東日本大震災、自衛隊災害派遣の教訓
2011年に月刊軍事研究に寄稿した、同年におきた東日本大震災における自衛隊の問題点を指摘した記事です。これらぼくの記事によってFFRSなどの信頼性の低さを防衛省もみとめてスキャンイーグル導入に繋がりました。ですが、無線機周波数など多くの共通が「都合が悪い」ので無視されたままです。
「史上最大の作戦」の裏で
3月11日に発生した東日本大震災に対する災害派遣で防衛省は史上最大の動員約10万六千名の動員が行われた。現場の部隊は懸命に任務を遂行しているが、彼らを充分にサポートする体制が整っていない。投入された人員が充分に力を発揮できる体制がない。
また、今回の大震災では自衛隊の体質に起因する問題点や欠点が浮き彫りとなった。自衛隊は、体制は平時を想定しており、戦時や戦時に匹敵するこのような大規模広範囲の「有事」を真剣に想定していない。今回の問題点を真摯に反省し、その改善を図らなければ同じような災害、あるいは戦時において極めて悲惨な結果を招くことになる。
しかし市ヶ谷のA棟ではそのような危機感が希薄であるように見える。筆者はこの件で少なからず与党の政治家にも接触したが、防衛省は政治家に対しては「現場の士気は旺盛であります。すべては上手くいっております」という大本営発表的な情報しか伝えていないようだ。これでは政治がまともなオーダーを出せるはずがない。
まず「兵隊」(士)の数が足りない。士長以下の士は定数の4割強しかいない。災害派遣の現場では若い士が圧倒的に不足していた。今回のような災害派遣だけでなく、戦時においてもこれは自衛隊の大きな弱点である。一個小隊の定員が30名として、現状の士の充足率ならば20程度の充足ということになる。マンパワーが足りないのは当然である、更にこのなかから死傷者がでれば分母が少ないだけに、部隊の戦力は一挙に低下する。特に負傷者を後送するとなると、それにも人手が取られるので一層だ。2~3人も死傷者がでれば小隊は戦力を完全に喪失する。
「兵隊」がいない自衛隊
しかも自衛隊の平均年齢は高い。実戦ではそれこそ不眠不休で何日も戦わなければならない場合も少なくない。一旦始まった戦争が数日で終わってくれればいいが、数ヶ月、数年も続く場合もある。このような体力勝負の時に、一線の部隊で若く体力がある「兵隊」が定員の半分もいなければ部隊の継戦能力は極めて低くなる。将兵の平均年齢は部隊の精強度を図るバロメーターの一つであることは筆者が今更指摘するまでもあるまい。
この問題は今防衛大綱でも現状の是正が謳われている。先述のように士長以下の任期制自衛官の実数は定数の四割強に過ぎない(グラフ1。このグラフの人数は、人員が急激に減る年度末実員を元にしている。より実情に近い年平均実員だと2万人程度になる。だが、その後、士クラスは7千名ほどに減員されているので、現状はこのグラフに近いものになっている)。

対して士長、准尉・曹、幹部、将官は概ね定員いっぱいに充足している。 また“高齢化”が進行している。若手である「士」の数が少ないために、自衛隊の平均年齢は2008年度で35.1歳と高い。ちなみに英軍は30.5歳と自衛隊よりも5歳以上も若い。1991年度の自衛隊の平均年齢は32.2歳だったので、これと比べても高くなっている。 しかも予備自衛官でこの士クラスの欠員を即座に埋めることもできない。
近年装備が高度化し、経験の浅い兵士では装備に習熟できない。故に下士官の数を増やす傾向は世界的にある。それをふまえてもこの士の少なさは異常である。士が少ない分、現場の曹クラスには負担がかかる。今回の災害派遣中二名の隊員が亡くなった共に四〇~五〇代である。現場に充分な士がいれば彼らが命を落とすことは無かったのは無いだろうか。
ここ一〇年ほど自衛隊は人員削減を行ってきた。本来この人員削減の目的は固定費たる人件費を削減し、浮いた費用で装備調達や、近代化などの費用を賄うためである。単なる人減らしではない。本来の意味での組織のリストラクチャリング(再構築)が要求されていた。固定費を減らすのがリストラの王道である。
ところが実際にやったことは、切り易いからと安直に一番人件費の安い士の数を、大量に減らした。人件費の高い幹部・曹の人事は手つかずどころか、逆に人数が増えている。1991年度から2008年度までに定員は2万9552人削減されたが、実員は5114名減に留まっている。そして実際に減ったのは2年契約の任官自衛官である士クラス、3万9457人だけだ。対して将官を含めた幹部は逆に1734人、曹クラスは1万2892人も増えている(グラフ2)。実際筆者と同世代のバブル時代に採用された1佐は大量にあぶれている。

しかも今後退職者が増えることによって退職金や若年定年退職者給付金などの支払いのため自衛隊の人件費は大きく増大する。2010年度を基準にすると2011年度は254億円の増、2014年度で653億円増、2018年度では683億円増が見込まれている(グラフ3)。

自衛隊を民間企業に例えるならば係長以上が正社員、平社員は契約社員だ。経営悪化によるリストラと称して、派遣社員である平社員を約六割も削減したが、逆に人件費の高い正社員を増やしている。これでは固定費である人件費が減るはずがない。人件費が増え、組織の活力を削いだだけだ。民間企業ならば倒産は必至だ。
次期防衛大綱では「自衛隊全体の人員規模及び人員構成を適切に管理し、精強性を確保する。その際、自衛隊が遂行すべき任務や体力、経験、技能等のバランスに留意しつつ士を増勢し、幹部及び准曹の構成比率を引き下げ、階級及び年齢構成の在り方を見直す。さらに、人員配置の適正化の観点から自衛官の職務の再整理を行い、第一線部隊等に若年隊員を優先的に充当するとともに、その他の職務について最適化された給与等の処遇を適用するなど、国家公務員全体の人件費削減の方向性に沿った人事施策の見直しを含む人事制度改革を実施する」としている。
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