ショート物語#「人生最大のブーメラン」
俺はもう45歳のごく平凡な親父だ。
そんな俺には小学6年生の息子がいるが、息子の友達の1人に凄い子がいる。
なにが凄いかというと、その子は息子が唯一遊ぶ「女の子」であることと、彼女が地元では有名な財閥の「ご令嬢」であるということだ。
いい歳のおっさんのである俺は、彼女の肩書きだけで「うちの息子なんかと遊んでいていいのか…?」と身構えてしまうが、子供達の間では金持ちかどうかなんて関係ない。
ただの同級生で、仲の良い友達の1人だ。それ以上もそれ以下もない。
俺はまずこのピュアな関係を見て、「自分はいつからこんなに心が貧しい人間になったのか」という壮大なテーマを毎回突きつけられる。
息子とご令嬢が仲良くなったきっかけが「映画」だ。
この年でなかなか通というか渋いというか、息子もご令嬢も共に、映画の話ができるのがお互いしかいないから仲良くなったそうだ。
いいよな。こういう純粋な出会いやきっかけは。
そして、そんな息子やご令嬢は数ある映画の中でも「スティーヴン・スピルバーグ」の映画がお気に入りらしい。
いつも映画を見ながら「ここが面白い」「発想が凄い」「演出が天才」などと、可愛らしくも小生意気な評論会をしている。
別に聞き耳を立てているわけじゃないが、不意に聞こえてくる我が息子とご令嬢の評論会の会話は結構面白い。
おっさんの俺でも「ほぉ、そういう見方あるのか」とか「そんな裏話がね…」と、感心することも多い。
そんなある日のことだ。
俺はいつものように映画を見ている息子達に声をかけた。
俺「また映画見てるのか?」
息子「うん、何回見ても面白いからね、スピルバーグは!」
ご令嬢「ええ。彼は天才ですわ」
本当に生意気な小学生である。
息子「俺もスピルバーグみたいな映画を撮りたい!いや…いつか絶対撮る!」
ご令嬢「なら私もお手伝いしますわ!お金はいくらでもありますから、協力させてください!」
さすがはご令嬢、といった一言。
俺「そうか~、映画を撮りたいのか。でも、それは今のままじゃ出来ないと思うぞ」
もし今、目の前にデロリアンがあったとしたら、俺はこの瞬間に戻りたい。
“次”の言葉を発してしまう、この直前に戻りたい。
なんで俺は、こんな余計なことを言ってしまったんだろう──。
息子「え!なんで?」
俺が言ったことに疑問を浮かべた息子。
だから俺は答えたよ。何気なくね。全くの無意識だった。
俺「だってそうだろ?学校から帰ってすぐ映画観て、休みの日も映画観て。ずっと映画を見てばかりだ。確かに映画の勉強も大事だが、それよりもっと大事な学校の宿題はやったのか?
ちゃんと勉強しないと、スピルバーグみたいには監督にはなれないぞ。スピルバーグだって、お前達と同じ頃には勉強もして色々苦労してるんだ。
分かったらお前達も勉強しろよ」
俺がそう言うと、息子とご令嬢はお互い目を合わせた。
そして納得したのか、少し俯きながら俺に言った。
息子「確かに。それは一理ある。勉強もちゃんとしないと映画の学校も入れないよねきっと…。それにスピルバーグも僕と同じ頃には勉強も頑張っていたはずだし、僕達も勉強しないとね」
ご令嬢「仰るとおりですわ。私のお父様も、勉学に励みなさいとよく仰っておりますから…」
息子達は、俺が思った以上に素直なリアクションを返してきた。
俺「おお、素直だな。二人とも偉いぞ!」
評論会の真似事をしていても、結局はまだ子供。素直で可愛いもんだ。
俺がそんなことを感慨深く思っていると、息子とご令嬢が勉強しようと部屋を移動しようとした。
そして次の瞬間、俺が「デロリアンに乗って過去に戻りたい」と思う事件が起こった。
息子「さーて、勉強するか。あ、でもお父さん……」
俺「ん、どうした?」
息子「お父さんは子供の頃、ちゃんと勉強してなかったんだね」
俺「な、なんだ急に!?」
息子「だってさ、スピルバーグは今のお父さんと同じ歳の頃にはジョーズやET、ジュラシックパークを生み出して、世界中に感動を与える大人になっていたから──」
俺「ッ……!?!?」
ぐうの音も出ない。
俺は空いた口が塞がらなかった。
そんな俺をよそに、息子達は何事もなかったかのように、勉強するために息子の部屋へとスタスタ去っていった。
人生で一番の、特大ブーメランを食らった日だった。
それも我が息子から……。
この出来事をもし映画にしたのなら、俺は少しでも、スピルバーグに近づけるだろうか──?
【完】
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