透明な変革 - ショートショート -
「だから、私たちのことをお父さんたちにも認めてもらいたいの」
ダイニングテーブルを挟んで両親と向かい合う娘の声が、静かな室内に響いた。
「だから、お前の好きにすればいいよ。別に止める気もないし」
父は平然と言った。
「私も別にいいと思うわ。あなたが幸せなら」
母も同調した。
「そうじゃなくて!」
娘の声が高まる。
「私たちみたいな生き方や思想を認めてもらいたいの!」
「お父さんたちが、それを認めたら何か変わるのか?」
父が静かに問いかけた。
「私たちは、自分の生き方を世間的に認めてもらって差別のない世界を作りたいの」
「お父さんたちが認めたら世間的に認められたということになるのか?」
「そうじゃないけど」
娘は息を荒げる。
「お父さんたちみたいな古い考え方の人が世の中多すぎるから私たちみたいな人たちが苦しむの!わからない!?」
父は深呼吸をして、穏やかに切り出した。
「お前、オタクって知ってるか?」
「知っているわよ!それが何!?」
「お父さんたちが若いころは、オタクっていう言葉はどちらかというと、悪い意味で使われてたんだ。アニメばかり見て自分の世界に閉じこもってる人を見て、『あいつ、オタクじゃん気持ち悪い』とか、ネガティブな感じで使われてた」
「それが何?」
「それでも、オタクたちは、そんなことには気にも留めず、自分の好きなことに向き合って生きていた」
「……」
「それが、いつの間にか世の中に浸透して、今では若い人が『俺アイドルオタクなんで』とか『アニオタなんで』とか平気で言うようになったし、それを気持ち悪いという人はいなくなった」
「私もオタクになれってこと?」
父はほっと笑った。
「そうじゃないよ。大事なのは、オタクの人たちが自分を認めろとか、差別するなとか、そんな活動を大っぴらにしていたということを少なくともお父さんは知らない。彼らは、自分の好きなことに向き合うことに一生懸命でそんなエネルギーなかったんじゃないかな」
娘は黙り込んだ。
「そして、彼らは今では世の中に認められて市民権を得ている。そんなものじゃないのかな?」
この人たちに言ってもしょうがない。娘は心の中でつぶやいた。家を出る決心が、静かに、けれど確実に固まっていった。
