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自衛隊のヘリ調達の問題点

 2011年に書いた自衛隊縁調達に関する記事です。我が国の経産省、防衛省ともヘリ産業の振興を考えておらず、国産調達が目的化していることを指摘しています。  

産業振興政策なきヘリ産業

 現代のヘリコプターは攻撃ヘリなどを除けば、殆ど軍民市場の垣根はない。民間向け、あるいは非軍事向けに開発された機体が軍用ヘリとし用される例は非常に多い。その端的な例が、ユーロコプターと川崎重工が共同開発したEC145(川重はBK117と呼称)で、米軍がUH-72Aラコタとして採用している。ユーロコプターは本機の武装型を米陸軍がカイオア・ウォーリアの後継の軽武装ヘリ、AAS(Armed Aerial Scout )にラコタをベースにしたAAS-72X提案している。またこれとは別にユーロコプターはEC145の軍用型であるEC645を開発している。

 小型ないし中型ヘリは警察や消防、ドクターヘリを含む自治体などの需要は勿論、観光やビジネス機や個人用の需要が多い。企業が自社用として所有したり、裕福層が個人所有することも多い。つまり大型の軍用機よりも多くの販売市場が存在する。また単価も数億円から十数億円程度と遙かに安い。初度費を抜いてもUS-2は単価が約120億円、XC―2は約187億円で、政府機関でもおいそらとは買えるシロモノではない。

 また大型機は販売に際しては外交的、政治的なコミットメントも必要とされる場合が多い。対してヘリは個人ですら買える商品である。この差は極めて大きいといわざるを得ない。また旅客機に比べて開発費も少ない。例えばリージョナルジェットである三菱重工のMRJでも開発費は約1500億円かかるとされている。対してヘリコプターの開発費は機体重量1トンあたり、約100億円程度とされている。

 このような現状を踏まえれば、我が国の航空産業の振興及び、内外の民間市場への進出はヘリが一番リスクもハードルも低いし、現実的である。ところが我が国にはヘリメーカーが3社あるにも関わらず、BK117以外、外国市場は勿論、国内でも民間市場は勿論、警察、消防、自治体市場の占有率はゼロに近い。

 日本のヘリ産業はほぼ防衛省需要に依っていると言って良い。だが、その防衛予算は微減傾向が続いている。次期中期防の5年間は現状では来年度予算のレベルを維持するとしているが安心は出来ない。防衛省が公開している報告書「防衛生産・技術基盤」の「防衛生産・技術基盤取り巻く環境②」に明らかなように装備の高度化に伴い、装備の整備・維持費は年々増加傾向にある。

 これに反比例して装備調達予算は減少の一途を辿っている。つまり、防衛予算が一定ならば、整備維持コストは上昇を続け、装備調達に当てる予算は削減の一途を辿るしかない。無論整備の合理化や人件費削減の努力などが必要なことはいうまでもない。だが、装備の更なる高度化は今後も続くので、調達予算の現状維持ですら極めて厳しくなることが予想される。

ネットワーク化への投資も必要

 しかも、装備調達費の中からネットワーク化やISTAR(Intelligence, Surveillance, Target Acquisition, and Reconnaissance)のためのアセットへの投資が必要となる。例えば偵察・通信衛星やその地上局、無人偵察機、既存の航空機や車輛のネットワーク化、通信中継車輛や普通科の個人用無線機や暗視装置などである。現用装備に加え、この投資が必要になる。
 新型の装甲車輛にしても10式戦車同様にネットワーク化するならばその分調達価格は上がることになる。例えば現用装備の調達予算が10とすると、その内1~3割程度はこれらネットワーク化・情報化の予算に振り向けざるを得ないだろう。となれば既存装備にふりむられる予算は大きく減じざるを得ない。
追記:だが陸幕は2024年度から導入する8輪装甲車、AMVについては指揮通信車だけに10式戦車と同じ10TKネットワークを導入するが、その他の兵員輸送型などにはメール程度しか送れず、ほぼ音声だけの広域多目的無線機を搭載した。

 少々長くなったが、装備の調達に関してはこのような現実を踏まえなければならない。となれば、ヘリコプター調達においても調達コストが高すぎて調達予定数62機から13機と大きく減らされた攻撃ヘリ(陸自では戦闘ヘリと呼称)AH-64D、同じように250機から34機に大きく減らされた観測ヘリOH-1などの教訓を活かし、より調達コスト、整備・維持コストを削減する努力が必要不可欠である。だが、現状防衛省や各幕僚監部にはその意識が薄いように思える。

官製談合が疑われる空自の救難ヘリ選定

 2010年空自は現用の救難ヘリ、UH-60Jの後継、UH-Xとして三菱重工の提案するUH-60Jの改良型案を採用した。だがその選定方法には多くの疑問が残る。

 2012度の概算要求ではUH-X、3機分として169億円(1機あたり56.3億円)、そして初度費として270億円が計上されていた。防衛省も空幕も例によって初度費有無も、その金額も公表されていなかった。初度費を公開しないで、どうして装備調達単価が適正化どうかわかろうか。

空自のUH-60J(提供:航空自衛隊)

 政府予算案ではUH-X調達予算は約134億円(一機44.7億)、初度費は67億8百万円である。初度費が大幅に減額されているのは、UH-60Jの改良型は現用機の改良型であるから初度費が少なくなったということだろう。これまた空自は発表していないが、初度費はLCC(ライフ・サイクル・コスト)に含まれるとのことである。

 UH-Xでは今後20年間で機体の調達コスト、整備費、燃料代などを加えてLCCは1900億円とされている。だが政府予算案の調達単価は44.7億円となる。これを基準とすると、40機で1780億円。初度費67億円を加えると、それだけで1855億円となる。LCCの残りの費用は45億円である。これで20年間にわたるIRAN(航空機定期修理)機体及び、エンジン、機体のオーバーホール、燃料代、パーツ代などを賄うのは誰が見ても不可能だ。

 概算要求の数字だと更に非現実的だ。1機あたりの調達単価は56.3億円だから、40機で2252億円。既にこれだけでLCCを越えてしまう。これに初度費270億円を加えると2522億円である。LCC1900億円を622億円も越える。無論維持・整備費、燃料費がでるわけはない。

 空幕がどのような根拠でこのような概算要求を出したのか理解に苦しむ。

 通常ヘリの場合、LCCの半分ほどを整備・維持費にあてることになる。であれば、初度費を含めた機体の価格は一機あたり23.75億円、初度費を抜けば21.35億円程度にならないといけない。

 無論調達が進めば習熟曲線が上がるだろう。またまとめ買いをすれば機体の調達価格は下がるだろう。だがこれから開発する機体ならともかく、削りシロが少ない既存機の改良で半額になるものだろうか。工学の常識から見れば、ヘリの単価を半額にするのは極めて難しいはずだ。

 因みに現用のUH-60Jの調達で当初20億円台だった調達価格が、30億円台、40億円台となり、最高50億円台となっている。値下げどろころか値上げになっている。しかも三菱案はペーパープランであり、試作機がない。これでコストの検証ができたのだろうか。果たして大幅なコストダウンは可能なのか。UH-60Jの改良型が格段のコスト削減が可能であるとするならば、防衛省はその根拠を納税者に示すべきだ。

  他の候補としては川崎重工がアグスタ・ウエストランドのAW101をライセンス国産するKE101、ユーロコプターは日本メーカーとは組まずに、EC725のノックダウン生産を提案していた。ユーロコプターは事実上4番目の国内ヘリメーカーとして提案したこになる。

 因みに空自の調達関連の書類によると「ライセンス生産とは海外で設計・製造された航空機を日本国内で生産する手法で設計・生産した外国に於ける会社にライセンス量を支払って設計図やノウハウを購入し、国内ではほとんどの部品を生産して組み立てる方法である」と定義している。この定義ならばMCH―101やAH-64Dはライセンス生産ではなく、ノックダウン生産となる。防衛省でノックダウン生産とライセンス生産の定義付けを行うべきではないか。

 UH-60J改良案に関してはエンジンを官給とする条件だった。陸自の練習ヘリ商戦でも、陸幕は川崎の提案するOH-6にはエンジンを官供給するとしてしていたが、同じような構図である(この商戦ではエンストローム機に決定)。この条件であれば既存機の改良型に非常に有利である。このエンジン官給の話も防衛省は発表してこなかった。

 だがUH-60J改良型は既存のエンジンであるT-700―IHI- 401Cではなく、新型のT-700―IHI- 401D に換装するという情報もある。T-700―IHI- 401DはT-700―IHI- 401Cをマイナーチェンジしてもので、出力の向上よりも整備性の向上と運用コストの低減を目指したエンジンだという。エンジンは既存のUH-60Jに無改造で使用できるという。

 当初は余剰のT-700―IHI- 401Cを官給し、その後T-700―IHI- 401Dにスイッチしていこうという構想ではないだろうか。このあたり空幕は明確な説明をおこなっていない。

02年12月に海自の大村航空隊所属のSH-60Jが長崎県西彼杵で不時着した。これを捜索に向かった別のヘリが発見した。海上に投げ出された1名は救助されたが、機内に残っていた2名をは救出中に機体が水没して救助できなかった。現場海域は風が弱く、雨も降っておらず、また視界も良好だった。SH-60JとUH-60Jは同じ緊急フロートシステムを採用している。だがUH-Xにおいて、非常時に着水した時の備えに関しては特に要求はなかったようだ。

 米海軍もシーホークは着水時に必ず回転翼が水面を叩き、機体が横転してすぐ沈むと特徴的な欠点がある。米海軍は数百万ドルをかけてこれを改修したが、フロートが正常に作動しても沈没する機体を支えられない。また使用すれば脱出口を塞ぐので乗員の脱出が困難あるいは不可能であり、このため94年から米海軍では全シーホークの緊急フロートを取り外す指示を出している。このような欠点はUH-60Jの改良案では改善がされていのか否かも明らかではない。

UH-Xの調達には不透明な点が多いように思える。

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