#40「説明のつかない残高」母の記憶②
ピンポン──
玄関のチャイムが鳴った
体が動かない
高熱で、起き上がることもできない
誰でもいいから来てほしかった
ドアの向こうにいる誰かの気配に
私は少しだけ、ほっとした
「どうしたの? 調子悪いの?」
ドアの向こうにいたのは母だった
百貨店の紙袋をさげ母は部屋に入ってきた
何も言わず、ささっと洗い物を片付けて
「じゃあ何か食べる物買いに行ってくるわ」
そう言ってアパートを出た
Uber eatsもAmazonも無い時代
その背中を見ながら私は
「助かった…」と心の底から思った
そして、ほんの少しだけ母が優しく見えた
── 数日後
体調が戻り車検の支払いがあるので
お金を下ろしに銀行へ行った私
ん? 残高不足? なんで?
慌てて通帳を記帳する
残高 1万円
え? 何? なんで⁈
100万円はあった私の貯金
10代からコツコツ貯めた貯金!
キャッシュカードは財布の中にあるのになぜ?
車検の支払いもあるのにどうしよう…
頭が追いつかないまま
とにかく警察に行こうと思った
でもその前に、なぜか足は実家に向かっていた
「お金が誰かに引き出されてるのよ!」
そう言うと
母は一瞬だけ黙った
「いつもあんたの家に遊びに来てる
じゅんちゃんが怪しいわよね」
「人前で財布は出したらダメよ
気をつけなさいよ」
その言い方はあまりにも自然で…

警察ですべてを話した
── 数日後
逮捕されたのは母だった

大きなツバの帽子に
真っ黒のサングラス
なんやねんこの変装… バレバレやし…
防犯カメラにははっきりと
高熱を出したあの日、洗い物をして買い物に行った
あの人! "母"が映っていた

次回
#41 【燃えゆく愚かなプライド】母の記憶③―実際の写真あり
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