13日間の山ごもり 7日目
ついに2週間の滞在も折り返し地点に来てしまった。
そんな7日目の夜
私は人生で初めて
オバケを見た。
その話は後半に記載するとして、7日目は宿泊者の一人、サムの最終日でもあった。そのため、夕食後みんなでお別れ会ならぬ「朗読会」をすることになった。
5人の宿泊者一人一人が、自分の作品や自分が感銘を受けた作品を持ち寄って5分間の朗読をしようというもの。
私は今作っているミュージカル作品の1つ前のドラフトを持っていくことにした。好きなシーンだったけれど、長編作となると辻褄が合わないためお蔵入りになったバージョンがある。せめて今日みんなに聞いてもらえたら嬉しい、そんな気持ちだった。
今日は一日雨だったため、夕飯まで外に出ずコテージで過ごすことにした。

なんとランチには、半熟卵が!ニューヨークのレストランで半熟卵の親子丼を食べた後一晩トイレで過ごすことになってから、私はアメリカで火の通り切っていない卵を食べることは避けていた。
でも、このファームで取れたフレッシュエッグならきっと大丈夫。
数ヶ月ぶりに黄身のとろりとした感触を舌が受け取り、体が喜んでいる。自分で料理できるなら、この卵を使ってすき焼きをしたいくらいだ。


夕飯は私の大好物ミートローフにマッシュポテト。これを焼きたてパンと一緒にいただけるのでおかわり必須だ。
デザートも食べてひと段落したところで、私たちは隣のライブラリーに移動。

まずは、サムが息子さんの書いた小説を朗読してくれた。
息子さんが20歳の時に書いた作品だが、日本の小説でいう十二国記のような異世界が描かれ、たったの5分間だったが、私たちは壮大なファンタジーの中にいた。
物語も素敵だったが、何より私は、お母さんが息子の作品を読んで私たちにシェアしてくれている光景に、胸が熱くなった。
次に、マリアが昔書いた弟の伝記をシェアしてくれた。
アメリカの中流家庭から見える景色、まだ5歳くらいの時に、2人目の母親が家に来た時の感情が語られていた。さらに、この本を書こうとした背景には、弟さんが統合失調症で意識を失っている間に事件を起こしてしまい、今も裁判が継続中であるという現状があることを語ってくれた。
少し重い雰囲気になったので、次は私のコメディミュージカルを発表した。私の拙い発音でもみんな一生懸命聞いてくれて、たくさん笑ってくれて、ちょっと安心した。いろんな劇場に応募して全く選ばれなかった作品だけど、こうして誰かに聞いてリアクションを見れる時ほど嬉しいことはない。
次にジェニファーが、自らのがん治療体験をもとにした自叙伝を読んでくれた。
イリーナは、サウジアラビアで生まれ、母の手に引かれながら真っ黒のガウンを纏って見た世界を書いていた。初めて口にした言葉は「バナナ」次の言葉は「ブーン、ブーン、ブーン」爆弾が落ちる音だった。
まだ知り合って7日間なのに、私たちは自分の作品を通して家族のこと、憎しみのこと、愛のことを、温かく語り合うっている。この森の中の静けさと美味しい料理が、そんな魔法を作ってくれているような気がした。
全員の朗読が終わると、もう空は暗くなりだしていたため、サムとハグをして、みんなそれぞれのコテージに戻って行った。
夫の別れと、新しい出会いと、孤独な時間、全てを同時に体験している、なんて不思議な時間なんだろう
そう思いながら、すっかり暗くなった森を窓からぼんやり見つめていた。
すると、外で白いペンライトくらいの大きさの光が移動しているのだ。
イリーナのコテージの方から、私のコテージの前を通り、去っていく。
イリーナが薪でも取りに向かっているのかな?
窓に近づき確認してみようかとも思ったけれど、別の私が見ないほうがいいと言っているような気もして、私は自分の暖炉にくべる薪に集中することにした。
次の日、イリーナに夜10時ごろ外を歩いていたかと聞いたけれど
「そんな時間に出るわけないでしょ」
と言われ、他の2人も外を歩いていないと言っている。
「だから夜遅くに、カーテン閉めず外を見るのはやめるべきなんだって」
とジェニファーから注意を受けてしまった。
今朝帰って行ったサムかな?
とも思ったけれど、全然違う方向のコテージに滞在しているサムが、果たしてそんな遅い時間に外を出歩くのか…と疑問は残る。
サムにメールして聞いてみればいいのだけれど、これで「私じゃない」と言われたら幽霊決定になってしまう。
あえて確認せずサムだったかもしれないし、巨大蛍だったかもしれない、ということにした。
いやもしかしたら、離婚した夜に泣きながらさくらももこ先生に「どうか、私の前に現れて励ましてくれないでしょうか」と祈ったので、本当に来てくれたのかもしれない。静岡の清水から、太平洋をこえて、はるばるワシントン州の外れの島まで…
この真っ暗な森の中では、
「せめて人間よりは、オバケであってくれ」と切に願ってしまう私がいた。
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