傷を残したまま
5月18日、昔の職場の同期からこんなLINEがきた
「〇〇さんお疲れ様です
久しく連絡してませんでしたが、
お元気で過ごされていますか?」
私は
「今度飲み行く?」
と返事をすぐに送った
元々、21日に昔の職場の先輩と飲みに行く予定だった
同期も、その先輩と一緒に働いていた
だから、同期も一緒に飲まないかと誘った
私には同期が2人いる
俗にいう、同じ釜の飯を食べた仲
和食の料理人だから、実際に食べている
よく私の住んでいた寮で、川の字で寝ていた
この同期は、いつもお酒を飲んでいた
朝早くに私が目を覚ますと、
同期は枕元であぐらをかき、
ウイスキーかなにかを飲んで黄昏ていた
哀愁が漂いすぎていて、
私は見なかったことにしてもう一度寝た
同期2人とは、2年後にはみんな違う店舗に配属となっていたが、繋がりはあった
仲も良かった
ギスギスとしたことがない
同期は、私が飲みに誘った事をとても驚いていた
飲みに誘われるなんて考えもしていなかったのだろう
私は、酒がとても嫌いだった
それを同期は知っていた
誰かを飲みに誘うなんて、今年からの試みだ
同期を飲みに誘ったのには私なりの理由がある
なぜか敬語になっていた
いつもタメ口だったはずなのに
心の距離が遠のいたのだなと感じた
去年の1月13日、私が退職する旨を連絡して以来、なにも関わりがなかったので無理もなかった
同期に退職する事を伝えた時にはこの様なLINEがきている
「詮索するつもりは無いけど、職場環境が変わればメンタルとか心境が良い方向に変化する兆しは無い感じ?」
私は、嘘の返事を送っていた
「職場の雰囲気とかメンタルがやられてとかで辞めるわけでは無いから心配しないで。
何年も辞めるつもりで言えてなかったから今年こそは言おうかなって思ってね。」
事実と真逆なことを書いている
私には、隠す癖があった
本心を、誰にも悟られないように嘘で塗り固める
そうして自分の、心を殺す
そんな生き方をしていた
今は、隠す気がさらさらない
私は私だと、自信を持っている
5月21日、仕事終わりに3人で集まって飲んだ
同期は、相変わらず太っていた
それに、相変わらず額には『傷』があった
サランラップを副料理長から投げつけられ
同期の額は裂けた
何針も縫った跡を、久々に目にした
同期からは「変な誓約書を書かされたよ」と
12年前に聞いた話を思い出した
この件について
口外しないこと
裁判を起こさないこと
この契約が、仕事を辞めても有効なこと
副料理長は、お咎めなしだった
同期は額の傷をなんとも思っていないが、
私はこの傷を見ると悲しくなる
まるで同期が、問題を起こした側だったかのような傷
居酒屋には、1時間半しか滞在しなかった
同期は明日も仕事がある
終電で帰らないといけない
1時間半では、思い出話をしているだけであっという間に時間が過ぎる
2人の本心を聴くには、時間が足りなかった
2人とも、仕事を辞めたいと思っている
だが、自分が辞めたら店に迷惑がかかるとも思っている
それだけが、言葉には滲んでいた
2人は、とても辛そうに見えた
私に出来るのは、今の自分を見せることだけ
どうすればいいのかは、自分で決めること
私の出る幕ではない
私と先輩は、翌日が休日だった
2次会にいかないかと先輩を誘った
元より、先輩の本心を聞くために、先輩を飲みに誘っていたのだ
「おばあちゃんが病院に行くかも知れないから帰らないと」と言って先輩は帰った
先輩は、昔からよく逃げ道を作る
