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RUST(ラスト) : 監視社会のノイズ 13~16

 監視システムが広がっていく近未来

13
 中津のアジトは撤収した。トウイたちは東京へ移ることになった。隣のアナーキスト老人は寂しがってくれた。トウイも。老人はハーバーに協力したいと申し出てくれた。リナは断ったが、老人は頑なに頼んだ。後の人生を誰かのために生きたい。今までそんなことは思わなかったが、トウイと知り合ってそう感じたと。トウイは少し涙ぐんでいた。リナは上と相談して連絡すると言った。

 リナとトウイは下北沢の教会にいた。リナの両親が待っていた。
 リナとトウイは興奮気味に、大阪での『作戦・に』のテストミッションを報告した。
 友里は真顔になって
「ご苦労様でした いろいろデータが取れて 今後の参考になりました 作戦も正確に実行してくれて 経験出来たことも良かったと思います でも 今の二人では 本番に失敗すると思います 」
 トウイはリナを見て、リナは母親を睨んだ。
「なぜ ですか 」
「リナ そういうもんなんだ 」
 リナは父親を見た。
「分かりません ちゃんと 教えてください 」
「じゃあ こっちへおいで 」
 リナは両親の後ろ姿を睨んだ。
 礼拝堂へ移り、勇人は祈りだした。
「天の父なる神様  リナたちが大阪での役目を無事に終え こうして東京へ導かれたことを感謝いたします  今 リナたちはさらなる大きな舞台を前にしていますが どうか二人の心をあなたが見守ってくださいますよう  主よ 私たちは自分の力で成し遂げたと思うとき 知らず知らずのうちに自らの『欲』を握りしめ 『おごり』の中に身を置いてしまいます 成功を自分の手柄とし あなたの恵みを忘れてしまう私たちの愚かさを どうかお赦しください 今 リナたちの心から 自分を誇る思いや 結果を追い求める焦りを取り除いてください 彼女たちが自分の力に頼るのではなく あなたに生かされていることを思い出し 空っぽの心であなたの御用を果たすことができますように  どうかこの場所で 彼女たちが 本当の謙遜を知ることができますように  主イエス・キリストのお名前によってお祈りします  アーメン 」
 静かに聞いていた二人はじっと前を見ていた。

 それ以上の説明は、勇人も友里もしなかった。
 両親は霞が関の雑居ビルに戻り、リナとトウイは、引っ越しのため、リナの部屋へ行くことにした。

14
 トウイは、久しぶりに部屋を見て懐かしがった。
「なにこれってやつばっかり いつも思うけど よく落ち着けるよな 」
 胸の辺りまである石こうの塊の頭をペタペタ叩くトウイ。
「精神構造が あなたとは違うのよ 」
 軽く首を傾げて 
「そんなもんかね 」
「これ 全部壊して 河原に捨てに行くから 今晩 」
 トウイは声に出さず、「全部 俺が 運ぶんですか 」と自分を指さす。
 リナも声には出さず、「そうよ 」と頷く。
 リナはアフリカンファブリックを片付けだした。そして1時間後、グリーンクリーンキャリーと描いたジャケットを着た清潔系男子が二人来て、植物をすべて持ち出した。そしてまた1時間後、引取屋と描いたTシャツをセーターの上に着たガテン系男子二人が来て、家財道具を運び出した。後に残った衣類とパソコンなどは大きめのキャリーバッグに詰め込んだ。トウイはまだ、石こう像を破壊していた。
 すべての破壊された石こうの山を見て、自分の姿とダブって見えたトウイは、嫌な気持ちになって、忘れようとした。そして、河原へ何度も往復した。
 最後の河原から戻ったトウイに、リナが声を掛けた。
 「銭湯 行くよ 」
 トウイは 「こいつといると 殺される 」と心の中で叫んでいた。
 シャッター街になりつつある商店街の小さな店で、お好み焼きともんじゃ焼きを食べ、ビールを飲んだ。
「トウイはお好み焼きだ 」
「リナはもんじゃだなあ 」
「俺は 形が決まっていて 融通が利かない 」
「私は 形が決まらず 自分を探してる 」
 そんなことを言って、また乾杯した。
 用心のため、その夜は3時に部屋を出た。あの白タクが時間通りに迎えに来ていた。そして3時間後、警察が踏み込んだ。そこにはメモが残されていた。
『NEED OIL NOT RUST』
 見つけた警察官は首を傾げて、刑事に見せた。
「なんか いやな感じだなあ 」

15
 スティーブがまたやって来た。北京での仕事を終わらせて。『作戦・に』のテストミッションを見ていて、参加したくて仕方がなかったとのこと。いろいろアイデアと協力者を紹介したいと。
 そして、あのアナーキスト老人:権田姫三郎も東京に来てしまった。トウイは喜びつつ慌てた。
「どうするのよ おじさん 」
 トウイは保護者のような気分でいる。
「トウイと一緒に暮らそうと思ってね 」
 トウイは驚いた。そこは、青葉台の豪邸が続く地域。250坪はある豪邸の離れを自由に使っていいことになっていると権田は言う。
「昔 世話をしたことのある研究者の父親が残した家じゃ 投資のアドバイスをしたら億単位で設けたらしい 礼をすると言われたが断った それで 今回 借りを返せと言ったら ここをどうぞって 」
 トウイは目まいがした。
「公安は結構掴んで居る 気を付けた方がいい 」
 リナから聞いていたのと、同じ人物だろうか。勇人と友里は歓迎した。スティーブとも気が合った。スティーブと権田は哲学の話で盛り上がった。特にシモーヌ・ヴェイユで。はじめは、ハイアットリージェンシー東京に宿を取っていたスティーブは、ほとんど青葉台に入り浸った。トウイは二人の会話はチンプンカンプンだった。
 リナは新しい棲み処をトウイに教えていない。バイクで外出することが多くなり、トウイは少し物足りなさを感じた。が、仕方がないと自分に言い聞かせた。
 一方、ROSTのホシ、ラン、ミチは、ライブハウス『ギャンゴ』のオーナーの江の島の別荘で暮らしていた。スタジオもあり楽しく曲作りをしていた。トウイも時間があれば通っていた。そこからYOUTUBEの配信も行い、チャンネル登録者を増やし続けていた。発信はROST全員で仮面を着けて、ほぼ毎日行っていた。
 そして、ハーバーは『作戦・に』の準備が整いつつあった。SNSの発信で協力を得られるユーチューバーなども50人以上になっていた。しかし、体制側からの協力金を受け取っているユーチューバーも増えており、警戒を要した。が、配信を受けるオーディエンスのモラルも上がってきている。体制側と繋がっている配信者を特定し、チャンネル登録を外す運動もSNS上で始まっていた。体制側は予算を突っ込み、有力ユーチューバーの囲い込みに必死になっている。またプラットフォーマーも削除に応え、収入を上げていた。日本でのそのような動きは、世界的には問題にならず、放置されていた。
 スティーブはその辺りもターゲットにしたいと考えていた。フィールドを世界に広げることは全員賛成した。みんな、楽しさを隠さなかったが、勇人と友里は、用心が必要だと顔を見合わせた。

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 スティーブは新しい仕掛けを考えていた。今、新たに設置されている監視カメラはAIに直結し、対象者を特定したら逃走経路を予想して連続して追跡できる。そして、その経路から最終的な目的地まで予想して先回りする指示を人間にするのだ。これは逃亡者にとっては致命的な追跡手段になる。これをスティーブは逆手に取ろうというのだ。カメラの時間を逆転させ、来た道を逆走させようと。それと、AIをリアルタイムで動作させ、分かれ道では違う方向に逃走しているアバターを作り出すプログラムを仕掛けようと。いずれにしてもどのような効果があるかは分からないが、混乱させることができるのは間違えないだろう。
 また、こちらからターゲットにする人間に対してだが、顔にモザイクは掛けるものの、口だけは見えるようにし、読唇技術で、話している声を聞こえるようにしようと技術を開発したのだ。そのバリエーションが面白い。声をいろいろ作り出そうと。ドラえもんや、悟空、矢吹ジョー、ゾフィー、コナンなど。スティーブの好みで。その時はモザイクもリンクさせるらしい。なるべく短い動画にして、見やすく、リアルタイムに近い配信を目指すという。そして、動画のラストには『 汝 悔い改めよ ・ YOU WILL REPENT 』を2秒。鉄がサビているビジュアルで見せる。やはり1日で削除する。ターゲットは10人。ドローンは150台。ターミナル基地は7ヵ所。人員は80人。期間は10日間。日本人ユーチューバーは事前告知はしないが、海外の有名ユーチューバーには面白いことが日本で起こると、三日前に直接リリースする。
 準備が整った時、ニュースが入った。大阪府警察本部長 亀田雄二が行方不明になった。オールドメディアのニュースの真偽は分からないが、反乱分子のハーバーのSNS攻撃の犠牲者ではないかと報道され出した。完璧に攻撃対象にされた。これでなりふり構わず検挙のために動くだろう。危険レベルが数段上がった。情報を集めるため、勇人と友里、スティーブ、権田はあらゆる限りのコネクションを使った。勇人と友里は霞が関に入る前から、政治家、官僚、財界、メディアのネットワークを秘密裏に構築していた。そして、もう一つの霞が関の事務所を、中国企業の日本の出先機関としてオープンさせていた。ここはまだ安全レベルは高いはずだ。
 2日後、情報は集まって来た。亀田はSNSでのハーバーの攻撃により、ノイローゼになっていた。現在、入院中とした。ハーバーを国民の敵とするプロパガンダの形成をするため動いているらしい。そして、関係しそうなYOUTUBEのチャンネルはすべてバンされていった。援護射撃を期待していたユーチューバーもあてにできないだろう。スティーブも権田も危険と見た方がいい。
「一旦 地下に潜ろう 」スティーブはアメリカへ。権田は大阪へ戻っていった。
 しかし、ROSTの4人は江の島で捕らえられた。今度の拘留は長くなるだろう。
 リナは危険だった。『サビ色のワンピースの女』はハーバーの象徴だからだ。捜査の対象としての優先度はトップだろう。立花勇人、友里、リナは、下北沢の教会へ潜った。

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