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陸自の広帯域多目的無線機は使えない。

2023年に月刊軍事研究に寄稿した記事の改訂版です。

 陸上自衛隊では部隊での通信端末として広帯域多目的無線機(略称: 広多無(コータム))が採用されている。NECが開発していたソフトウェア無線技術が採用されており、波数帯域としてはHF・VHF・UHFに対応し、また音声通信とデータ通信の同時利用が可能となっている。所要のソフトウェアを使用することで、3自衛隊間およびその他の部外関係機関との直接通信が可能となっている。

 だがコータムは性能と使い勝手に大変問題がある。それを防衛省も陸上自衛隊幕僚監部も認めようとしない。総務省が防衛省に割り当てている電波の周波数帯は軍用無線に適しておらず、コータムは現代の無線機としてはアナログ、デジタルともに変調方式が大変遅く、伝送速度はVHFで約1kbpsでしかない。音声やメール、静止画像をおくるのが精一杯である。他国の用にデータや動画を送ることはできない。対して、HFデジタル通信の世界標準は128kpbsである。現在、米軍が使用しているUHF/VHF無線機は5G通信であり、10Gbpsである。これはネットワーク化が進む現代の軍隊では致命的な欠陥である。

2020年7月13日河野太郎防衛大臣(当時)は筆者の記者会見でのコータムの性能にかかる問題についての質問を受け、陸自にプレス向けのパフォーマンスを行った。だが、これは「ぜったい通じる」ように設定で実施したプロパガンダのための「見世物」ものだった。
会計検査院はコータムの性能不良改善のための改修を防衛省に勧告したが、2018年度の段階で19,357台中、ほぼ6割が未改修で放置されている。河野大臣の「パフォーマンス」の時点でも大した差はなかったろう。こんな茶番をやるくらいならば、欧米の主要無線機と実際に演習で性能を比較し、それを大臣に報告させればよかった。また大臣ならばそのような命令を出すべきだった。このパーフォーマンスによって河野太郎大臣はコータムの性能にお墨付きを与えてしまったことは大変問題だ。
河野大臣が正しく問題を認識して、調査と改善を命じていたらコータムの問題が解決していたかもしれない。大変残念である。

河野太郎大臣(当時)がプレス向けに行ったコータムのデモで展示されたコータム。

この件に関して筆者はその後も何度か大臣会見で質問
したが、歴代大臣は答えられず、それに対する本年4月防衛省の回答お通りだ。
「陸上自衛隊の広帯域多目的無線機は、陸上自衛隊の使用目的や運用ニーズを踏まえて開発を行ったもので、音声通信や動画の送受信に加え、メールの送受信、位置の把握、状況図の共有、部隊等の位置の共有、緊急性の高い状況の発信・受信などのデータ通信を行う機能を備えています。
広帯域多目的無線機は、平成24年度以降逐次整備してきたところですが、能力向上のための改修も逐次実施しています。引き続き、部隊運用に万全を期すとともに、今後、技術の進展を踏まえた対応についても検討することとしています」

 つまり問題は全くない、ということだ。そうであれば、なぜ故会計検査院から指摘されたのか。実は陸自の無線機が通じないというのは昔からだった。それはそもそも総務省が割り当てている、無線の周波数帯が軍用に適していないことが大きい。筆者は長年それを指摘してきた。演習ですら、無線が通じずに、隊員の個人の携帯電話がないと演習ができないという有様だった。これは多くの隊員が首肯するところだろう。

 その警告は2011年に発生した東日本大震災という「実戦」で明らかになったことを筆者は過去何度も報じた。だが多くのメディアは自衛隊の活躍の「美談」報道に終始してこの事実を報じなかった。
 陸自の無線が通じなかったのはいくつか理由がある。世代が異なる無線機で通信できないことが多発した。そもそも無線機の充足率が足りずに「なかった」部隊もあった。これが演習であれば他の部隊から借りて来ればなんとかなったが、陸自のほぼ総力出動となったこの震災では不可能だった。
 だが最大の問題は陸自の無線機が軍用戦術無線機に適さない周波数帯を割り当てられていることだろう。通信は「軍隊」の神経組織だ。それを陸自は長年軽視してきたのだった。震災後、さすがに無線が通じなかったことは問題となり、調査も行われたが、周波数帯の問題は放置されて、開発中だったコータムがそのまま採用された。

 先述のように筆者はこの件に関して防衛省に問い質し、情報通信課から周波数帯についてなんの問題もないと説明を受けた。だが常識的に考えても他国の使用する周波数帯から外れた特性が全く異なる周波数帯でなんの問題もないはずがないのは子供にでもわかる理屈だろう。

 本来軍用装備はその任務に適した周波数帯を採用する。それと異なる周波数帯を使って全く問題ないというのであれば魔法でも使うしかない。だがそれは不可能だ。例えばドローンだが海外では5.8~2.4GHzの範囲で自由な運用が認められている。
自衛隊は海外のメーカーが使用している5GHz帯を使用できず、2.4GHz帯を使用せざるを得ない。このため陸自が採用したボーイング社のスキャンイーグルも仕様を5GHzから2.4GHzに変更されている。だが慶応大学SFC研究所の部谷直亮上席研究員がWEGDEに寄稿した「有事に無力な日本の電波法ドローン活用に必要な覚悟」では以下のように述べられている。
「米軍が運用する米国製ドローン『Skydio2+』の通信距離は最大6キロメートルとされるが、これを日本の電波法に適した形で運用するとたった300メートル程度しか飛行できなくなってしまう」。また対ドローン機材を扱う企業の社長の言葉として「電波法の出力規制によって、対ドローン機材の有効射程距離は100メートル程度にまで低下する」という証言も紹介している。
 しかも外国製品を日本仕様にすることで、そのための検証も必要となり余計なコストがかかる。このため取得価格も高くなる。

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