軍隊が合成燃料普及のきっかけをつくる?
2008年にコンバットマガジンに寄稿した、軍用の合成燃料の話の前後編です。
大きい防衛省の燃料費
昨今原油価格の高騰を受けて、自衛隊用の燃料も平均36パーセントも高騰している。このため陸海空自衛隊では訓練計画を見直すなどして節約しているが、それではとても追いつかない。2008年度の燃料用予算は約1007億円だが、防衛省は本年度末に燃料費の不足を補うために補正予算を組む必要に迫れられている。
防衛省は2008年度予算は本年度54.8パーセント増の1799億円を要求している。因みに平成18年度の燃料費は669億円に過ぎず、約3倍に膨れあがることになる。
防衛省の装備調達と訓練費や装備の維持費などが総額で約1.8兆円であるから、その1割を占めることとなる。
一部の産油国を除けば世界の軍隊何処も同じ悩みを抱えている。そこで米国防総省は一昨年から空軍でGTL(ガス・トウ・リキッド)によって合成された燃料合成燃料を空軍の航空機に使用すべく動いている。まずB-52爆撃機を使って実験を行い、今年から輸送機などで現在使用しているJP-8(ケロシン)とGTL燃料を半々にブレンドしたものをしている。技術的には100パーセントGTL燃料でも問題はないが、GTL燃料の調達量やコストの関係からブレンドにしているのだろう。

ただ、戦闘機などはアフターバーナーを使用した場合の適合性がまだ検証されていないのでF-22を含めた戦闘機で、現在その作業が進められている。因みに今年3月にはB1爆撃機を使用した試験が行われており、成功裏に実験を終わらせている。近い将来、全空軍機が合成燃料を使用するようになるだろう。
となれば陸海軍海兵隊もそれに倣ってGTL燃料の採用に踏み切るだろう。空軍は民間のエアラインにもGTL燃料の採用を呼びかけている。エアラインも既に軍隊で「実験」が済んでいれば導入に対するコストは掛からない。一方軍にしても民間もGTL燃料を採用すれば量産が進み、調達コストが下がるというメリットがある。更に米国防総省は英国、フランス、カナダ、オーストリアなどの空軍に対してもGTL燃料の採用を呼びかけている。

GTL燃料
このGTL燃料にはFT(フィシャー&トロピッシュ法)法と呼ばれる合成方法が使用されている。このためFT燃料と呼ばれることも多い。FT法はの発見は古く、一九二〇年代にドイツのカイザー・ヴルヘルム研究所でフランツ・フィッシャーとハンス・トロピッシュが共同おこなった。当初石炭から液体燃料をCTL(コール・トウ・リキッド)と呼ばれてきた、が製造工程で合成ガスを経由してため、今日では一般にGTL法と呼ばれる場合が多い。
原料は石炭でも石油でもバイオマス(アルコール)などが使用可能だ。FT法の他に、ガソリンに似た組成を合成するのに適しているベルギウス法も存在する。
第二次大戦でも使用された合成燃料
かつてナチスドイツはこのGTL燃料を軍用燃料として着目し、ベルギウス法を使用してガソリンの量産を進めた。大戦中はドイツ各地に合成燃料の工場が建設され、四四年にはドイツ軍の使用する燃料の57パーセント、航空燃料に限れば92パーセントが合成燃料であった(当時の航空機のレシプロ式エンジンはガソリンを使用していた。
戦車などもその多くがディーゼルではなくガソリンエンジンであった)。我が国でも合成燃料の研究が行われて量産が目論まれた。また対米戦はそれをある程度見込んでいた。
ところが開戦後も、技術的な問題が解決できずに製造は予定の一割程度に終わっている。合成燃料が無ければナチス・ドイツはもっと早く降伏し、あるいは対英戦を行わず、日本もまた対米戦に踏み切らなかったかもしれない。あるいはもっと有利な戦いを行えた可能性もあるだろう。
戦後合成燃料を導入した南ア
戦後は南アフリカがGTL燃料の産業化に成功している。南アはアパルトヘイト時代に国連から禁輸措置を受け、石油の輸入が困難となったので1950年、GTL燃料の生産のために国営企業サソールを設立した。原料は国内で産出する石炭や天然ガスが使用され、現在同国のディーゼル燃料の六七パーセントを賄っている。
経産省の専門家によると原油の値段が1バレルあたり80ドルくらいならばGTLは十分採算に合うという。GTL燃料は石油由来のケロシンに比べて3パーセントほど効率がいい。つまりその分安い。またその分航続距離が増えるというメリットもある。
原油価格が現在のレベル維持するあるいは多少下がってもGTLを採用するメリットは他にもある。石油の産出と埋蔵は政情が不安な中東に極度に偏っている。ロシアも相当埋蔵量があるが、グルジアの紛争を見ればわかるように安定した供給先とはいえない。このため軍事的な見地から見れば石油に燃料を頼るのは得策ではない。GTLは石炭や天然ガス、更にはバイオ・マスまで米国内を含め世界中に普遍的に所在する原料を利用できるこのメリットは大きい。これは安全保障上大きなメリットである。
ガスからも作れる合成燃料
米国には多くのガス田、炭田が存在する。米国の大規模ガス田は枯渇しつつあるが、中小の天然ガス田が依然手つかずのものが無数に存在する。天然ガスを輸出する場合は大規模な低温液化設備が必要であり、これには多額の設備投資が必要となるため大規模ガス田でないとペイしない。
輸出できない国内の中小のガス田をFT燃料の製造に利用するこことはこれら中小ガス田や炭田の有効活用となる。また米国内の石油精製施設は老朽化しており、今後石油燃料の供給が不安定になることが予想される。これまたペンタゴンがGTLに注目している理由である。
クリーンなGTL燃料
GTL石油由来の燃料よりもクリーンである。通常のケロシンに比べて排気ガス中の硫黄酸化物や黒いスス状の粒子状物質(PM)などの有害物が概ね30~40パーセントも少ないのだ。昨今エコが叫ばれている。先進国では軍隊だけは黒煙を濛々と噴き上げるいては世間様が許さない。大気汚染の軽減という面では大いにメリットがある。また石油由来の燃料よりの3パーセントほど燃費がよいため同じ量の燃料を搭載すればその分航続距離が伸びるというメリットもある。

では最近話題のバイオマスはどうだろう。植物が由来のバイオマスは炭素排出量がゼロとカウントされる。また天然ガスや石炭のような地下資源を使うのであれば、石油と違わないではないか、という反論もあろう。だがエタノールをそのまま使うとエンジンが傷むのでケロシンなどに少量ブレンドするか、エンジンそのものを交換する必要がある。またトウモロコシななどが原料となっているとため食料の高騰を招いているという非難もあるし、ジャングルを切り開いて燃料用トウモロコシなどを栽培すればそこれそ「エコ」にハンするだろう。現在穀物ではなくセルロース系の原料を利用する方法が開発されているが、干ばつなどになって原料不足することもありうることには変わりない。つまり代用燃料の主流とはなり得ない。
これらのことからGTL燃料の優位性が理解できるだろう。軍隊がGTL燃料を大々的に導入すれば民間での導入へのハードルが極めて低くなり、一挙に普及が進む可能性もある。
米空軍では2011年からすべてのジェット機でJP-8とGTLを50:50で混合した燃料を使用する予定であり、2016年にはジェット燃料すべての内の25パーセントをGTL燃料で賄うことを目標としている。現在のGTL燃料のコストはJP-8よりやや高いとのことだが、量産が進めば劇的に価格は下がるだろう。
空軍で使用されているGTL燃料は石炭や天然ガスが利用されているが、バイオマスも原料に使用することができる。
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