

「まぁ、若いのに料理に興味があるの?」と驚かれて、料理に関する話を長々と聞かされたが、結局手伝いはいらないと断られた。

 次に、同じ二期住民で最近お菓子作りを始めたおばさんのところに行ってみた。

「何かお手伝いできることはないですか?」

「ごめん、今、余裕ない」と断られた。「余裕がないから手伝いが必要なんだろう。一生甘い匂いの中で、甘い夢でも見てろ」と心の中で悪態をついた。

 結局、どこに行っても結果は同じだった。

「何なんだよ、ここの住民どもは。こんなに若くて体力もあって、素直でなんでもやる好青年がいるのになんで使おうとしないんだよ。今あるリソースを適材適所に使って最大の成果を得るというのができる大人ってもんだろう。使えないやつばっかりだ。」と不貞腐れた。

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