【3分小説】 人形遣いに恋した少女 ⑤
『 落日 』
千秋楽の夕方、劇場にはこれまでで最も多くの観客が集まった。雅楽の評判は口コミで広がり、チケットは完売していた。
美月はいつもの最前列で、雅楽の最後の公演を見守った。演目は初日と同じ『曽根崎心中』の現代版。しかし、雅楽の表現には、これまでにない深い感情が込められていた。
主人公が愛する人を想う場面で、雅楽は客席の美月を見た。その瞬間、美月には雅楽の気持ちがはっきりと伝わった。これは美月への愛の告白だった。観客は気づかないが、この物語は美月のために演じられている。
クライマックス、心中の場面。雅楽が演じる主人公は、愛する人と永遠に結ばれることを願いながら、この世を去っていく。その表情には、諦めと同時に、深い満足があった。
公演が終わると、客席は割れんばかりの拍手に包まれた。何人もの観客が立ち上がり、拍手を送った。雅楽は何度も頭を下げ、そして最後に美月だけを見つめて、小さく頭を下げた。
観客が去った後、美月は舞台裏で雅楽と最後の時間を過ごした。
「素晴らしい公演でした」美月は涙を堪えながら言った。
「あなたがいてくれたから」雅楽は微笑んだ。
「私は本当に幸せでした」
「私も」
二人は静かに語り合った。思い出を共有し、感謝を伝え合い、そして別れの時を迎えた。
「美月さん、私からお願いがあります」雅楽が言った。
「何ですか?」
「私のことを忘れないでください。そして、あなたの人生を精一杯生きてください。いつか、あなたが何かを表現する立場になったとき、この三週間の経験を思い出してください」
「忘れません。絶対に」
午後七時。システムの停止時刻が来た。
「さようなら、美月さん」
「さようなら、雅楽さん」
美月がそう言った瞬間、雅楽の目の光が消えた。人形は静かに倒れ、声も途絶えた。
美月は涙を流しながら、動かなくなった人形を見つめた。こうして、三週間の恋が終わった。
