防衛調達の問題点(後編)
2008年、山田洋行事件後に話題になった防衛調達の問題の根源の指摘です。残念ながら防衛省が行った調達改革は小手先で、ここで述べているような根本的な処方箋は無視されています。
防衛調達改善
前編では我が国の防衛装備が高額化する大きな要因として「まとめ買い」の不在を取り上げた。諸外国では、装備導入に際して事前に調達数、調達期間、調達総額を決定した上で議会が承認し、サプライヤーと契約する。
つまり「何がいくつ、いつまでに必要で、それにはいくらか費用がかかるのか」を明らかにし議会で承認をとる。ところが我が国では議会を含めて「何がいくつ必要か分からず、いつまでに導入するかわからず、戦力化する必要があるかわからず、費用の総額もわからない」。
これでは計画とは言えない。これは議会がプログラムの概要も知らずにメクラ判を押しているに等しく、シビリアン・コントロールの面からも由々しき問題である。
まずは「まとめ買い」即ち議会によるプログラムの監督を行うことが一番劇的に調達コストの削減が可能である。これには組織いじりも必要なく、もっとも容易なコスト削減方法である。
各国の国防省、軍隊は将来に於ける周辺諸国の装備の近代化、戦略の変化、あるいは世界的な軍事技術の動向などを分析し、将来自国がおかれる環境を想定し戦略を想定する。
それに基づいてドクトリン(戦闘教義)を決定する。その戦略とドクトリンに沿って装備調達は行われる。逆説的にいえば防衛省にも自衛隊にも戦略もドクトリンも存在しないことなる。
調達計画なき防衛調達
本来新しい装備、例えば戦闘機が必要とされるのは、近い将来周辺諸国の装備の近代化、あるいは数的な増強によって現在の我が国の戦闘機の性能、数では優位を確保できないことが予想されるからである。それに対して航空優勢を維持するために必要な戦闘機を調達するのである。
その場合必然的にその戦闘機の必要とされる数が調達され、部隊運用されて「戦力化」されるべき時間的な目標か設定される。例えば100機の第5世代戦闘機を2015年までに調達、戦力化を完了するという具体的な計画が提示されて然るべきである。ドクトリンによっては戦闘機を減らして早期警戒機や空中給油機を増やした方がいいという判断もあろう。
その時期を完了するのはそれを過ぎると航空優勢が維持できなくなるからである。ところ現在の調達では調達完了と戦力化は20年先でも30年先もかまわないと言っているに等しい。
まるで新戦闘機の調達自体が目的であり、航空優勢の確保は眼中にないようにも思える。ここに軍的な整合性はない。防衛省は勿論、政治家も単に中期防で定められた定数さえ維持すればいいという意識が強い。故に防衛庁は「買い物官庁」と揶揄されてきた。
これでは真面目に国防を担っているとはとてもいない。しっかりとした戦略を立て、然るべきるべきドクトリンを構築することは、国防の根の部分である。これが現状欠如して枝葉だけが茂っているのが現在の中期防至上主義的な調達の問題である。
合理的な装備調達を行うには戦略とドクトリンを策定する部署を設けるべきである。これこそが防衛装備調達改善の要である。
日本製兵器が高い理由
防衛装備の調達は纏めて調達しないので、単価が高くなる。単価が高くなるから纏まった数が調達できないという悪循環の背景には天下りの問題がある。電子、車輛、航空機各分野で多くの企業が互いに競合せず「縄張り」守って共存している。
これは天下りをする官の側からみれば非常に都合がよい。その分野の企業の数が多いほどより天下りを押し込める。さらに同一企業でも多数の装備を平行して多数生産する方が更に天下り先の確保がし易い。
例えばいくつかのカテゴリーの戦術トラックをファミリー化して一社が受注すれば調達コストも兵站コストも訓練、保守などライフサイクル・コストは格段に下がる。ところがこ各カテゴリーずつに担当するメーカーが固定されている。これでは合理的な調達ができない。
それはトラックの製造メーカーが一社になればそれまで各社に確保していた天下り先が減ってしまう。逆に言えば天下りポストの数を確保するためこそ、同じ分野で多くの企業が必要となっている。これが多品種を平行して細々と調達する我が国装備調達の原因である。
メーカーや商社などへの天下りを減らすためにはいくつか手段が考えられる。まず第1に防災や有事に備えた計画のエキスパートとして地方自治体へ就職斡旋である。
これは将官や佐官クラスだけではなく、曹クラスも需要があるだろう。筆者は長年これを主張してきたが、近年は自衛官を受け入れる自治体が増えている。ただ残念なことには斡旋(特に将官)を請け負っている自衛隊掩護協会が防災知識も災害出動の経験もない海空の人間を斡旋し自治体の需要とミスマッチが起きているときく。
これが事実ならばこのようなことが続けば斡旋を望まない自治体が増える可能性すらある。防衛省は将官の再就職斡旋は専門知識が必要であると防衛省の天下り先である自衛隊掩護協会に丸投げし、多くの随意契約を結んでいる。のみならず同協会には多額の税金がつぎ込まれている。防衛省は事実関係を確認し、必要とあれば是正措置をとるべきである。このような斡旋は防衛省本体で行うか民間業者に任せるべきである。
第2に以下削除既に防衛省では検討が進んでいるが、
再雇用の受け皿を造れ
定年の延長及び防衛省での再雇用である。例えば必要な人材は防衛省の各種学校や教育機関、研究機関など戦闘部隊以外では定年を延長する。あるいは一旦退官したした人間の再雇用を拡大すべきである。その際には予備役として再雇用するという検討されるべきである。
第3に運輸関連への再就職が挙げられる。現在我が国の商船会社が所有する商船の多くはリベリアなどの外国船隻であり、日本船籍船は100隻を切っている。日本人船員の数はこれまた激減し、既に300人を切っている。しかも船員組合は有事の際の政府に協力して商船の運行を拒否している。海自は有事に際してのシーレーンの確保を任務としているが現実問題としてシーレーンは存在しない。存在しないシーレーンを守るというのはナンセンスである。まず有事の際のシーレーン構築こそ必要である。
そのためには安全保障上、有事に使用できる日本船籍の商船と日本人乗組員の確保が必要である。政府の総合海洋政策本部は先に海洋基本計画の原案を先月4日明らかしたが、それによると日本人外航船員数を10年で1・5倍とするという数値目標を掲げている。だがその対策としては商船会社に対する軽減税制のみであり、その実現性は極めて低い。
仮りに日本船籍船と船員が増えたとしても船員組合が協力しなければ戦時に商船の運行はできない。そこで中途退官を含む海自退官者を予備役扱いで斡旋、有事の際には船舶の徴用を認める条件でこれら予備自衛官の人件費の一定割合を防衛省(あるいは国交省でも構わない)が負担する。
必要とあれば現在地方隊にの艦隊を縮小、あるいは廃止して費用を捻出すればよい。地方隊の艦は自動化の遅れた旧式が多く、人件費がかかる割りに性能が低く、コストパフォーマンスが悪い(沿岸要であれば500トン前後のミサイル艇やパトロール艇などの方が遙かに効率的であろう)。例えば浮いた人員の半分を減らし、その費用にあてる。残りの半分は乗員の不足が日常化している他の艦艇に振り向ける。
また同様に航空会社(貨物専門も含む)に対しても同様の方法で退職者を斡旋するべきである。単に搭乗員のみならず整備関連でも需要はあるだろう。航空会社の乗員組合は自衛隊の海外派遣の輸送のみならず、緊急時の邦人救出も拒否している。いわんや戦時に運行は断固拒否するだろう。ならば航空会社と有事、法人救助に際して機体の徴用を契約し、これらを予備自衛官に運行させるべきである。
第4に早期転職支援の充実させて自衛隊の労働流動性を高める。定年あるいは定年間際の中高年の転職は一般に厳しい。故に転職しやすい30代、40代の隊員を中心に転職を支援する、あるいは転職のためのインセンティブを設けるべきである。諸外国の軍隊に比べ、自衛隊は中途退職者が少なく、平均年齢が高いと指摘されて久しい。組織としては釣り鐘型の組織になっている。これをピラミッド型変えていく必要がある。
例えば転職を見据えての大学院進学、留学やMBAなどの資格収得費用の一部を防衛省が負担する、あるいは相応の早期退職割増金を支払う、起業を希望する人間に出資するというのも一手だろう。そのためにには具体的な各階級、各年齢ごとの具体的な数値目標も必要だろう。また年金などの面で、中途退職が不利にならないような制度改革も必要だろう。
まともな予備役制度が必要
人件費の高い中高年隊員の数を減らすことによって可能な人件費は極めて大きく、転職のためにある程度の支出をかけても利益がある。更には再就職が難しい定年を迎える隊員の再就職斡旋の費用も減じることが出来る。
現在予備自衛官の数は少ない。しかも佐官、将官の予備役はほぼゼロである。自衛隊ではシニア・オフィサーや将軍は死傷しないという根拠でもあるのだろうか。諸外国の軍隊並の予備役制度をつくることは有事の際の速やかな人的な補充を可能とする。
また予備役制度が無いがために、必要とされる部隊や人員の削減が効果的に行えない。有事の際の動員を増やし、現役自衛官の人数の調節をスムーズにするためにも諸外国並の予備役制度の導入が必要である。
天下りが必要なければ防衛産業の統廃合は確実に進む。これには制服組の反発があろうが断固行うべきである。
自衛隊に対する過度な法規制の撤廃
軍隊と自衛隊の大きな違いは前者が「戦争」という非常事態に備えて通常の法律の外で活動することを前提としており、後者は通常の六法の中で活動することを前提としている。このため、他国の軍隊では考えられないほど法の束縛を受けている。これらは有事法関連法案によって幾分かは緩和されたがまだ不条理な規制が多い。
その中で顕著なのものが道路法による装甲車輛のサイズ、重量に関する制限、電波法による通信機やレーダーなどの電波の出力や周波数帯に関する制限である。特に電波法による規制は深刻で、陸自の演習では無線が通じず、隊員達は携帯電話を使ってやり取りする状態が恒常化している。
ところが不思議なことにこれらの法規制は在日米軍には適応されていない。日本の道路が米軍の車輛は通れるが、同じ重量サイズの自衛隊車輛が通ると不都合があるのだろうか。同様に米軍の出す電波は障害にならず、自衛隊の出す電波は障害になるのだろうか。自衛隊に規制を課すのであれば在日米軍にも同様に規制を課すべきではなかろうか。
現在軍隊のネットワークが進んでいる現在、特に電波法による過度な規制はネットワーク構築を阻害するものであり、世界で自衛隊のみが化石時代に取り残される危険性がある。これでは手足を縛って戦えて言われているようなものである。
技本(技術研究本部)の通信機などの開発でも如何に限られた出力、周波数帯で性能を出すかと言う研究に限られた費用や人員などの資源を費やしている。これは大いなる無駄である。
戦闘車両は世界的に重量やサイズが増加の傾向にある。諸外国よりも大幅に厳しい現行法の制限のなかで、列国に匹敵する性能の車輛の開発は極めて困難である。率直に申し上げれば無理である。仮に出来たとしてそれには余分なコストがかかるだけではなく、性能的に充分な装備となり得ない。
90式戦車にしても「我が国固有の環境に適応した戦車」は諸外国に存在しない。故に国産を行ったことになっているが「我が国固有の環境に適応した戦車」が北海道以外では運用されていない。つまり我が国の法令の下では第三世代の戦車の導入が不可能だったということではないか。この20年防衛省は延々と「失敗作」をつくる続けてきたのではないか。
防衛庁(当時)や陸幕は「我が国の法令によって新型戦車は開発も保持もできません」と正直に言うべきだったのではないか。運用上無理のある法令を放置していては有事の際に自衛官のみならず、国民がその対価を血で贖うことになる。
非関税障壁として機能する法規制
これらの規制は「非関税障壁」として機能している面もある。つまりこれらの法規制があるために、外国製品の導入が出来ない。よって初めから国産を行うと決められている。結果として外国メーカーと国内メーカーの競争は起こらず、結果としてこれらの法規制は国内メーカー保護をしている。
初めから競合がなければメーカーは真摯に性能向上とコスト低減に取り組むインセンティブが働かない。逆に言えばいつかの法律を修正するだけで性能及び価格面での競争が起こり、恐らくは百億円単位の節約と装備の性能向上が可能になるはずだ。
防衛省がこのような現状の改善に声をあげないのは「非関税障壁」が存在していることによって国内メーカーに対する天下りの確保があるからではないだろうか。そうでないならば早急に自衛隊の手足を縛るような法規制の緩和を関係省庁に働きかけるべきである。またこれは優れて政治の課題であり、政治家はこの現状を正しく認識する必要がある。
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