HHTAS(HandHeld target Acquisition System)のトレンド
2009年にコンバットマガジンに掲載した記事です。
近年HHTAS(HandHeld target Acquisition System携行型目標捕捉システム)と呼ばれる装置が、地上戦の多くの分野で使用されるようになってきている。
これらは双眼鏡が進化したもので、基本的に双眼鏡に暗視装置(ナイトビジョンや、サーマルイメージャー)デジタルコンパス、レーザー測距儀、レーザー・デジネーター、GPS、データ通信機、デジタル・スチルカメラ、ビデオカメラなどの機能が統合されたものだ。
ただHHTASのすべてが上記のような機能をもっているわけでなく、目的や運用思想、予算などによって適正と思われる機能を搭載した製品を採用している。例えば国境監視などであれば、暗視装置とレーザーレンジファンダーが装備されていれば充分だろう。また単体だけではなく、デジタルマップを搭載したターミナル・コンピューターやレーザー・レンジ・ファインダー、衛星通信システムなどとシステムで運用されることも多い。

HHTASは砲兵の前方観測チーム、FAC (Forward Air Controller 前線航空統制官)あるいはJTAC(Joint Terminal Attack Controller統合末端攻撃統制官)と呼ばれる味方の航空機を誘導したり、地上部隊との調整を行うチーム、歩兵部隊の偵察や監視、更にはミサイルの誘導などにも使用されている。
つまり単に肉眼で目標を探知したり、監視するだけではなく、目標までの距離を測定したり、味方の精密誘導爆弾やミサイルなどの最終誘導まで行うことができる。またオペレータが得た情報は味方の砲兵や航空機など他の部隊にも伝達される。このような場合は送られた情報はデジタルマップ上に示され、そこに適切な砲撃や空爆が行われる。これによって無線による音声による指示よりも遙かに迅速かつ、正確な攻撃、あるいは上級司令部による情報の判断も迅速に行える。
さらには狙撃チーム、戦闘救難、艦艇に搭載されて海上の警備や海賊対策などにも使用されている。またこれらの任務をこなす特殊部隊では必須となっており、多くの特殊部隊装備している。またフランスのフェラン・システムなど各国の将来歩兵システムでは分隊長、及び小隊長用の「双眼鏡」として採用される。
有史以来軍人達はクラウゼヴィッツ言うところの「戦場の霧」、即ち作戦・戦闘における不確定要素を減らすことに腐心してきた。指揮官は敵軍の動きは勿論、味方の動きもリアルタイムで知ることは不可能だった。ところが近年のネットワーク化はこの霧の多くをはらすことが可能になってきた。これまでの偵察手段に加えて、UAVやFLIRなどを搭載した航空機、ヘリ、戦闘車輛は勿論、HHTASを保有した多数の兵士たちからリアルタイムで送られてくる情報は指揮官に戦場の霧をはらす有用なツールとして極めて重要である既にHHTASは地上部隊の必須アイテムとなっていくだろう。
80年代末にライカ(現ベクトロニクス)が、開発したハンターや登山者向けのレーザーレンジファインダー、デジタルコンパスが内蔵された双眼鏡、ゲオビッドがHHTASがその嚆矢となっている。その後94年には初の軍用モデルである、ヴェクター1000が発表された。その後は暗視装置が搭載されたモデルが登場している。暗視装置は微少な光量を増量する、いわゆるナイトビジョンと、対象物の熱を映像化するサーマルイメージャーに大別できるが、それぞれ一長一短がある。
ナイビジョンは安価で、視野が広いが長距離での目標の認識が困難である。またまったく光がない状態では機能しないし、霧や雨だと探知距離が著しく短くなる。対してサーマルイメージャーは長距離の目標探知に向いているが、視野が狭い。だが、霧や雨、埃、更には火災や煙などが立ちこめる条件下でもかなりの距離で対象物を認識できる。ただ赤外線を映像化するため、対象物が赤外線を発していないと探知できない。近年ではナイトビジョンとサーマルイメージャーの両方を搭載、その両方の映像を重ねることによってそれぞれの欠点を補うようなバイナリータイプの暗視装置が登場している。だが、先述のようの探知距離と視野が大きく違うので双方で、カバーできる範囲は異なるので、普及するかどうかは微妙だ。ヘタをすると探知距離は短く短く、索敵範囲狭いものとなる。
これらの理由から長距離で使用するHHTASにはサーマルイメージャーが使用されることが多い。サーマルイメージャーに冷却型と、より後に登場した非冷却型があるが、これまた一長一短がある。冷却型は高性能でより遠くを探知できるが、起動までに数分を要する。また冷却装置を搭載しているので必然的に重くなるし、高価になる。
対して非冷却型は探知距離では劣るものの、より小型軽量で、瞬時に起動する。価格も安い。ただ昨今は非冷却型の性能向上は著しく、近い将来には非冷却型が主流になっていくだろう。サーマルイメージャーは如何なる波長の赤外線でも利用しているわけではない。「大気の窓」と呼ばれている大気の影響が小さく、光の透過率が高い、3~5μmおよび8~12μmという二つの波長域が使用される。
短波長の3~5μm帯は熱帯・亜熱帯での運用、高温熱源探知に向いており、歩兵の携行型の暗視装置などに採用されることが多い。地域としては亜熱帯での使用に向いているとされる。より長波長の8~12μmは温帯~寒帯における常温目標探知・認識に適しており、環境反射の影響が小さいために砲の発射などの影響を受けにくい。また太陽光による幻惑効果が少ない。このため戦闘車輛や海上などでの使用に向いており、比較的低温な欧州などでの運用に向いているとされる。一般には亜熱帯地方では3~5μm帯が8~12μm帯より遠方まで目標探知できるが、霧や弾薬による煙幕などに隠れた目標を探知するには8~12um帯が優れている。
従来8~12μm帯はMCT(HgCdTe)を用いる一次元(リニアセンサ)赤外線センサとミラースキャンの組み合わせが広く使用されていた。(垂直方向をミラーでスキャンし二次元画像を得る方式)。だが、近年の技術革新により高画素数のFPA(Focal Plane Array:二次元センサ)のMCT赤外センサーが主流となってきた。また従来シリコン(Pt-Si)が主流だった3~5μm帯センサも同じ技術の延長で実用化された。最新の赤外線センサ技術としてはGaAs(ガリウム砒素)を用いるQWIP(Quantum Well Infrared Photodetectors:クイップ)などがあり、8~12μm帯と3~5μm帯の両波長帯で使用される。例えばタレス社ではこの2波長のセンサフュージョン技術を取り入れた製品も開発され、2波長帯の長所を取り出すことが可能となった。
HHTASは前方から見ると単眼にみえるものが多いが、その多くは内部で左右に画像を振り分ける疑似双眼タイプである。単眼だと長時間使用すると疲労が蓄積し易いからだ。
代表的なHHTASとしてはスイスのベクトロニクス社がまず挙げられる。先に述べたように初めにHHTASを開発したメーカーである。同社はライカのの事業部である、ライカ・ジオシステムの軍用特殊機器部門だったが、2002年に分社化し、2003年にフランスのサジェム社の傘下に入っている。同社の製品は世界60カ国で採用されている。
また同社はHHTAS用のレーザー・レンジファインダーの世界シェアの約5割、デジタルコンパスの9割を占めている。2000年に発表されたヴェクター21ナイトは7倍の光学サイト、4倍のサーマルイメージャーを装備しており、最大12キロまでの距離で目標を探知できる。重量は電池無しで2キロとなっている。
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