大関よりも重い支出伝票
「ほな、これは、小錦よりも重い伝票やということやな?」
私が自治体職員時代、課長補佐からかけられた問いである。
とある木曜日の夜、娘が通う幼稚園からLINEが入った。
「明日、当園の保護者さんの繋がりで、元大関の小錦さん(Eテレ「にほんごであそぼう」に出演していた「コニちゃん」)が来られることが急遽決まりました。各家庭、保護者さん、または祖父母の方2名まで来ていただけます。」
なんやて!?
こんなん、行きたいにきまってるやんか!!(言い方荒いねん…。)
私は普段、スポーツ観戦をほとんどしないけれど(オリンピックもワールドカップもほとんど観ない)、なぜか、お相撲にだけは興味をもっている。
一番に係る時間が数十秒~長くても数分、ルールも分かりやすい。
(サッカーのオフサイドってなんだよ…。)
大阪場所に足を運んだことも数回。
一度ご縁で「砂かぶり席」に座ることができ、大相撲中継に映り込んだこともある。
(出かける前に録画予約をしておいた。なんてミーハーなんだ…。)
さらに、いまや娘がリアルタイムで観ているEテレ「にほんごであそぼう」に出演している「コニちゃん」である。
こんなん、絶対会いたいやん!!
生で「私と小鳥と鈴と」聴きたいやん!!
しかしながら。
私は翌日も仕事。
普段は気軽に有給を申請しやすい部署だけれど、私には締切の迫った支出伝票が…。
当時、私は、部署の庶務担当として複合機のリース代の支払業務を担っていた。
このころ、私ではない所属職員のミスで(←いまだにネチネチ振り返る)、リース代予算が足りなくなっていた。
ミスが発覚し、幼稚園からこのLINEが来るまでの2ヶ月ものあいだ、私は、リース代予算を流用してもらうよう、要求書を書いては修正指示、書いては修正指示…を繰り返していた。
けして怠慢をしていたのではなく、上司や経理部門に振りまわされながら、2ヶ月を過ごし、リース代の支出伝票の期限はあと2営業日に迫っていた。
…これ、休んだらアカンやつよな。
しかも、休むってなったら、当日朝に急遽連絡入れて休むヤツやし…。
わ、私のせいじゃないのに~~!!
こういうわけで、私は、「コニちゃん」に会いにいくことを泣く泣く断念したのである。
せめて動画だけでも…と思い、夫に行ってもらうようお願いしたのだけれど、そちらも「急には休めない」とのことで断られてしまった。
やむなく、同居の実両親に頼み込んで急遽予定を空けてもらい、かわりに「コニちゃん」に会いにいってもらうことになった。
(ちなみに、夫も実両親もお相撲好きである。)
さて、翌日。
私は仕事である。
一生に一度あるかないかの機会を投げうって、9000円の支出伝票の決裁をもらうため、ほとんどこのためだけに出勤した。
期限も迫っているため、持ち回りで決裁をもらう。
そんななかで、私は、課長補佐に、前日夜からのできごとを恨みがましく話したのである。
(課長補佐は何も悪くないから、恨みがましく…なんて、完全に私の八つ当たりなのだけれど。)
それで返ってきたのが冒頭のセリフであった。
補佐 「ほな、これは、小錦よりも重い伝票やということやな?」
私 「はい!そうです!」
はっきりと答えておいた。
「だから早く決裁の印を押してまわせよッ!!」という念を込めて…。
いや、本当に、補佐は何も悪くないのだけれど…。
言いやすい人だったので、つい…。
私の念が通じたのか、決裁ラインに8人ほどの人がいたにもかかわらず、9000円の支出伝票はその日中にまわりましたとさ。
…いや、本当は、「コニちゃん」は9000円の伝票なんかよりもずっと重いんだよ。
しくしく…。
その日の夜、仕事から帰宅したあと、私は両親から「コニちゃん」の動画を見せてもらった。
「コニちゃん」は「私と小鳥と鈴と」を生歌唱していた。
自己紹介で、「昔、お相撲をしていました。知ってる人~?」と聞いていた。
4歳~6歳の園児たちが、元気よく「はーいッ!!」と手を挙げていた。
…ホンマかい。
動画から感じられたのは、「コニちゃん」の、優しくて大らかな人柄。
小さなスマホを通してでも伝わるその優しいオーラに、やっぱりホントに会いにいきたかった…と、私は、心残りと温かい気持ちとで、目がじんわりと潤んだのだった。
📷トップ画像お借りしました。ありがとうございます。
