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ガラパゴス化する防衛調達の問題点

 2010年に月刊軍事研究に掲載した記事に加筆したものです。海外視察のデタラメを指摘し、その結果防衛省、自衛隊の海外視察費は劇的に増えました

 防衛装備調達は岐路に立っている。筆者は20年ほど前から一貫して防衛装備調達の問題点を指摘してきた。1月には「防衛破綻『ガラパゴス化』する自衛隊装備 」(中公新書ラクレ)を上梓し、現状を俯瞰的に解説している。



 昨年筆者は住友電工の戦闘機生産からの撤退を自身のブログでスクープしたが、このままでは防衛産業から撤退、あるいは倒産や事業整理によって淘汰される企業が続出すし、歯止めがかからなくなるだろう。

当事者意識が薄い防衛産業

 だが防衛省や防衛産業大手にはその危機意識が低い。当局や大手が問題先送りをしている間に体力の無く、防衛需要の売り上げ比率が高い中小の下請け企業からは脱落する企業が続出出てくるだろう。基盤の底辺を支える下請け企業群がいなくなれば、いくら大手主契約社が残っても産業として成立しなくなる。

 1月15日、富士重工は防衛省を提訴した。防衛省は当初62機を導入するとし、富士重工がライセンス生産を行い、これまで10機が調達された。だが防衛省はそれ以上の調達を打ち切った。

AH-64D

 富士重工は防衛省に対してこれまでに受注した10機に加え、後3機、各83億円を3年で調達、これに毎年ライセンス料や設備の償却など133億円を加えて都合216億円を3年間支払ってもらい、これで手仕舞いにすることを了承した。
 防衛省もその線に沿って平成20年度の概算要求で要求を出した。ところが財務省からこれが蹴られた。その後防衛省は62機調達をするなどという契約は無いと、富士重工のへの支払いを拒否した。その主張のが正しいのであれば、本来必要ない「償却費」を予算として計上していたことになる。

 アパッチのビジネスは生産総額が5000億円以上、保守や改良を含めればその二倍程度の売り上げになるビッグプロジェクトだった。富士重工の受けた打撃は小さいものではない。

 まして同社や下請けは既に設備投資を行っている。防衛省のせいで、下請け企業からは倒産、従業員の解雇などが起こる可能性は低くあるまい。

 この一件は単に富士重工と、防衛省の問題ではない。ボーイングにしても将来の収益を失った。アッパッチの調達中止は外国のサプライヤーに対しても不安を与えたことになる。
 今後の取引に関してはこのような調達中止のリスクを織り込んで、高めの「ジャパン・プレミアム」が価格に上乗せされる可能性もある。日本政府の信用を毀損した防衛省の責任は小さくない。

契約なき防衛調達

 だが、富士重工が国を訴えたのは陸幕と富士重工のなれ合いとの見方もある。先述のように陸幕は一旦追加の機体と償却費を要求したが、財務省が認めなかった。いくら陸幕や防衛省が頑張っても財務省を説得できなければ支払いはできない。そこで陸幕が富士重工に訴訟を薦めた。
 訴訟で負けて、あるいは和解によって富士重工に支払いが生じた場合、その金額は防衛費からは支払われない。事実上財務省が国庫から支払うこととなる。仮に防衛費から支払われることになっても裁判所の命令であるから財務省が拒否できない。という筋書きである。防衛省の腹は痛まないし、富士重工に対してもメンツが立つ。

 筆者は複数の防衛省高官筋の話として、そのように聞き及んでいる。無論訴訟で富士重工が勝訴するとはは限らないし、要求金額が満額認められるとも限らない。ただ状況を見ればある程度の支払いが認められる可能性は高いだろう。恐らく和解になるだろう。

 この話が本当ならば、事実上の被告たる防衛省側が原告に有利な証言や証拠提出を行う可能性がある。

 公表されている防衛省の調達中止の理由は、米陸軍のアパッチがブロックIIからIIIに移行するに従い、部品などの調達が不可能になるからなどとされている。だが、ボーイングでは今後もブロックIIのコンポーネントの供給を続けて行くとしている。またオランダ軍は現在ブロックIのアパッチを運用しているが、これをブロックIIにアップグレードすることを予定している。また英国、UAE、サウジ、イスラエル、エジプトなどの他のアパッチユーザーがブロックIIIに移行する意思を示してはいない。

 となると防衛省の説明は怪しい、ということになる。調達コストが予想より高くなったとの見方もあるが、ロングボウ・アパッチのブロックIの最終型、67機を7年でライセンス生産した英国の調達単価は約60億円である。陸自のアパッチが概ね80億円であり、他国は別としてさほど驚愕する値段でもあるまい。

 かつて防衛庁当時、我が国では米国でアパッチの生産が終わったあとも平然と旧式AH-1Sを64億円、即ち、米陸軍調達単価の約8倍の単価でライセンス生産していたわけで、「たかだか」80億円で動じるというのは解せない。

 たった10機のアパッチでは、教育用を除き、一個飛行隊を編成するならば実質的に6機程にしかならない。このような中途半端な数ではまともな戦力にならない。かといって陸幕は輸入でアパッチの数を増やすこともしないとしている。となると、一機あたりの維持運用費も極めて高くつく。部隊運用は極めて不経済であり、軍事的合理性にも欠ける。

 多額の税金を投じてこのような調達の不手際を行ったわけであり、防衛省と陸幕はその機種選定の段階から調達経緯、調達中止に至った理由を納税者に対して明らかにする義務がある。ところが防衛省も陸幕もこのアパッチの調達を「不手際」とは認めず、関係者の責任を問うことも行われていない。与党は勿論、野党も国会で実態の解明のために、担当者を証言させるべきである。


そのようなことも行われないまま、陸幕は偵察ヘリ、OH-1をベースにした攻撃ヘリの開発を進めている。これはアパッチよりも小型のものとなるようだ。ならば、AH-1Sの後継を選ぶときに初めからアパッチありきではなく、三菱重工などが提案したAH-1Zの採用をもっと真剣に検討すべきだったとの批判もでるだろう。

調達計画を納税に秘匿する防衛省

 そもそも次期攻撃ヘリの調達数すら明らかになっていない。アパッチをその使用するならば次期攻撃ヘリの調達数は最大でも50機程であろう。アパッチの一件ではそもそも攻撃ヘリの要求数が妥当であったかも話題になっており、調達数が大きく削られる可能性もある。例えば調達数が30機ほどになるのであれば、開発費を含めた一機当たりの調達費は極めて高額なものになることが予想される。しかも運用はアパッチ、新攻撃ヘリ、AH-1Sの3種の併用となり、運用コストは極めて高いものにつく。むしろ追加のアパッチを輸入するほうが調達運用コストが下がるだろう。

旧式化するAH-1S

 アパッチの総括も行わず、また既存のAH-1Sの近代化というオプションも検討せず、また次期攻撃ヘリの必要数も明らかにせずに、多額の開発費をかけて新型攻撃ヘリの開発を進めるのは、無責任を通り越して犯罪的ですらある。

AH-64Dの訴訟を機に導入された初度費

 平成19年度までは新装備の生産開始に必要なジグの購入、生産ラインの敷設、ライセンス生産であれば、ライセンス料などの初度費はメーカーが先に負担し、これを個々の装備の調達価格に上乗せしてきた。だが、平成20年度からは新装備の初度時に関しては、別途一括して支払われるようになった。これはアパッチの件で防衛産業の防衛省に対する信頼が失われたからだとされている。

 もし初度費の先払いがなく、アパッチと同様のことが起これば、責任をとらなくて済む官の側とは異なり、企業の経営者は株主から厳しい責任を追及され、損害賠償を求める訴訟すら起こされる。とても恐くて防衛省の相手の商売などできない。

 この初度費の支払いはメーカーの負担を減らすという点ではメーカーにとっては福音だろう。何しろ調達が5年後に終わるのか、30年後に終わるのか分からないのが我が国の装備調達である。この措置によって初度費分の支払いの金利の心配だけはしなくて済むようになった。

 だが、問題点もある。ある年度に初度費の支払いが重なれば、従来の装備調達が圧迫される。また、初度費が必要ない輸入品が相対的に有利にもなる。

 もう一つ大事なことは研究開発費が透明化されるであろうことである。これは公然の秘密であるが、現在研究開発費が超過しても企業側がこれを負担し、表向き研究開発費がオーバーランしないように見せかけている。企業は超過分を装備の生産時に上乗せしてきた。これを防衛省は我が国の予算管理と技術力の高さであると吹聴してきた。

 だが企業側の防衛省不信が決定的となったために、今後技本と企業との間でこのような悪しき「貸し借り」が無くなり、研究開発費と調達費の透明化進むだろう。換言すれば研究開発費の超過という事態が恒常することになる。故に研究開発費の管理がシビアにならざるを得ない。

初度費の実態を隠蔽する防衛省

 問題なのは防衛省がこの初度費先払いという調達「ルールの変更」を、まともにアナウンスしていないことである。防衛省記者クラブの会員ですら、この事実を把握していなかった者が大半である。防衛省ホームページに一部には初度費に言及している部分があるが、各年度の個々の装備の初度費は明らかにされておらず、多くの政治家や納税者が装備品の調達単価を実際より安く誤解する可能性は極めて大きい

 例えば平成20年度に川重がライセンス生産している海自の掃海輸送ヘリ、MCH-101の初度費102億円が計上されている。現時点でMCH-101のライセンス調達数は10機に過ぎない。来年度の要求は一機82億円であるから、初度費を10機で割ると約92億円と10億円ほど高くなる。

 ところがこのからくりはHPの予算を見ているだけではこの事実は分からない。納税者はMCH-101の調達費を10億円安く「誤解」することになる。因みに平成16年に輸入されたMCH-101は59億円であり、ライセンス品と価格差は1.5倍以上となる。

 納税者が両者の価格を正しく把握し、価格を比較した場合、たった10機ならば輸入でいいという議論が生じても不思議ではない。まさか防衛省がこのような「誤解」を期待してではないと信じたいが、アパッチの一件などを見ると何か思惑があったのではないかと勘ぐられてもしかたあるまい。

我が国だけの異様な防衛調達

 そもそもアパッチの件が起きた原因は我が国独自のいい加減な装備調達が原因となっている。諸外国では一般に新装備の調達にあたっては、数量、調達期間、プロジェクトの予算総額を決定する。これを議会が承認し、ベンダー(メーカーや商社)と契約を行う。

 ところが我が国では何を買うかということだけが決定し、事実上調達数、調達期間、予算総額が決定されない。当然国会がこれを承認してはいない。つまり国会がプロジェクトを承認していない。にも関わらず調達が行われる。防衛大綱では一部の部隊数、装備の定数が示され、中期防では一部装備に関してその期間の具体的な調達数が示されるが、プロジェクト全体の調達数や予算が明示されてはいない。

 国交省が空港を建設するときに、空港自体の建設を承認せずに、今年は滑走路を200メートル建設し、来年は更に300メートル建設するというようなものである。国交省の見積もりや試算がインチキで、ダムや道路の建設費が当初の予算を何倍もオーバーすることは周知の事実である。だが一応建設完成の時期や、予算総額が明示され、計画は国会で承認されてから着工となる。ところが防衛装備に関しては実質的にプロジェクトは国会の承認を得ずに、進められていることになる。

 プロジェクトの期間が決まっていないから、新型装備の収得は少量生産で長期にわたる。このため現場の部隊は充分な性能がない旧式装備を使い続けることになる。例えば新装備の能力を100とし、旧型装備の能力を30とするならば、旧装備の部隊は3個中隊集まっても新型装備の一個中隊以下のパフォーマンスしか発揮できない。つまり実施的に部隊が削減されたのに等しい。

 それだけでない。新旧装備が長い間混在するためにその間高いコストをかけて延々と旧型装備のパーツや弾薬などを製造する必要がある。整備、訓練がすべて二重に必要とるのでそれぞれのパーツの量産効果が利きにくくなる。これらの要因が不要に整備や維持、訓練のコストを押し上げている。

無論、メーカーに一定の仕事を切らさないように発注するなどの配慮する必要はあるが、それを考慮しても調達期間をできるだけ短く決める必要がある。

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