見出し画像

陸自の簡易自走砲開発以前

 2006年に陸自が開発を意図してたトラックに榴弾砲を搭載した簡易型自走砲について考察しました。残念ながら、陸幕や装備庁はそのようなリサーチあまりしないで19式155ミリ自走榴弾砲を開発しました。

陸幕が要求した新型自走砲

 陸上自衛隊は牽引式155ミリ榴弾砲、FH(Field Howitzer)70の後継を模索している。その選択肢として装甲キャブを有したトラックに砲を搭載した「簡易型自走砲」も検討されている。昨年筆者が本誌のユーロサトリ06のレポートで報じた通り、陸幕は昨年5月16日から18日にかけて装備部副部長を含む視察団をフランスに送り、南仏のカンジュール射撃場で三日間にわたりGiat社の簡易型自走砲、カエサルの実射デモを見学した。
 陸幕広報に問い合わせたところ、この件に関しては現在のところ何も公表できないとのことであったので、現在まで筆者が知っている事実を元に本稿を進めていく。

 陸自は米国製のM114牽引式155ミリ砲の後継として、昭和六〇年度からFH70を導入している。FH70は英・独・伊三国の共同開発による牽引式の155ミリ榴弾砲で七八年から英・独・伊に配備が開始された。砲身長は39口径(6.22メートル)、重量は9.3トン、操作要員は7~8名で、最大射程は通常弾で二四〇〇〇メートル、ロケット・アシスト弾で三〇〇〇〇メートルである(オリジナルバージョンではそれぞれ、二四七〇〇、三一五〇〇メートルである)。APU(Assistant Power Unit、補助動力装置)を搭載しているため、ある程度の自走が可能であり、陣地変換などが迅速にできる利点がある。
 採用国は英(七一門)・独(二一六門)・伊(一六四門)に加え、マレーシア、モロッコ、オランダ、サウジアラビア、などとなっている。我が国では四七九門(内二門は米国での射撃訓練に際して輸送中に輸送船が沈没、九九式自走一五五ミリ榴弾砲二門と共に水没により損失している)が日本製鋼所によってライセンス生産され、最大のFH70ユーザーとなっている。

 さて陸自は現在火砲七〇〇門を保有している。内自走砲(多連装ロケット含む)が約五〇〇門、牽引砲が約二〇〇門(陸幕では各火砲個別の保有数は発表していない)となっているが、新防衛大綱ではこれが六〇〇門まで減ぜられている。
 自走砲の総数五〇〇から多連装ロケット(MLRS九〇輛、および七五式多連装ロケット二〇輛)一一〇輛を引くと、自走榴弾砲の総数は七五式一五五ミリ自走榴弾砲、九九式一五五ミリ自走榴弾砲、二〇三ミリを合計して約三九〇門。このうち今後増加するのは九九式のみで、七五式、二〇三3ミリ自走榴弾砲は今後減衰していく。
 
 ただし、九九式が北海道の部隊以外に配備されないのであればその総数は七五式の調達数より増えることはない。以上のことから新防衛大綱では自走榴弾砲の数は上を見ても一〇〇~一五〇門前後となるのではないだろうか。また七五式多連装ロケットも減損していく。

 となると、必要となるFH-70の後継は三六〇~四一〇門程度と推測される。FH70は九〇年代から既に駆動系など足回りの老朽化が指摘され、砲の部分を流用し、簡易型自走砲を開発する構想もあったが実現はしなかった。また七五式の射程延長などの近代化も検討されたがこれまた実現はしなかった。

 陸自の火砲の総数が大きく減らされるので、初期に生産された分から廃棄するにしても余剰となるものから部品を転用すればFH70はかなりの期間は現役に止まれる。しかしながら今後も使用するためには適宜オーバーホールが必要であるが、これには一回七〇〇〇万円ほどの費用かかる。このためできるだけ早期にかつ速やかに更新する方が保守コストは安く上がるであろう。

 陸自がどの程度を割合で牽引砲と簡易自走砲を採用するのは明らかではない。筆者が知るところでは、現在は将来の運用を見据えて、研究をしている段階であり、簡易型自走砲を採用しない可能性も無いわけではない。

 しかしながら、既に先述のカエサルは双日エアロスペースが、BAEシステムズ傘下のボフォースのアーチャーは丸紅が、BAEシステムズのポーティ・システム(後述するが自走砲ではない)および、M777超軽量砲を住友商事が代理店として動き出している。

カエサル 提供ネクセター


 戦後の自走榴弾砲は米軍のM109に代表されるように装甲化された装軌車輛で、旋回砲塔を持つものが主流となってきた。我が国の七五式、九九式もその系譜にはいる。これらの自走砲は牽引砲に比べ、迅速な戦術展開が可能である。また敵砲兵部隊からの砲撃などに対して高い生存性を持ち、迅速に射撃、目標の変更、撤収、陣地変換が可能である。

 しかしながら、ソ連崩壊に伴って欧州での機甲部隊同士が殴り合う、正面戦争の危機は薄くなった。これにともない機甲部隊は縮小され、装甲車輛は装軌式装甲車からより軽く、戦略移動性に優れ、整備及び調達コストの低い装輪装甲車にトレンドが移ってきた。

 この流れを受けて、簡易型自走砲と呼べる新しいカテゴリーの自走砲が登場してきた。在来型の自走砲より格段に調達・運用コストが低く、また牽引砲に比べて素早い展開、撤収が可能でこのため生存性が高い、しかも道路を高速で長駆でき、C130などの戦術輸送機で輸送可能な装輪式の簡易型自走砲が提案されるようになった。本稿では以後75式や99式のような自走砲を在来型自走砲とよび、トラックに砲を搭載したものを簡易型自走砲と呼び進めていく。   

 通常牽引式榴弾砲は要員、各種装備など搭載した牽引用のトラックとセットで運用されるが、そのトラックに砲を搭載したのがこの種の簡易型自走砲である。在来型の自走砲に比べれば、何しろ車体がトラックであるので、調達・運用コストは低い。一般に調達コストは牽引砲(+牽引用トラック)よりも若干高い程度である。

 整備、特に前線での整備も容易である。また道路ならば時速100キロ前後の速度で移動できる。つまり在来型自走砲の二倍程度の速度で移動できる。在来型の装軌式の自走砲では移動速度が遅く、また長距離を移動すると車体の整備が必要である。更に乗員の疲労も極めて大きい。
 それを補うのであれば、大型のトラックのトランスポーターに搭載して移動させるしかない。が、この「あったら便利」な車輌はどこの国の軍隊でも不足している。

簡易型自走砲のメリット

 更に簡易型自走砲はC130など戦術輸送機で輸送が可能である。これらの理由から迅速な戦略移動か可能である。これは余り指摘されないが、簡易型自走砲は牽引砲をトラックに牽引する場合に比べて全長が半分で済む。大部隊が移動する際にはコンボイを小さく纏められ、統制や容易になるという利点がある。

 牽引砲と比べれば要員が少なくて済む。通常の牽引砲が8~9名の要員が必要なところ、簡易型自走砲は4~6程度で、従来型自走砲と同等か若干多い程度である。このため牽引砲に比べて人件費が安く上がる。
 90年代先進国を中心に徴兵制から志願制に移る軍隊が多く、人員削減=人件費の抑制という面からこれは大きなセールスポイントである。更に、牽引砲に比べ生存性が高いことが大きなセールスポイントとなっている。車体に砲を搭載したままの「自走砲」であるので、走行から射撃開始、あるいは射撃から撤収にかかる時間は1、2分程度と短い。当然迅速な陣地変換も可能である。この点も牽引砲よりも有利である。しかもトラックのキャブが装甲化されているので、これまた生存性の向上に寄与している。

陸自のFH-70

 これらの利点は裏返せば、欠点でもある場合がある。従来型自走砲のように旋回砲塔を持っていないので、砲の旋回範囲が限定されており、急に目標が変更された場合は、一旦車体を動かして方向変換をする必要がある。またキャブが装甲化されているとはいえ、その他の部分は非装甲であり、被弾によって戦闘不能に陥る可能性は高い。また給弾など操作要員が車外で行う作業も多く、在来型の自走砲より生存性に欠ける。
 弾側車から給弾は人力に頼っており、昨今の在来型自走砲(PzH2000など)に比べれば要員の負担が大きい。

 しかしながら、今日の砲兵を取り巻く現状をみれば、メリットはデメリットを補ってあい余るものがある。特に牽引砲と比べた場合のメリットは大きいと考えられる。

 フランスの国営メーカーGiatの開発したカエサルCAESAR(CAmion Equipe d'un Systeme d'ARtillerie)はキャブを装甲化した6×6トラックにGIat社製の52口径155ミリ榴弾砲を搭載している。車体は試作ではソフラマ(現LOHR)の車体を使用したが、その後メルセデスのウニモグU2450 6×6トラックが選定された。しかしながら、この車体がカエサルの開発途中に生産中止なったので、生産型ではルノー・トラック・ディフェンスのシェルパ6×6の車体を採用している。

ルノー・トラック・ディフェンスのシェルパ6×6の車体を採用したカエサル

 キャブは要員(指揮官、運転手含)5名の座席と、弾道コンピューター(EADS/S&DE CS2002-G)、C3Iインターフェイス、無線機、ナビゲーターシステムが搭載されおり、エアコンは標準装備となっている。装甲は7.62ミリ弾に耐えられる。また増加装甲やNBCシステムはオプションで装備可能である。車体中央には砲弾(18発)及び装薬(モジュラー式)のコンテナが装備されている。

 主砲はフランス陸軍が採用しているGiat社の39口径TRF1をベースに開発されたものである。薬室はNATOの標準の23リッターで、射程は通常弾で35キロ、ベース・ブリード弾(ERFB)で42キロと、現在の他の長射程155ミリ砲と同等の射程距離を有している。またBONUSなどのカーゴ弾使用時の射程は35キロとなっている。
 
 BONUSはGiat、ボフォースの共同開発による赤外線センサーをもった対戦車子弾二発を内蔵する砲弾で二〇〇一年から生産が開始されている。対戦車子弾は自律的に装甲車輌を捜索し、目標を発見すると、目標の上部から爆発成形弾を発射する。
 子弾は、直径138mmの円柱形をしており、上部に多波長赤外線センサーとレーザー高度計を収納するセンサー部分、さらに板状翼および翼展開アームが取り付けられる。下部は爆発成形弾収納部分となっており、タンタル製ライナーと爆薬、起爆装置などを内蔵する。 将来的にはベース・ブリードにロケットアシストを併用すれば五〇キロ程度の射程を実現できるとしている。
 
 フランス軍は既存の自走砲AUF1(266門保有)を五二口径砲のAUF2を改修する。牽引砲はTR-F1(105門)であるので、カエサルの砲はこれらと同じものを採用しているので導入に際して兵站コストは最低限に抑えられる。

 射撃時には車体後部の駐鋤を降ろして、車体を固定する。砲の操作は車体後部左に装備されたコンピューターで行う。砲のエレベーション、尾栓の開閉、駐鋤の上げ下げなどすべて一人で操作が可能である。給弾はマニュアル式なので、これに3~4名の人員が必要である。仰俯角は-3度から+66度で、左右の射界は17度ずつとなっている。最大発射速度は毎分6発である。走行から射撃、射撃から撤収にかかる時間は一分ほどである。

 戦闘重量は17.7トンで、路上最大速度は時速100キロ、最大不整地走行速度は時速50キロで、航続距離は600キロである。C130戦術輸送機に搭載、及びCH-53Eによる懸吊による空輸が可能となっている。
カエサルはユーザーの要求により車体や火器管制システムなどを変更することができる。

カエサルは約17トン。c-130で空輸が可能だ。

 なお、Giatでは39口径の砲も搭載可能といっているが、実際に試作されたことはない。バックブラストなどを考慮するとより砲身の長い52口径の砲が安全かつ実用的とのことである。カエサルには同じトラックをベースにした弾側車が存在する。これはフラットな荷台に樹脂製の小型弾薬コンテナを多数搭載し、装備されたクレーンでこれらの弾薬の積み卸しをおこなう。
 フランス陸軍は03年にカエサルの採用を決定、72門をオーダーしており08年までに調達される。カエサルはタイ陸軍もとりあえず6輛を発注しており、更に12輛、最低18輛の発注が見込まれている。また06年には76輛の輸出が確定(国名は明らかにされていないが、サウジアラビアと目されている)。

ボフォースのFH77BW L52、アーチャー

 ついでボフォースのFH77BW L52、アーチャーであるが、FMV(Försvarets materielverkスウェーデン国防省軍需品管理局)の主導で開発されているスウェーデン陸軍向けの簡易型自走砲である。キャブを装甲化した6×6ボルボA30Dトラック(このモデルは民間の建設用などに多用されている)に、スウェーデン軍で採用されているFH77B牽引砲をベースに開発された52口径榴弾砲を搭載している。

アーチャー

 基本的にNATO規格に準じているが、薬室の容積は25.4リットル(dm3)と大きい。射撃時はカエサル同様に駐鋤を降ろし、車体を固定して行う。俯仰角は0~+70度となっているが、限定的ながら砲の旋回が可能であり、このため左右の射界はそれぞれ75度とかなり大きくとれる。
 また二〇〇〇メートルまでの距離ならば直接照準による水平射撃が可能である。

 他の多くの簡易型自走砲と異なるのは砲の基部に自動装填装置と弾薬収納庫が設けられていることである。弾薬収納庫には左右に分かれており、右側に20発の弾薬が搭載され、左側には装薬が18個のチューブに装備されている。バースト・モードでは3発を15秒で発射、弾薬庫収納庫搭載分の20発を2.5分で全弾発射できる。
 通常の発射速度は毎時75発となっている。無論、砲弾及び、装薬の選択、装填は全自動である。それとは別に同数の弾薬を車体に搭載している。

 カエサル同様ナビゲーション、砲口に装備されたマズル・ベロシティーシステム、弾道コンピューター、メインコンピューターが統合されており、情報はクルー全員が共用でき、迅速かつ正確な射撃が可能となっている。
砲の射程距離はベース・ブリード弾で四〇キロ、BONUSでは三五キロ、BAEシステムズ(実質的にはボフォースが担当)とレイセオンが開発しているGPS内蔵の誘導弾、XM982エクスキャリバーであれば六〇キロとなっている(エクスキャリバーは開発が遅れており、当初01年からの配備の予定が〇七年にずれ込む見込みとなっている)。

自動式で装填が迅速

 装填が全自動となっているため、走行状態から射撃までは三〇秒、射撃から撤収までにかかる時間は同じく三〇秒と、かなり短い。また装填が自動のため乗員は3~4名と在来型自走砲並に少ない。しかし、自動装填装置を採用したために戦闘重量は30トンとかなり重くなっている。このためカエサルのようにC130による空輸は不可能であるが、現在開発中のA400Mでの空輸は可能である。

 防御面に関しては全周的に七.六二ミリNATO弾のAPに耐えられ(レベル2)、車体下部は六キロのTNT相当の爆発に耐えられる(レベル2)。またキャブ上部には安定化装置付きリモート式の7.62機銃ターレット、LEMUR W(一二.七ミリ、四〇ミリグレネードランチャーも搭載が可)が装備されている。また加圧式の対NBCシステムを採用している。これらから生存性は簡易型自走砲としてはかなり高い部類にあると言える。機動力に関しては最大路上速度が時速七〇キロで、航続距離は400~五〇〇キロ程度となっている。また一〇〇センチの積雪でも走行が可能という。

 スウェーデン陸軍は当面二四門のアーチャーを購入する予定で、〇七年半ばから生産に入る予定である。同陸軍はかつて自走砲としてバンドカノンA1を保有していたが、現在はすべて退役している。このため現在同陸軍の砲兵隊はFH-77A及びFH-77Bの牽引砲のみを装備している。同陸軍は在来型自走砲を採用せず、今後砲兵はFH-77とアーチャーの二本立てとなる。

 その他、デンマークが二四門のアーチャーの購入予定であるが、最近になってM777(後述)超軽量砲に変更しようとの動きもある。またノルウェーが現用のM109A3GN(M109のノルウェー型)の後継として18~24門のアーチャーの調達を検討している。現在アーチャーにはオーストラリア、マレーシア、などが興味を示しているとのことである。
 またボフォースによると日本からはA30Dとは異なる車体の採用を前提での打診があったという。陸自の既存の車体であれば重装輪回収車用の車体を八輪のまま、あるいは六輪にしてプラットフォームにすることが想像される。

その後英軍向けにMANの8輪トラックベースのアーチャーが開発されている。

カエサルとアーチャーの違い

 カエサルとアーチャーの最大の違いは自動装填装置の有無である。自動装填装置を有さないカエサルは軽量でC130やCH-53Eなどで空輸でき、戦略機動性という面では若干有利である。反面、装填が人力によるので発射速度が制限され、単位時間あたりの投射鉄量はアーチャーに大きく劣る。要員数もアーチャーより2、3名は多く必要である。また砲撃中は要員の殆どが車外で作業にあたるので、攻撃に対して脆弱である。
 しかしながら、アーチャーの自動装填がどれだけ正確に可動するかは未知数である。
 
 同じ簡易型自走砲というカテゴリーでカエサルはより牽引砲に近く、アーチャーはより在来型の自走砲に近いといえよう。この違いは用兵思想と装備体系の違いから来るものであろう。ただ、スウェーデン、フランス両国に共通しているのは砲自体は、自国の他の一五五ミリ砲と共用化を図り、調達コスト、訓練、保守、兵站コストを軽減していることである。

 さて、第三の候補はBAEシステムズのポーティシステムである。本システムは自走砲ではない。BAEシステムズが開発した牽引式の39口径のM777超軽量榴弾砲をスパキャット(現ロッキード・マーチン)が開発した8×6軍用トラック、HMT(High Mobility Truck)と組み合わせたものである。砲は車体後方に搭載された状態で移動するが、射撃時は車体からクランク式のアームで下ろして行う。言わば、簡易型自走砲と牽引砲の中間的なシステムである。

M777 米陸軍提供

ここから先は

6,261字 / 3画像
この記事のみ ¥ 300
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

過去に書いた原稿に加筆したり、大人の事情で削除された箇所を掲載した記事です。

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?