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陸自の「水陸両用部隊」は米海兵隊の劣化コピーでいいのか。英海兵隊に学ぶ「海兵隊」のあり方 

 2013年に月刊軍事研究に寄稿した英海兵隊トレーニングセンターの取材記事です。陸自は水陸機動団編成にさいして、米海兵隊よりむしろ参考になる英海兵隊の調査をしていませんでした。この記事が出たあとに陸幕は調査を始めました。英海兵隊への取材は厳しく制限されています。それは特殊部隊との関係も深く、機密が多いからです。日本のジャーナリストで英海兵隊の取材をしたのはぼくだけです。

 陸自が水陸両用部隊の編成を計画していことは数年前から明らかだった。筆者は同じく島国である英国の海兵隊、Royal Marines が非常に参考になるのでないかと思い、長年英海兵隊の取材をしたいと考えていた。本年英国防省に打診し、本年9月に英海兵隊の訓練教育機関であるCTCRM (Commando Training Centre Royal Marines、英海兵隊コマンドウ訓練センター)の取材が許可された。筆者は日本人ジャーナリストとして初めて取材が許可された。英海兵隊は海外のメディアに対してさほど多くの取材を受け付けていない。これは海兵隊が現在アフガンでの英軍派遣部隊の主力であり、また敷地内では特殊部隊の隊員も多数出入りしているためだ。

英海兵隊の概略

 まずは英海兵隊の概略を説明する。一部筆者の過去の記事と重なっているが了承されたい。現在の英海兵隊の主力は第三コマンドウ旅団であり、総兵力7200名(英軍の再編成で6000名に削減の予定)で、英軍の緊急展開部隊に所属している。なお階級は陸軍と同じである。
 海兵隊最大の部隊はコマンドウ旅団で人員が約700名、その下の連隊に当たるコマンドウ群が2000名、その下のコマンドウ中隊群が約200名、コマンドウ・トループと呼ばれる小隊が30名、その下にコマンドウ・チームと呼ばれる8名からなる分隊が存在する。これらは常に戦争や人道援助など海外遠征に即応できるようになっている。

 通常の海兵隊の守備範囲外の高度かつセンシティブなケースでは特殊部隊SBSが投入される。例えば海賊対処などの臨検などは艦艇に乗り組んだ海兵隊が担当するが、これが厄介な人質事件などに発展した場合、SBS(Special Boat Service)が投入されることになる。

 旅団は麾下の第40、第42、第45の三個コマンドウが主力となっている。コマンドウは兵員約700名の大隊規模の歩兵部隊で、陸自の普通科連隊とほぼ拮抗する兵力だ。コマンドウ旅団の主力装甲車はBAEシステムズ傘下のスウェーデンのヘッグランズ社が開発したBvS10バイキングであるが、シンガポールTK社の同様な装甲車、ブロンコも運用されている。またバイキングは現在近代化されたMK2への改修が進んでいる。

 539アサルト・スコードロンはフォークランド戦争の教訓から84年に設立された部隊で、旅団の揚陸機動を担っている。人員は約百名で、ホバークラフトを含む多彩な上陸用舟艇を有している。LCAC (Landing Craft Air Cushion、上陸用エアクッション艇)は英国のグリフォン社製で、同社の2000TDをベースに開発された。全長12.70メートル、全幅6.10メートル、全高3.93メートルで、最高速度は30ノットである。ペイロードは2.2トンで、完全武装の海兵隊員16名が搭乗可能である。これを4隻保有している。米海軍や海自が保有しているLCACは搭載量が75トンであるので、それに比べるとかなり小振りである。
 その他LCVP (Landing Craft Vehicle/PERSONNEL、車輛人員用上陸用舟艇:全長15メートル、全幅4.3メートルで搭載量は25トンで、兵士ならば最大200名が搭乗できる)やRRC(Rigid Raider Craft)はいわゆるセミリッジ型ボート(RHIB、Rigid-hull Inflatable Boat)なども保有している。これは硬い下部艇部とゴムボートのような上部艇部を組み合わせたもので、これらを24隻保有している。

 第30コマンドウ情報収集群は2010年に編成された新しい部隊で、監視・情報収集、偵察などに特化した部隊で軍隊のネットワーク化、ISTAR(Intelligence, Surveillance, Target Acquisition and Reconnaissance)化に対応した部隊だ。監視・偵察中隊、電子的な情報収集や電子戦を担当するY中隊、通信中隊を核としている。

 ストーンハウスは、旅団の基地警備部隊で、人員は約百二十名で、その他五十名ほどの軍属も所属している。その他海兵隊軍楽隊、更にコマンドウ兵站連隊が存在する。

 第29王立砲兵隊コマンドウ連隊、第59及び、第131の二個工兵中隊は第三コマンドウ旅団に属しているが、陸軍の部隊である。第29王立砲兵隊コマンドウ連隊は本部中隊と3個砲兵中隊、一個前進観測中隊からなっている。主たる装備はL118軽量105ミリ榴弾砲だ。
 コマンドウ兵站連隊は人員が約620名で、人員は陸海空から集められており、機械化工兵、衛生、兵站などの部隊からなっている。これらの部隊は第3コマンドウ旅団に属しているが、それ以外にも部隊が存在する。

 特殊部隊であるSBS(Special Boat Service)は4個中隊を擁し、対テロや潜水艇による潜入など水陸両用作戦能力有しており、海兵隊司令部直轄部隊となっている。なお、海自の特殊部隊特別警備隊はこのSBSから訓練を受けている

 第一アサルト・グループは水陸両用戦の訓練部隊で、かつては水陸両用戦学校と呼ばれていた。3故中隊及び支援部隊からなっている。
艦隊護衛群も艦隊司令の指揮下にある。その任務は英海軍の保有する原子力潜水艦及び関連施設など核戦力の警備と海軍艦艇の警備だ。艦艇に乗り込み、その警備や、停泊先などの警備、臨検などを行う。装備は一般のコマンドウ部隊と同じで、艦艇に搭乗しているときも迷彩服を着用している。人員は約五百名で、三個小銃中隊からなっている。その他海兵隊軍楽隊、600名ほどの予備役RMR(Royal Marines Reserve)が存在している。

 作戦用航空機や艦艇は海空軍の指揮下、運用となっている。航空機は対戦車ミサイルを搭載した武装ヘリ、リンクスAH Mk7、大型ヘリコプター、シーキングHC Mk4、CH-47チヌークなどがある。艦艇では満載排水量18500トンのドック型揚陸艦(LPD)アルビオン級が2隻、強襲揚陸艦(LHP)オーシャンが一隻、満載排水16,100トンのベイ級ドック型補助揚陸艦(LSD)が4隻、揚陸艦(LS・LSLH)サー・ベディバーが一隻、大型揚陸舟艇(LCU)が13隻、汎用小型上陸用舟艇(LCVP)が34隻などが存在する。
 

訓練センター正門


 CTCRMはイングランド南西部、コンウォール半島のデボン州。エクセター郊外のリンプストンに所在している。この周囲には第三コマンドウ司令部他、海兵隊の部隊や訓練施設が集中している。
 海兵隊側からは前日に到着し、将校用の宿泊施設に宿泊するように指示された。宿泊施設はベッドルームと居間の二部屋から成っているが、学生寮のような趣であり、シャワー・トイレは共同だ。夕食は将校用食堂で摂ったが、ドレスコードに則って将校らと同じくジャケット、ネクタイを着用だ。

 つまり将校たちは私服で食事をするときも背広にネクタイだ。米軍や自衛隊との文化的な違いを垣間見た気がした。夕食時に同じテーブルは訓練で来ていた佐官の予備役将校と同席となった。彼はスイスのプラベートバンクで働いているという。金融機関で高給を食んでいるであろう立場で予備役に留まり、厳しい訓練を毎年受けているのだ。翌日は基地の主席幕僚であるアンディ・プライス中佐から英海兵隊および、この基地の概略の説明を受け、ついで各訓練過程の担当者から説明を受けつつ、見学を行った。

アンディ・プライス中佐

英海兵隊の変遷

 英海兵隊の設立は1664年に遡る。海兵隊は海軍将校の護衛や英軍艦内部の治安維持、海外の停泊先での艦の防御、植民地での権益の確保などが主たる任務だった。国際社会では軍艦はその国の領土と認識されており、その領土を守るのる海軍の持つ歩兵、あるいは陸戦兵力であるといえる。

 英海兵隊の性格が大きく変わったのは第二次世界大戦においてだ。開戦当初破竹の進撃を続けるドイツ軍に英国などの連合軍は劣勢を強いられ、フランスのダンケルクにおいては危うく陸軍の主力が包囲されるという事態を辛くも逃れた。当時の首相、サー・ウインストン・チャーチルは1940年、海兵隊を反撃の尖兵となるような上陸部隊、そして小部隊で敵地において敵をかく乱するような部隊、コマンドウに改変することを命じた。

コマンドウの語源は南アフリカ

 コマンドウとは南アフリカのボーア戦争のおり英軍を苦しめたボーア人の小部隊のことだ。当時オランダ系ボーア人はコマンドウと呼ばれる小規模な部隊で大規模な英陸軍正規部隊を大いに苦しめた。農業と牧畜、狩猟などを生業とするボーア人たちは狙撃や乗馬の名手であり、長期に渡る野営に耐えられた。
 コマンドウの活躍もあり、英軍は大いに苦しめられ、英国は多大な犠牲と国家財政が傾くほどの戦費を必要とした。日英同盟が締結された裏にはボーア戦争による英国の苦境が大きく影響を与えている。ボーア戦争がなれば日英同盟はなく、日露戦争で我が国がロシアに勝利することは叶わなかっただろう。

 若き日のウインストン・チャーチルはボーア戦争に従軍し、ボーア側の捕虜となっており、コマンドウの活躍を見に染みて知っていた。当初、多くの失敗や錯誤を重ねながらも英海兵隊、コマンドウは次第に能力を上げていった。
「英海兵隊コマンドウは上陸先、あるいは敵地奥深くに進出し、小規模な単位で活動することが前提となっています。これは現在のでも変わりません。必然的に少数精鋭であり、そのため人的な質を高める必要があります。また、少人数の部隊でも任務を達成するために下士官に対しても強いリーダーシップを求めています」とプライス中佐は語る。

 CTCRMでは募集された兵士予備軍の選別、コマンドウ訓練と呼ばれる32週間の新兵訓練と64週間に渡る将校訓練の他、各種専門コースをもち、英海兵隊の教育の拠点と成っている。プライス中佐によるとまず、英海兵隊のリクルートで重要視されるのは身体的な能力ではなく、メンタル的な強さと基礎的な知的水準であるという。

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