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BIC特区-第35話 炎の塔

 それからも、仔牛が迷子になったり、イノシシが田んぼの中を走り回ったりと不可解な出来事が続いた。中には、頼んでいた麦焼酎が芋焼酎に代わっていたり、ヒールのかかとが折れたりと、勘違いや間違い、偶然が原因と思われることもあったが、もともと刺激に飢えていた住民たちはこぞって面白がった。

 そして、事件が起こった。

 その日、アオイはなんだか気分がすぐれず、家で本を読んだり、音楽を聴いたりして過ごしていた。食欲もなかったので、夕方にはベッドに横になり、気付いたら眠っていた。

『ビー、ビー、ビー』

 突然の注意信号に驚いて飛び起きた。すると、暖色の明かりが点灯し、部屋全体を薄暗く照らした。

「エリザ、なにごと!?」信号が停止し、目の前にホログラムディスプレイが浮かび上がる。

『集落内の空き家で火災が発生しているようです。アオイに直接危害が及ぶ可能性はありません』

「なんだ、じゃあもう消火はしてるわけね」アオイが安心すると、

『いえ、まだ燃えています。現在、周辺の住民が消火活動を行っています』

「え!」

 特区内の家はすべて最新のテクノロジーが導入されていて、TIがそれらを管理している。部屋の温度などもモニターしており、火災が発生した場合、冷却不活性化ガスを噴出して瞬時に消火する。そのほかにも中央管理局への通報、近隣住民への避難指示などを総合して行うため、住民が消火活動をしているという状況は理解しがたいものだった。

「管理局は何やってんの?」

『確認します…。管理局へは自動通報はされていないようですが、先ほど住民の誰かが通報したようです』

「え、なんで?エリザ、現場の誰かに連絡できる?」

『確認します…。火災現場で対応できる人はいませんが、避難場所にいるミナコさんなら連絡できるかもしれません。呼び出しますか?』

「お願い」とアオイが言うと、ホログラムディスプレイに『ミナコさんに接続待機中』という文字が表示され、続いて『接続完了。音声のみの通話になります』という表示に変わった。

「ミナコさん、アオイです。大丈夫ですか?」

「こんばんは、アオイちゃん。こっちは全然大丈夫。心配してくれたんだね、ありがとう」

 落ち着いた声でゆっくりしゃべるミナコの声を聞いて、アオイは安心した。

「なんか住民が消火活動をしてるって聞いたんですけど、人手足りてますか?」アオイが慌てて聞くと、

「それは、大丈夫みたい。いましがた消火ドローンと管理局の車が通ったんで」とミナコはゆっくりと答えた。

「でね、笑っちゃうのが、シュウイチさんとイサムさん、私が避難場所に移動してたら走ってきて『火事場はどこだ?』ってすごい形相で、シュウイチさんは農業用の冷却スーツを着てハアハア言ってるし、イサムさんは『犯人は現場に戻る』なんて言って走って行っちゃったの」とミナコはふふふと笑い、「あの世代は、張り切っちゃうんだよね。怪我しないといいけど」と続けた。

 アオイは、何かあったら何時でもいいので連絡してくださいと伝え、接続を解除した。

 ホログラムディスプレイの時間表示を見ると、2時を過ぎていた。

「エリザ、ミサキさんに接続して」

 この時間だけど、注意信号は集落の住民全員に発信されているはずだし、寝ていたらN3デバイスが検知して教えてくれるので大丈夫だろうと考えて、連絡してみることにした。何より、妙な胸騒ぎがするのでミサキと話をして落ち着きたかった。

 ホログラムディスプレイには『ミサキさんに接続待機中』という文字が点滅している。

『申し訳ありません。ミサキさんに接続することができませんでした』

「そっか、もう寝ちゃったか」とアオイが残念がっていると、

『そうではありません。技術的な問題かと思われるのですが、ミサキさんのデバイスを見つけることができませんでした』

「え、どういうこと!?」アオイに緊張が走る。

『ミサキさんの家にアクセスしたら、不在のようでしたので、直接ミサキさんのデバイスにアクセスしようとしたのですが、見つけることができませんでした』

「それは何が原因なの?」

『デバイスの電源が切れているか、デバイスが故障しているかのいずれかが原因と思われます』

「探すことはできないの?」アオイの声に少し苛立ちが混じる。

『N3センサーおよびデバイスの追跡情報を解析すれば可能ですが、残念ながらアオイにはその権限が許可されていません』

「どうしよう、管理局に通報したほうがいいかな」とアオイが落ち着きなく部屋を歩き回っていると、

『アオイ、落ち着いてください。昨日のミサキさんとの会話の中に、最近N3デバイスの調子がおかしいというミサキさんの発言がありました。おそらくデバイスの故障が原因だと思われます。念のために管理局には連絡しておきました』

「ありがとうエリザ。あんた出来るね」とアオイは、少し落ち着きを取り戻し言った。

 アオイが寝室に戻り、ベッドに横になると、すぐに新着メッセージを知らせる信号が入った。ミサキかと思って急いで体を起こし、ホログラムディスプレイを呼び出すと、管理局からの一斉通知だった。チッと舌打ちし、中央管理局からのメッセージをタップした。

件名: 空家火災についてのお詫びとご連絡

 住民の皆様、

 深夜に突然の注意信号により、ご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。今回の火災に関して、いくつかご報告とお願いがございます。

 まず、本日未明に発生した空家での火災は、無事に鎮火いたしましたことをご報告いたします。近隣の住民の皆様には大変ご迷惑、ご不安をおかけしましたことを重ねてお詫び申し上げます。また、消火活動を行っていただきました住民の方々には厚く御礼申し上げます。

 現在、火災の原因については鋭意調査中でございます。

 この件に関する住民説明会を明日開催いたします。説明会の時間および場所については改めてご連絡いたしますので、続報をお待ちください。なお、オンラインでの参加も可能となっておりますので、ご都合に合わせてご参加ください。

 現時点では、怪我や火傷の報告は受けておりませんが、もし何か異常がございましたら、速やかに管理局までご連絡くださいますようお願い申し上げます。

 ご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 中央管理局

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