13日間の山ごもりを終えて
ニューヨークの6畳もないベッドルームに戻り、ゴミ収集車が前の通りを走る音をBGMに13日間の体験を振り返っている。手元には、レジデンシーから持って帰ってきたピーナッツバタークッキーがあと2つだけ残っている。
このクッキーを食べ終えてしまったら、旅から持って帰ってきたモノは全てなくなってしまう。残るのは私の中にある記憶だけで、消えないうちに急いでここに書き留めておきたい。
そう思って書こうとしたのに、言葉が出てこない。
ニューヨークに戻ってきて車のクラクションの音が鳴っても、私はあの森の静けさを忘れまいと
職場に戻りいつもの日常が戻ってきても、朝の散歩道を通るあの時間の流れを忘れまいと
この数日間ずっと、そう誓い続けてきたのに、このnoteを書いている私は今、「君の名は」で三葉とタキくんが必死にお互いを覚えておこうとしてもボロボロ記憶が落ちていってしまうあのシーンの中にいる気分だ。
今日人混みの中を歩きながら、
「もはや、あの森の中で13日間過ごした時間は幻だったのではないか」
そう思う瞬間さえあった。
でも、私の思考回路を頭から心に切り替えてみると、あれが幻ではないことをちゃんと覚えている。
なぜなら、滞在3日目に離婚をしたときの心の痛みが今もちゃんと残っているから。もしかしたら、あのタイミングで離婚をしてくれたのは、夫からの最後のギフトであったのかもしれない。
誰かに話して無理にポジティブな言葉をかけてもらうこともできず、
仕事を入れて忙しくして見て見ぬふりもできず、
ただ一人で痛みと後悔を受けとめ泣いた時間は、私の宝物である。
「後悔しても仕方がないから、振り返らず前を向こう」
基本的に私はそういう思考の人間だ。
でも世界で一番大切な人を失った今回に限っては、ちゃんと夫にしてしまったことや自分の判断を後悔しないと、もう彼はいないという現実を受け入れることができなかったと思う。
帰りの飛行機の中で、スティーブン・ソンドハイムのミュージカル"Merrily We Roll Along"を見た。
作曲家の主人公フランクが、若い脚本家に「どうしたらあなたみたいに成功する作品が書けるのか」と聞かれ、彼はこう答えた。
Don't write what you know. Write what you feel.
フランク演じるJonathan Groffがトントンと心臓に手を当てた。
「感じる」とはどういうことなのか、それを痛いほどに思い出させてくれたこの13日間を、私はきっとずっと忘れない。

いいなと思ったら応援しよう!
応援いただきありがとうございます